鍵には触ることができる
「今も?」
「はい。今もですね。
だから結子先生が、あのマンションに『dungeon』モードで入って行ける方だったことが、由依さんにとってどれほど心強いことか計り知れませんし、僕にとっても大変ありがたいです。」と言う豊功の言葉に、結子は首を振って言った。
「いやいやいや。
私は何にもわかってなくて、ただポチったら飛んで行ってるだけ。
逆に私の方こそ、あんな世界を共有できる由依ちゃんがいてくれることがなによりも心強いわ。
それに外で見守ってくれてる豊功君がいてくれるわけでしょ。
それも心強いわ。
そうそう、私からも電話しようと思ったのはね、まあ今度会ってじっくり話す方がいいんだろうけど。
とりあえずね、5つくらい書き出したの。聞いてもらってもいい?」
「もちろん!どうぞ。」
「だけど、1つ目の
『なぜ、由依ちゃんが朝夕ともにあのマンションの前にいたのか。』の理由は、今さっきお聞きしたことだよね。
お母さんの事件の犯人の居場所らしくて怪しい、と。」
「そうですね、」
「じゃあ、2つ目ね。
なんで、由依ちゃんの口からピンポイントで17階という階数が出てくるのか、ってことなの。
それは、17階の人間の中にいるってことだよね?」
「いえ、確信はまるでないんです。
ただエレベーターの階を示すランプが、17階だけ赤く光ってるからだけです。
乗って17階に行ったことも、まだないんです。」
「あ、そういうことか。
私があのマンションのエレベーターを見た時も、17階だけ赤く光ってた。
私は、由依ちゃんに会う直前に行ってたけどね。」
「それがすごいよね、結子先生は。」
「いやぁ、なんか流れとノリでいっちゃった感じだったんだけど。
と、いうことは、3つ目で用意してた質問の、由依ちゃんもマンションの中に入ってエレベーターに乗ったことはあるのかってのは、マンションの中には入ったけどエレベーターには乗ってないってことかしら。」
「はい。
正確には、乗ってみたけど動かさずにすぐ降りたことはあります。」
「なるほど。由依ちゃんにとって、17階には何があるのかって私の疑問も、お母さんの事件の犯人の居場所として、疑わしいと思ってるってことだよね。」
「そうです。
ただまだ怖くて行けていません。」
「そういうことね。
でさあ、由依ちゃん。
あの空間ってね、自分の身体がすり抜けられるものと、触って動かせるものがあるの知ってる?
昼間にスマホのカメラ機能は使えるって、由依ちゃんに教えてもらってたから使ったんだけどさ。
すごく役に立ったの。」
「もう何から何まで結子先生には感心させられます。
早速カメラ使ったんですね。」
結子は、今日あのマンションの部屋で起きたことを、由依と豊功に、かいつまんで聞かせた。
豊功が、思わずといった感じで言葉を漏らす。
「先生、スゴ。」
「ホント。
それに何より、先生がそこにいてくれたおかげで、その女性は私の母のような被害に、最後のところ手前で、遭わずに済んだんですよね。
よかった、…ほんとに、よかった。」
「今言われるとそうね。
その時は、何かできないかと夢中だっただけだから。」
ふと思いついたことを豊功が言う。
「それって先生…
先生が時間稼ぎしてくれたおかげで、その女性はその部屋に行った痕跡も、その部屋にいた痕跡さえも、残さなくて済んだことになってるんじゃないですか?」
「そう言われたら、…そうか。なるほど。
なら、本当によかったわ。」
改めて、自分よりも冷静にみている豊功に、結子は感心させられつつ、結子は頭の中では
「あとはあの時受け取った推薦状の書類をどうするかだけのことか。」と、考える余裕も生まれてきた。
誰かと共有するってやっぱり大事だわ。
「ねえ、由依ちゃん。
私、今回のことであのモードで入った時に、手に触れられるものとすり抜けて触れないものがあったのね。
これって触れるものと触れないものの違いに、何か法則みたいなものがあるのかな。
あと写真も、撮れたけどフラッシュは相手に気づかれた。」
「私の方が、今回の先生のお話を聞いて、そうなんだ、って思う事ばかりだったんですけど、エレベーターを呼ぶボタンは押せました、
けど、エレベーターの中では開閉ボタンと17階のボタン以外は無反応でした。
他の階を押していくうちに、17階が押せてしまったので、3つの階数ボタンの同時押しをしてみたら、これには反応してくれて解除されました。
そのメーカーのエレベーターは、階ボタン3つ以上同時押しで、行き先キャンセルできるんです。
できたんで、それはすり抜けなかったというか、認識したのか感知したのか。」
「へえ〜、エレベーターにそんな設定があるのね。」
「そのメーカーだけですよ。他のビルの他のメーカーのエレベーターでは、通用しなかったです。
違うやり方でキャンセルできるのもあるみたいですけどね、素早く2度押しとか。
普段エレベーターのメーカーなんて意識しませんから。」
「そうよね。」
「あと、鍵の類は触れるのかもしれませんね。
ある朝、マンションの自転車置き場で、中学生の子が私の目の前で鍵をかけ忘れて離れたんです。
そこに隠れてた別の高校生くらいの子がその自転車に乗って逃げようとしたから、私、自転車の前輪のところまで行って、思いっきり鍵のバーを押し込んでやったんですよ。
そしたら鍵がスポークをロックして、自転車は動かなくなるし、鍵はチャリンと落ちるしで、中学生の子が振り向いて気づいたんで、高校生は自転車を捨てて逃げたから、盗まれずに済んだことがありました。
まあ、鍵の類って大まかすぎて法則にはならないでしょうけど。」
「そうね。でもなんとなく目安にはなりそうね。」




