帰りの電車
そういえば、長女が大学合格の時にこんな風に私の腕を抱えてくれたな。
もう1年以上も前になる出来事を、結子はふと思い出して嬉しくなった。
「豊功のスマホでも撮っておいてよ。」と由依が言って、由依と結子の笑顔は、2台のスマホの中で同じ写真に収まった。
写真を確認する由依は、とても嬉しそうな顔をして
「結子先生、本当にありがとうございます。」と言いながらスマートフォンを抱きしめた。
「じゃあ先生、駅までご一緒しますよ。」
「あら、いいの?」
「もちろんです。豊功のアパートが駅の向こう側なんで。」
「あ、そうなの?じゃあ行きましょうか。」
「はい。」
由依と豊功に見送られて、結子が改札口からホームに抜けたところで列車が入ってきた。
改札で手を振る二人に見送られて、結子も列車の窓から手を振って座席に座った。
学校帰り会社帰りの時間帯からずれている電車なので空いていた。
乗り換え駅はすぐなので、ポケットWiFiの電源を入れてカバンに戻し、スマートフォンの画面だけ確認した。
乗り換え駅に着くと結子は、すでにホームに着いていた自宅の最寄り駅行きの電車に乗り換え、座席についてポケットWiFiをカバンから取り出す。
ポケットWiFiの画面に「Healing」と「dungeon」の文字が、ホーム画面の中に、レイアウト表示されていた。
スマートフォンのアプリケーション画面をスクロールして一番下のアプリにたどり着く。『BDFD』と書かれた鬼の面のアイコンをクリックすると
『Becoming a Demon to Fight for Dignity』というタイトルが立ち上がって、「Healing」と「dungeon」のボタンが表示された。
結子は、「dungeon」のボタンを押した。
ふわっと身体が浮く感覚があって、目の前に今朝見たマンションの入り口があった。
ふと由依のことを思い出して、周りを見回したが由依の姿はなかった。
「そりゃそうか。今頃は豊功くんと一緒だもんね。」
思い出し笑いしながらマンションの入り口に目をやると、会ったことも何かで見た記憶もないんだけど、結子と同じくらいの年齢の女性を連れてマンションに入ろうとする男性に「コイツ」っていう勘みたいなものが働いた。
男性の後ろに続いて女性にも、一見凛として見える中に、結子の中に説明のつかない弱みを握られた影のようなものを一瞬感じた。
とっさに、自分の前にある日向のはずなのに日陰のように薄暗くなっているゾーンを進んで、結子はマンションの中に入った。
入り口からエントランス、管理人室の前を通ってエレベーター前に向かう男女より、近道を抜ける形になるルートを駆け足で抜けた結子は、エレベーター前で二人を待つことができた。
6階にエレベーターがいることを示す階番号の表示が黄色で灯っているのとは別に、結子には朝と同様に17階のランプが赤く灯っているのが見える。
結子がボタンを押すと、エレベーターが結子のいる1階に向かってエレベーターが動き出した。結子の指にもボタンを押した感覚が普通にあった。




