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人生2周目の俺、バブル前夜から投資無双 ~未来を知っているだけなのに、気づけば日本最大の財閥を築いていました~  作者: なまら呑兵衛
第2部「崩壊を止める少年」

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25/26

第25話 二十歳の約束

一九九六年四月十日。

 俺は、二十歳になった。


 札幌駅前の、あの古い雑居ビルの三階。

 山岸投資顧問の事務所で、俺は一冊のファイルを受け取った。


「信託の、最終報告だ」


 山岸は、少しだけ誇らしげに言った。


「高野さんが亡くなった時点で、二億三千万円。去年、地震の研究の寄付に一割を出した。それでも、今日の時点で――」


 山岸は、ファイルの最後のページを開いた。


「五億二千万円」


 俺は、その数字を見つめた。


「マイクロソフトとインテルが、この三年で何倍にもなった。去年の夏には、君の言っていたネットスケープの上場もあった。初日に株価が倍以上になったよ。……本当に、君の言った通りだった」

「山岸さんが、判断してくれたからです」

「最後の判断は私がした。だが、どこに向かうかは、全部君が決めた」


 山岸は、ファイルを閉じて、俺の前に滑らせた。


「今日から、これは君のものだ。高野さんとの約束は、果たした」


 俺は、ファイルを受け取った。

 ずしりと重かった。


 五億二千万円。

 その数字の向こうに、祖父の几帳面な方眼紙が見えた気がした。


「山岸さん。一つ、お願いがあります」

「なんだい」

「会社を作ります。投資の会社です。山岸さんに、一緒にやってほしいんです」


 山岸は、眼鏡の奥の目を丸くした。


「……私と?」

「はい。俺は、まだ二十歳の学生です。会社の代表になっても、誰も信用しない。でも、山岸さんなら、証券業界に四十年近くいた人だ。信用がある」

「代表を、私に?」

「最初の数年だけ。俺が一人前になるまで。……祖父が、言っていたんです。全部を一人で背負うな、頼れって」


 山岸は、しばらく黙っていた。

 やがて、眼鏡を外して、目頭を押さえた。


「――高野さんは、本当に、最後まで人使いが荒い」


 山岸は、眼鏡をかけ直して、笑った。


「分かった。やろう。会社の名前は?」


 俺は、決めていた。

 祖父が亡くなった日から、ずっと。


「天城キャピタル」



 五月。

 東京・霞が関の、あの古い喫茶店。


 この喫茶店で向かい合うのは、六年ぶりだった。

 黒崎は、少しだけ老けていた。

 銀縁眼鏡は同じだが、髪には白いものが混じり、灰皿の吸い殻は四本に増えていた。


「二十歳になったそうだな。おめでとう」

「ありがとうございます」

「それから、会社を作ったと聞いた。天城キャピタル。……高野さんの孫が、投資会社か。省内でも、少し話題になっている」


 黒崎は、新しい煙草に火をつけた。


「今年の初めの国会は、ひどいものだった。住専の処理に、六千八百五十億円の税金を使うことになった。国民からは袋叩きだ」

「住宅金融専門会社……バブルの時に、土地にたくさん貸し込んだ会社ですね」

「そうだ。だが、本当の問題は、住専ではない」


 黒崎は、鞄から一枚の書類を取り出した。


「六年前、君が言った救急車の話を覚えているか。総量規制の通達に、一行だけ入れさせた、四半期ごとの報告」

「はい」

「あの報告のおかげで、大蔵省は、他のどの時期よりも早く、銀行の本当の傷の深さを掴めた。省内には、その数字を見て、早めに手を打つべきだと考える人間が、少しずつ増えてきた」


 黒崎は、書類を俺の前に置いた。


 北海道拓殖銀行。

 不良債権の推移を示す、手書きのグラフだった。

 祖父の方眼紙と、同じ書き方だった。


「君が六年前に言った通りだ。拓銀は、危ない。このままなら、あと一年か二年で、もたなくなる」


 俺は、グラフを見つめた。


 一九九七年十一月。

 前世の拓銀が破綻した日まで、あと一年半。


「省内で、一つの案が出ている。拓銀が自力で立ち直れなくなる前に、別の銀行に、北海道の事業を引き継がせる。倒れてから慌てて受け皿を探すのではなく、倒れる前に、受け皿を用意しておく」

