帰宅した自宅での時間
電車が減速して大きく右カーブを描いて、駅を通過して、再び速度を上げた。
月明かりに見慣れた山のシルエットが浮かぶ。
車窓の風景が結子の住む街の夜景になった。
電車を降りて改札口を抜けると、タクシーが数台停まっている。
かつてはこの時間でも列をなしてタクシー待ちをする人と、入れ替わり立ち替わりやってくるタクシーで渋滞してたことのある駅前だ。
今はそんな面影もない。
乗り込んだタクシーの運転手に行き先を告げると、丁寧な返事で結子が思っていた通りのルートで、自宅の近所まで届けてくれた。
旦那は、昨日から週末まで出張でいない。
子供たちもそれぞれ自分の部屋で過ごしている時間だ。
玄関とリビングの灯りだけが点いている。
2階に上がって廊下を歩きながら
「ただいま」と声をかける。
それぞれの部屋からそれぞれのペースで、子供たちが顔を出して
「おかえり」と言ってくれる。
幸せな時間だ。
長女が
「ご飯食べた?」と心配してくれたが
「うん、食べてきた。」というと
「それならよかった。じゃあ、おやすみ。」と言って顔を引っ込めて部屋のドアを閉めた。
長女にならうように長男も次女も
「おやすみ」「おやすみ」と言って部屋に戻った。
結子も「おやすみ」と言って、自分の部屋に入ってカバンをデスクに置いた。
ポケットWi-Fiとスマートフォンを充電器に繋ぐ。
接続した瞬間、ポケットWi-Fiとスマートフォンの画面が明るくなるが、電車の中で見た
「HeaLing」の表示はどこにもない。
スマートフォンの画面にも「件数」と「開く」のアイコンは消えている。
念のためにスクロールしてみたが、何も出てこなかった。
「なんだったんだろうなぁ。」
結子は呟きながら、スーツを脱ぎ、ブラウスとスカートから、素肌にTシャツとスエットズボンに着替えて風呂場に向かった。
子供たちが入ってからずいぶん経つのだろう。
お湯の温度はずいぶん冷めていた。
「さっきのお湯の方が温かかったな。」と、結子は笑いながら追い焚きのボタンを押した。
鏡に映る自分の裸身を見た。
「ん?」
気のせいか肌トーンが少し明るくなった気がする。
バスルームの天井を見て照明器具を確認しても、昨夜から何も変わった形跡はない。
シャワーのお湯で全身を濡らす。
「あれ?」
結子の肌を滑り落ちる水滴が、いつもよりスムーズに感じるのと、身体に残った水滴の弾き具合が昨夜とは違う。
そう思って見ると心なしか、気になっていた顔の薄いシミも薄くなったように思えてくる。
「80%は水分で、塗っても飲んでも美肌効果はない、という科学的なエビデンスがあるのよ。
ま、気のせいでも良くなった気になれるならいいか。」
入念に全身を洗って、湯船に浸かる。
「ふぅ〜」
全身の力が抜けて行く心地よさに、結子は湯に身を預けた。
「リアルだったなぁ、あのお湯の感覚。
胸に出された時のあの粘液感。
最後の人のは、なぜこっちには来なかったんだろう。」
帰りの電車の中の出来事を思い返しながら、自分の身体を見る。
「雑誌の子、残してたな。」と、自分のVゾーンにあるアンダーを見る。
元々若い頃から処理したり、水着や下着からはみ出すことには無縁なほどの量と濃さだった。
それは今も変わらない。
「ああ、彼氏にしてあげてた彼女、胸の形良かったなぁ。
程よい大きさってやつ?ふふふ。
あねさんかな、ゆいさんって呼んでたな。
次回の講義でも来てたら、声をかけてみようかな。
さすがに彼氏には気まずい気がするけど、彼女に声をかけるくらいはできるかな。」
久しぶりに充実したバスタイムになった。
そのままの勢いで、電車で予定した通り本業の事務処理をやって見ると、いつも以上に円滑に短時間でできた。
こんな日もあるもんなんだな。
家の電気と戸締りを確認して、結子はベッドに入った。




