奇怪な脳直受動能力がついたらしい
改めてスマートフォンのセキュリティアプリで確認するが
「安全です」という、いつも通りの見慣れた結果表示になる。
いつも通り、普段通りに使える。
スマートフォンのWi-Fi表示も、ポケットWi-Fiを認識したのか、いつもの扇形のマークになっていた。
ポケットWi-Fiの画面には「HeaLing」の文字が、あたかもそこに表示されるのが当たり前のように画面の一部に違和感なくレイアウトされる形で収まっていた。
「じゃあ、これはなんだろう。」
結子は、念の為にスマートフォンの電源を落として再起動させてみた。
スマホが立ち上がり始めるのを確認して、窓の外を見た。
窓ガラスに映る、白いブラウスに黒のジャケットを着た自分の姿越しに、夜の街の風景が窓の外を流れていく。
4人がけのボックス座席には、進行方向に向いて窓際に座る結子と、斜め向かいの通路側に、発車と同時に鞄を抱えたまま眠り始めた、部活帰りと思しき女子高校生の2人だけだった。
スマートフォンが立ち上がる。
やはり、「件数」と「開く」のアイコン表示が出た。
さっき「3件」だった表示は「4件」になっていた。
「増えた。」
結子はアイコンをタップしてみた。
スマートフォンの画面に変化はないが、結子の頭の中に直接、映像が届く。
かなりリアルな夢を見ているような感覚だった。
しかし自分は起きている。
車窓に映る自分も、当然だが目を開けて自分を見ている。
車窓に映る自分の斜め向かいで眠る女子高生も変わっていない。
だけど鮮明に、一人部屋で下着姿の男子大学生が下半身を曝け出して、雑誌の中の若い女性の裸姿が掲載されているページを開いて、しきりに手を動かしている。
「へえ〜。今時の雑誌ってここまで見せてしまうんだ。」
結子は、掲載されている全裸写真の若い女性の露出度と、それを結子でも知っている名前の雑誌が普通に掲載していることの方に驚いていた。今時はアンダーの処理が進んでいる女性の方が多いと聞いていたが、掲載されている女性はありのままだった。
なぜ大学生だと分かったかというと、広げられた雑誌の横に、今日結子が講義した受講者用資料が、結子の顔写真入りの講師紹介ページで開かれていたからだ。
学生番号と受講済みスタンプが、今日の日付で押されている。
結子も、45歳の女性として男性のそういう行為は知識として知っているし、高校生の男の子を持つ母親としても、男性が自分で、制欲しきれない時にそういう吐け方をすることも知っている。
だからその行為自体には
「ああ、自分でやってるんだ。」と思う程度で大した驚きはなく、むしろ
「こうして自分で処理してくれてたら、横川先生の同僚の方も二人の女子大生も傷つくことなかったのに。」と思いながら夢遊して見ていた。
やがて男子大学生の呼吸が荒くなり、手の動きが速くなったかと思うと、
「ああ、水戸先生!」
と、うめくような声を発して放出した。
さらにゆっくりと手を動かして、尿道に残っている粘液を絞り出す際の快感に浸りながら
「結子ぉ、あぁ、結子せん、せぇ、い。」と、その男子大学生は果て切ったようだ。
結子の脳内夢遊は、画面が切り替わり水深20cmくらいの薄暗い大きなプールに、カラフルな照明で彩られた程よいぬるま湯に、全裸で浸されて大の字になって浮かんでいるのか、微妙に背中がついている感覚がある結子を、俯瞰で見ている映像になった。
「ああ、水戸先生!」というさっきの大学生の声と共に、どこからともなく結子の胸に白い液体が放出された。
結子が見たいと思った部分を即座にクローズアップしてくれるようで、結子の胸にかかった白い粘液が、結子の左胸の裾野を流れて、結子が大の字まま浸っているぬるま湯にたどり着いた。
結子が浸っているぬるま湯に粘液が触れた瞬間から、粘液の中から次々と白いオタマジャクシのような生き物が現れてくる。
ぬるま湯に入った瞬間、一旦外に向かって泳ぎ出すのだが、泳ぎながらあっという間に3cmくらいの大きさになり、その大きさになるとみんな方向転換して、ぬるま湯の中に浸る結子の身体を目指して泳いでくるのである。
色といい艶といい、殻を剥かれたゆで卵の形そのものの頭だった。
楕円形の細い方を前に向けて泳いでくるのだが、楕円形の頭の長い方の直径の6倍ほどの長さの鞭毛がついている。
その鞭毛をしきりに動かして結子の身体に向かって泳いでくる。
彼らの目的は、結子の身体の中心部に入り込むことだという強い意志は感じる。
それにこれだけまとわりつかれていて不思議だが、結子の股間、VIOのぬるま湯に浸されているIOの部分には、一切侵入してこない。
まるで、すでにそこは誰かの所有物と厳格に共通認識されていて、絶対手を出してはいけないものとされているかのように統率されている。
結子には、絶対的な安心感すらある。
さながらゆで卵タイプの楕円形の頭のおたまじゃくしに、ぬるま湯に浸された全裸の股間部以外の全身を突つかれている状態。
ただし、皮膚を食い破って侵入しようというほどの力はまるでなく、脅威は全く感じない。
むしろ、ドクターフィッシュの水槽に入って古い角質を取ってもらっている心地よさの方が、感覚的には同一に近い。
その心地よさが全身の肌という肌から、結子の脳に送られ続けてくるのだ。
「これが、HeaLingってこと?」現実の感覚にいる結子がなんとなく理解する。
「悪くない。」
身体的感覚にも嫌悪感は全く感じない。
気持ち悪くないどころか、ずっといられる心地よさだ。




