実在した二人のうちのひとりと接触
結子の講義は滞りなく進んで、終了時間までに5分ほどを残して予定内容を終了し、質疑応答の時間に入った。
2人の質問に結子が答えた終えたところで、終業のブザーが鳴った。
映写器材に接続された教室共有用のパソコンに差し込んでいたUSBメモリーを抜いて、持ち込んでいた自分のノートパソコンを畳んで、揃えた資料と一緒にバッグに入れる。
控室に戻れる状態で、教室を見ると受講者のほとんどが出ていた。
結子も片付け終えて、アシスタントについてくださっていた職員の方にお礼を言って、教室の出口を出た。
結子が教室を出たところで、外で待っていた1人の女子学生に声をかけられた。
結子も講義が終わって学内で見かけたら、声をかけたかった女子学生だった。
「水戸先生、お疲れ様でした。
情報学科2年の北岡と言います。
午後の講義も楽しみにしてますが、少しお時間よろしいですか。
私もこの後、先生の講義まで一コマ空いてるんですけど。」
「ありがとうございます、北岡さん。
実は私も、あなたにお会いしたらお話しを聞かせてもらえないかな、と思ってたことがあるんです。
よかったら私の控え室でお話ししませんか?」
「はい。ぜひお願いします。」
講義を行った教室から、今日結子が使用している控え室まで、同じ建屋で同じフロアで、それほど距離はない。
カードキーでドアを開けて、結子は由依を中に招き入れて、6人掛けテーブルの椅子に座るように勧めた。
講義の後、特に興味を持った受講者から質問を受けたり、もっと詳しい解説を求められたりした時に、個別もしくは小グループで対応できるようにしているようだ。
実際結子も何度か講義の後、2〜3人のグループや何人かの個別対応を行ったことが多いが、全員女子学生だった。
「そのバッグ、私も同じものを持ってるのよ。」と、2つの湯呑みにほうじ茶のパックを入れ替えながらお湯を注ぎながら、結子が言うと
「はい。水戸先生がお持ちなのを見て探してすぐに買いました。
いろいろ入って便利だし、デザインが可愛くて気に入ってます。」と由依が言った。
「ええっ?そうなの。
嬉しいこと言ってくれるじゃん。北岡さん、下のお名前聞いてもいい?」
ほうじ茶の入った湯呑みを由依の前に置きながら、結子が聞いた。
「ありがとうございます。いただきます。
下の名前は、由依と言います。と言うか…」
由依は、結子が由依の向かいの椅子に座るのを待って、結子の目を真剣に見ながら
「結子先生、私の下の名前はすでにご存知だったでしょ?
それも、私の彼氏の発射の時の彼の声で。」と言った。
意表を突かれる形で図星を突かれて、図星ごと突き抜かれた感じで、結子は固まった。
そんな結子に、顔を一気に恥ずかしそうな表情に変えた由依は、両手で顔を押さえながら
「やっぱり見られてたんだ。
ねえ、先生はどこからどこまで見てたの?」
見られてたことに確信はなかったけれど、結子の反応で自分が彼氏のを手コキで抜いてたのを、結子に見られていたことが明らかになったことへの、女子学生らしい恥じらいの表情だった。
「えっと、えっと、由依さん、ちょっと整理させてもらえる?
あのね、私も突然だったの。
信じてもらえないかもしれないけど、あの日初めて突然起きた出来事なのよ。
ポケットWi-Fiとスマホに初めて見る変な表示が出て、スマホの表示をタップしたら、由依ちゃんが彼氏の部屋のキッチンでいるのが、頭の中に出てきたの。
由依ちゃんのことも彼氏のことも、私なにも知らないのによ。
私電車の中にいてさ、私も電車の中にいる意識はちゃんとしてるのに、鮮明な映像と音で頭の中に直接見せられた感じなのよ。」
「そのポケットWiFiの表示って、これのことですか?」と、由依が自分のポケットWiFiをバッグから取り出して、表示画面を結子に向けた。
そこには「Healing」と「dungeon」の文字が、ホーム画面の中に当たり前にレイアウトされて表示されていた。
「そう、そう、これよ、これ!
これと同じ文字が私のポケットWi-Fiにも出てたのよ。これ、なに?」と言いながら、結子も自分のポケットWiFiをバッグから取り出して、、慌てた様子で由依に見せた。




