共有している別の人の記憶で
屈託のない笑顔を見せる由依を見て、結子は
「どんなことにもポジティヴに捉えられる由依ちゃんだから、神様が与えたのね。」と言った。
「う〜ん、この記憶がなかっても私は私だし、あったらあったで、あるんだから私にいいように取るしかないかなと思ってるだけです。
ある日、なぜか分からないけれど突然入ってきたものだから、ある日突然、何の理由もなく消えてしまうかもしれないから、記憶がなくなっても記憶をきっかけに自分の能力として身につけたものにして持っていられるように、豊功を見習って努力したいと思っています。」
「なるほどね。
私だったら頼りすぎて、ある日突然記憶が抜け落ちてから慌てても、しばらく戻ることを信じて、後悔しながら待つんだろうな。
そのうち時間がもったいなくなって、別のことを見つけて動き出すタイプだけどね。」
「結子先生は、なんだかんだ言いながらきっかけを元に努力する人ですよ、きっと。
私が持ってる事務所に騙されてアダルトビデオの女優になった記憶の方。
お相手の豊功の記憶の男性は、幼なじみで小さい頃からいろんな習い事に取り組んでる彼女の姿を見て、彼女のことが好きになったんですって。
大学の法学部に在籍中に、彼女がプロレス好きってことを知って、格闘技の道場に通ったり、プロレス会場に足を運んできっかけを作ったんですけど、最初は
『久しぶり。懐かしいね』以外の感情はなかったんです。
豊功の記憶では、幼い頃から一途に彼女のことが好きで、もともと努力家の彼女が理不尽に騙されて、努力を搾取されていることが許せなくて、長くサポートしていくうちに心を許してくれていったそうです。
私の記憶の方でも、彼は久しぶりにあった同郷の幼なじみの一人でしかなかったです。
ああいう世界にいると、何人かの過去接点のあった同級生や上級生だった男性が、何かしらの思惑を持って接触してくるんですけど、彼もその一人かな、くらいに。
でも、約束をすっぽかしたり冷たくあしらった後でも、彼が誠意に満ちた熱意でずっと
『その事務所おかしいよ。理不尽だよ。』と諭し続けてくれた、彼の一途な誠実さのおかげでようやく元に戻れたんです。
自分でも『どこかおかしいな』と思うところはあったんだけど、どうしていいか分からなくて。それに契約書や法律のことを持ち出されると、よく分からないし、もう面倒くさくなってくるし。
彼と話すうちにそれが溶けていった感じ。
でも彼は、一緒に過ごす時間が増えても、一切手を出してこなかった。
結ばれたのは、訴訟判決が出て賠償請求の支払い命令で入金を確認できた夜のこと。
そこで、私のそのアダルトビデオ女優さんの記憶は止まってるんです。
豊功にあるお相手男性の記憶も、そこまでだそうです。
その先は多分、お二人が一緒に、全く新たな人生を共に進むことを強く決意されたから、そこまでのお二人の人生の記憶が前世扱いになったんじゃないかって、豊功と勝手に解釈して、案外しっくり納得できています。
その豊功の記憶の男性が、幼い頃から恋焦がれたお相手、つまり私の記憶になってるアダルトビデオ女優さんのお顔が、結子先生なんです。」
「ええっ?!」
「姿形、生まれ変わりのような人です、結子先生は。
少なくとも、恋愛対象の人物の記憶が、他人の記憶である豊功にとっては、声も立ち姿も振る舞いも顔もすべて同一人物なんだそうですよ。」
「まさか?」と、結子が両手で胸を隠すように手で胸を押さえると
「安心してください。
豊功は、今の結子先生の裸を見てるわけじゃない、見えるわけも見る術もないので、大丈夫です。
あの時の豊功が発射にのぼってる時に思い浮かべているのは、彼の記憶にある結子先生そっくりのアダルトビデオの女優さん。
ただ男性って、身近にいる好きな女性を想像して出すのが、満足感を得られるところがあるみたいで、出す身体の豊功は、結子先生を思って出そうとしてる。
多分あの発射の時に掴んだ私のおっぱいは、豊功の中では結子先生のおっぱいになってたはずです。」と、由依が言った。
「由依ちゃんはいいの?
自分がしてあげてるのに、ここってところで違う女の名前を呼ばれるんだよ。」
「その理由が、心底深いところでわかってるんで大丈夫です。
豊功の気持ち良さそうで、満足そうな顔を近くで見れるし、そのための結子先生の代わりなんて私には名誉なことです。
もちろん豊功だから、ですけど。豊功が、結子先生のおっぱいだと思って私のおっぱいを揉んでくれるのも嬉しいんですよ。」
「そんなこと言われると、本物を見られることがあるとがっかりされるのが辛いと思っちゃうわ。
見られることのないように気をつけないと。
由依ちゃんは、私より大きくて、ずっときれいなおっぱいしてるからなぁ。」
「あ、そうか。
先生は私のおっぱいも見てるんだ。」
「Tシャツ越しにね。俯いた時に襟元から覗いたのも見えたけど、大きくてきれいだな、って思った。
あ、さっきの講義直前に由依ちゃんが『それ見えてたの?』って、驚いた顔で私を見たじゃない。
あれって、あの時の私の頭の中に思い浮かべていたものが見えたってこと?」




