今も何食わぬ顔をして住みついている
翌朝の目覚めも、ここ数年で5本の指に入るほど清々しくバッチリだった。
「HeaLing効果かな。」結子は一人で笑った。
この日はインターネット生配信番組に挿入する、結子のチャレンジコーナー取材日である。
ゴルフ場とのタイアップで、コースをハーフ回って、クラブハウスと食事とお風呂の紹介をする取材内容になっている。
天気も良く、コースコンディションも上々で、ふだん120凸凹の結子が、ハーフ回って47で初めて50を切ることができた。
取材に付き合ってくださったレッスンプロのご厚意で、取材収録が終わってから居合わせた企業の社長と役員さんと一緒に、残りハーフのコースを回ってみた。
ちょっと崩れて52にはなったけど、今までになく身体が動いて、初めてラウンドトータル100を切って、99。
企業の社長さんから「今度のコンペに、一緒に参加してください。」というお誘いまでいただいた。
お風呂場では女性カメラマンからずいぶん肌艶を褒められて、少し調子に乗ってしまった。
入浴シーンなんて撮る予定なかったから水着も持って行ってなかったんだけど
「結子さんの肌が本当にきれいなんで、万が一のために厚めにタオルでガードしてもらっていれば大丈夫です。
寄りめでは全身は映さないので。」と言われて油断して調子にのった。
「サービスショット」とか、誰に何の役に立つサービスかわからないけど、カメラマンの子に撮ってもらった。
案外、思った以上にタオルが透けてる。まあヤバかったらカットしてもらえばいい。
年下の同性に肌ツヤを褒めてもらったのは、思いの外嬉しかった。
さらに2日経って、結子が大学の講義に出かける日。
あれから一度もポケットWi-Fiにも、スマートフォンにも、あの表示は一度も出なかった。
何度セキュリティソフトでチェックしても、ウィルス感染でもないようだし、気にすることもなくなりかけていた。
それよりも25年くらい前に、全国的に知られたある都市の大学で発覚した事件のことが、結子には気になって仕方なくなり、あの事件の時の記事やデータを集めてまとめてみた。
当時主犯と目された男生徒の父親と言われていた議員のことも、別の党の議員の伝手を伝って情報を得ることもできた。
いろんな候補者の選挙活動を手伝っていて良かった。
その中でも、数年前にその議員の孫が、結子が今通っている大学で起こしたとされる事件についてもわかったことがあった。
被害者の女子大生二人は、丸山先生たちの言った通り、泣き寝入りさせられたまま自主退学していた。
その後の消息は分からなかった。
掘り返すことは、彼女たちや彼女たちの周りの人にも迷惑だろう。
横川先生の同級生で同僚だった先生は、ご家族と一緒にかなり離れた街に引っ越して、家族で立ち直って暮らしているとのことだった。
「事件以来、消息が全くつかめない」と、前の飲み会でこぼしていた横川先生に、少しだけいい報告ができるかな、と。
あとは相変わらずの鬼畜ぶりだ。
結子の地元で起きた女性への接待強要事件だったので、結子も事件の内容は覚えていたが、当時の地元マスコミが沈黙した事件に、都市部の事件で主犯格の1人だった議員の息子、つまり父親が関わっていた。
県内にいくつかある地元経済組織の会の一つが開いた新年会で、地元の小さな金融機関の若い女子行員が2名、強要された接待行為を拒否したことが明るみになった。
接待行為を強要したのは、その経済組織会の代表を務める地元では大手のゼネコン企業の役員親族で、もう一人が例の国会議員の息子だったという話。
事件発覚後、その経済組織会はしばらく会長不在となり、表向きにはゼネコン企業も自粛の様相を呈したが、それが地元マスコミの一部の報道機関が、金融機関の女子行員が2名とも退職したことを伝えたまでで、以降の後追い報道を一切やめて口をつぐんでしまった。
新聞社やテレビ局のホームページに上がっていた、ネット記事の過去記事まで軒並み削除されたことも不信感を招いた。
県議会でも市議会でも全く議題にすら上らなかった。
なんとも中途半端な後味の悪い事件だったので、結子も覚えていた。
報道機関は、広告収入の減少を恐れたんだろう、というのと、地元市議や県議員であの企業を敵に回そうという議員は、おそらくいないだろうと。
国会議員とも繋がりが深く、企業献金でも有名なゼネコン企業だからなぁ、というのが地元民の見解だ。
ただこの事件で、議員親のコネ在職していた地元企業内での居場所を、対外的なケジメとして追われた息子は、自分の息子、つまり議員の孫、大学事件の首謀者を住まわせている、隣県の同じ企業支社に転勤したという。
この時期がどうも、あの大学での集団強姦事件が起きる少し前の時期、息子の入学式の半月ほど前の異動辞令だったらしい。
それ以降、父親への異動人事辞令は出ていないらしい
つまり親子揃って女性を弄んで、罪に問われることなく世に放たれている首謀者2名が、結子の勤める大学の県内に、今も何食わぬ顔で住みついているのだ。
注意喚起も含めて、まずはできるだけ早く丸山先生たち3人に報告して共有しないといけない。
そんな思いも秘めて、結子は定刻に入線してドアを開いた電車から、降車客が降り切るのを待ってから電車に乗り込んだ。




