女性に感じた影の正体
玄関から上がった先の部屋がリビングだった。
そのリビングに入った二人は、置かれたソファーの前に向かい合った。
男性はソファーに座り、女性に座るように促した。
結子は、女性の体から離脱するように後ろに下がり、女性が座ったソファーの後ろから二人を見ていた。
「御羽大工務店の社長様からのご紹介として承りました。
親父には昨日、あなたのことを伝えました。」と言って、男性は封書を1枚テーブルの上に置いた。
「ん?御羽大工務店?…の社長?
地元の小さな金融機関の若い女子行員が2名、強要された接待行為を拒否したのって…確か」
結子の中で結子の地元で起きた事件の記憶が蘇る。
さらに、ウグイス嬢でいくつもの選挙事務所に出入りした経験のある結子には、その封書が党の推薦状をもらうための何かの書類だ、と思い当たるところがあった。
「ありがとうございます。」と女性は封書を手にとって、大切そうに胸に抱えて、男性に頭を下げた。
「親父も期待している、と言ってました。」
「お父様にもよろしくお伝えください。本当にありがとうございました。」
男性に立ち上がって深々と頭を下げて礼を言って、受け取った封書を大切そうにカバンにしまった。
「親父が議員?コイツ…そういえば、地元選出の国政議員に似てる。」
結子は思い当たった。
結子の記憶が一気に動き出す。
議員の息子は確か広告代理店勤務で、金融機関の若い女子行員が強要された接待をセッティングしたと言われているヤツ。
企業の対外的体裁上とばされた先が隣県のこの県だった。
接待強要事件のあった地元経済組織の会合について、責任を取って地元経済組織の会頭を辞任したのは、御羽大工務店の会長だったが、実際に強要した実行犯は息子の社長で、裏で画策していたのが親族の系列広告代理店に勤める議員の息子だったと聞いている。
接待強要された工員が二人だったため、実は議員の息子も実行するつもりだったのではないかとも言われた。
コイツだ!
議員の親父に党の推薦状を口利きする見返りに、立候補希望者にはお金を用意させる。
用意させたお金は、直接受け取らず、御羽大工務店の社長に何らかの形で渡される。
そのお金で、御羽大工務店の広告費として、議員の息子の広告代理店の売り上げになり、議員の息子が上げた業績となる。
真偽のほどは定かではないし、正確には仕組みや金の動きが違うかもしれないが、知りうる情報記事ではそう書かれていた。
さらに金額が要求額に満たない場合は、何らかの別の形の補填が求められるとも。
男性が目を細めて、女性の身体を上から下まで舐め回すように見ながら低い声で言った。
「お伝えした金額には足りていないようですね。」
「はい。なのでその補填として。」と、うつむいて小さく言葉を吐いた女性の後ろに素早く回り込んだ男性は、いきなりガッチリと女性を後ろから抱きしめた。
女性にしては長身の結子と同じくらいの身長の女性よりも、頭一つ低い男性が、女性が座っていたソファーに立って、後ろからスーツのボタンを二つ外して、ブラウスの上から女性の胸を掴んだ。
後ろ上の位置から女性の胸を覗き込み、ブラウスのボタンを外していく。
女性もこうなることがわかっていたのか、強い抵抗を見せない。
マンションに入る前に結子が女性に感じた、一見凛として見える中に、説明のつかない弱みを握られた影のようなもの、の正体はこれだったようだ。




