選挙事務所に出入りした経験からくる女の勘
この機会に結子は試そうと思ったことがあって、エレベーターの出入り口前に立って、エレベーターの到着を待っている住人のふりをして待った。
二人は結子の存在などまるでないかのように、まさに空気の扱いで結子の身体をすり抜けて、エレベーターを待った。
離れてみると、結子の身体から二人と重なって見えるんだろうな、と思うような感覚だった。
やはり見えていないんだ。
当たってもすり抜けるんだ。
これが確認できただけでもよかった。
だが結子の好奇心は、二人と一緒にエレベーターに乗せてしまった。
乗り込んだのは男女二人だけだった。
男性が、手慣れた様子で迷うことなく17階のボタンを押した。
結子の顔が引き締まり、胸の鼓動と共に一気に緊張感が高まった。
エレベーターは物理的には17階に向かって上がっていた。
しかし結子の感覚は、エレベーターの床が透けて見え、黒く縦に掘られた暗い洞窟に落ちていくのが、結子の目に入ってくる景色情報と体感だった。
墜ちている。
やがてエレベーターは、目的の階に着いた。
チーン
17階に着いたエレベーターの扉が開いた。
結子の目には、黒く奥の見えない横穴が、不気味に大きく口を開けているように見えた。
エレベーターを降りる男女は、マンションの17階に降りた。
結子は、男女の後に続いて横穴の口に入った。
暗い横穴の壁をじっと見ると、うっすらと同じフロアのマンションの部屋の扉が見える。
さっき結子が外から見たマンションの17階には違いなさそうだ。
どうやら、暗い洞穴のような状態なのは、この男女が入ろうとする部屋だけのようである。
部屋の鍵を開けた男性が、膝から10cmほど下まで包むスカートとかっちり目のスーツに身を包んだ女性の姿を上から下まで見た後、中に招き入れ、誰もいないことを確認するように扉の外を見て、部屋に入って扉を閉めた鍵をかけたが、チェーンロックまではかけなかった。
外に取り残された結子が、扉の外からドアノブを掴むと「回して引いて開けられる」という普通の感覚があった。
一方で、ドアを押そうとしてみると、腕がドアの向こうにすり抜けた。
そのまま中に入ってみたら、身体ごと中に入れた。
すり抜けられたのだ。
ただ女性がまだ玄関土間にいたため、後からすり抜けて入った結子が見える人が見たら、女性と結子が一体化したように見えただろう。
この感覚にも結子は慣れてきた。
結子は、男性の視線を女性と同じ目線で見ることができた。
「こんなことができるんだ。」と思いつつ、男性の目線が気色悪かった。
かっちり目のスーツに包まれて、目立ちはしないが胸元を押し上げる胸の膨らみは、Bカップの結子よりも少し大きく、由依と同じくらいありそうだが、その胸を欲望を隠すことなく無遠慮に見てきたのだ。