「……救急車ですね」

「そうだ。だが、問題がある」


 黒崎は、煙を吐いた。


「受け皿になる銀行の、資本が足りない。それに、北海道の取引先の企業の多くが、拓銀と一緒に倒れかねない。国の金だけでは、全部は救えない」


 黒崎は、まっすぐに俺を見た。


「天城くん。六年前、私は君に言ったな。『救急車の運転手を、十年後に一人探している』と」

「……はい」

「四年、早まった」


 黒崎は、煙草を灰皿に押しつけた。


「天城キャピタルの金を、北海道に使ってほしい。拓銀と一緒に倒れかねない、技術を持った北海道の会社に。国が手を出せないところに、民間の救急車を走らせてほしいんだ」


 喫茶店の中が、静まり返った。


 五億二千万円。

 それは、ロケットの会社を作るための金だった。

 前世で、金が足りなくて夢が潰えた俺が、今度こそ手にした金だった。


 それを、北海道の会社を救うために使う。


 ――全員は救えん。救える者を救え。


 祖父の声が、聞こえた気がした。


 ――強くなれ。もっと大きな木になれ。そうすれば、残せる枝も増える。


「黒崎さん」

「……ああ」

「一つだけ、条件があります」


 黒崎が、わずかに眉を上げた。


「救う会社は、俺が選びます。土地や株で儲けようとした会社ではなく、技術と人の腕で、物を作っている会社を。……祖父の、選び方です」


 黒崎は、しばらく俺を見つめていた。

 それから、六年前と同じ、疲れた、皮肉っぽい笑みを浮かべた。


「高野さんの孫は、やはり、とんでもないな」


 黒崎は、手を差し出した。


「契約成立だ。救急車の運転手くん」



 その夜。

 俺は、東京の下宿の小さな机で、二通の手紙を書いた。


 一通目は、沙月に。

 同じ東京にいるのだから、会って話せばいい。だが、これは、手紙で書きたかった。


『沙月へ


 会社を作った。まだ投資の会社だけど、いつか、ロケットの会社も作る。

 その時、一緒に来てほしい。


 タカノ一号を、もう一度飛ばそう。

 今度は、三百十八メートルじゃなくて、宇宙まで』


 二通目は、モスクワへ。


『エレナ・ヴォルコワ様


 二年前の手紙で、会社を作った時に、なぜあなただったのかを話す、とお約束しました。


 会社を、作りました。


 ロケットの会社は、まだ先です。ですが、その準備を始めます。

 いつか、日本に来ていただけませんか。

 その時に、必ず、すべてをお話しします』


 二通の手紙を封筒に入れ、机の上に並べた。


 窓の外に、東京の夜空が広がっている。

 明るすぎて、星はほとんど見えない。


 前世の最後の夜、俺はこれと同じ東京の空の下で、一人で死んだ。

 もう一度ちゃんと星が見たかった、と思いながら。


 今は、違う。


 机の引き出しから、未来ノートを取り出した。

 小学三年生の時に書き始めた、色あせた大学ノート。


 一九九六年のページを開く。

 前世の記憶では、この年に書くべきことは、ほとんどなかった。前世の俺は、北大の工学部で、ただ授業に出ていただけだった。


 その余白に、俺は書いた。


『一九九六年四月十日 二十歳。天城キャピタル設立』

『一九九六年五月 黒崎さんと契約。救急車の運転手になる』


 そして、一行空けて、もう一行。


『次の目標:一九九七年十一月。拓銀を、救急車で運ぶ』


 ノートを閉じた。


 窓の外で、東京の夜が、静かに更けていく。

 どこか遠くで、救急車のサイレンが鳴っていた。



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― 新着の感想 ―
いや、流石に五億程度じゃ焼け石に水でしょ。それこそ最低でも100億くらいはないと。
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