#16 「閃いた」
翌日の放課後。
俺は家事を一通り終えてからパソコンとにらめっこしていた。
「メール内容に間違いはない、よな?」
書いた文章を一言一句違わず読み上げてチェック。誤字脱字が無いことを確認し送信ボタンをクリックした。
そしてゆっくりと送信中のゲージが満タンになっていくのを見届けて背もたれに身体を預ける。
「見てくれるといいな」
送信先は昨今流行の兆しを見せているバーチャルワイチューバー……いやこの世界では"バーチャルワールドチューバー"だったか。
仮想の2Dアバターを用いて動画投稿や配信をしているユーザー。そのコンテンツの先駆けとなった張本人、天羽ハナコだ。
「さて動画編集でも……」
――ピコンっ!
パソコンから軽快な音が鳴る。
「まさか、な」
さすがに返信ではないだろうと思いつつ念のためメールボックスを確認。
「早すぎぃ」
まさかまさかであった。
受信したメールの送り主は天羽ハナコ。わずか数分の返信。
俺が送ったメールの内容は要約すると義母のライブハウスの宣伝用に作る2Dアバターを商用利用していいかの相談である。
事前に彼女が公開しているオープンソースソフトウェアのページで商用利用可の文言は確認しているが細かい部分で認識の違いがないか確認する必要があった。
そして彼女の返信内容は一言。
――君と話がしたい。
文言の下には電話番号まで丁寧に記載があった。
「この電話番号、ホームページのとは違うな」
俺は訝しげに思いながら家の据え置き電話からかける。
電話をかけてワンコー……
『リンカネちゃん!?』
「!?」
突然の大声に心臓が飛び上がる。
『あ、その、ライブ配信とか動画投稿してるリンカネさんでしょうか』
「あー、はい。そのリンカネで合ってます」
『わっ、わぁーっ!ほんものだぁ!』
彼女の配信時の声はボーイッシュな感じで低音に寄せた声質だったが、今は可愛い系のきゅんとするような声だ。
イメージと大きくかけ離れた反応に調子が狂う。
『あのぉー、ファンですっ』
「あぁ、ありがとうございます?」
『配信の時と声も一緒だぁ!ひゃーっ!』
うん、これでは話が全く進まない。申し訳ないが本題に入らせてもらおう。
「スゥーッ……天羽ハナコさんで合ってますね?」
『ッ!すいません。そうです。私が天羽ハナコです』
「よかった。あまりにも声が違っていたのでもし間違っていたらどうしようかと」
『声ですか。そうですよね。私、配信の時はボイスチェンジャーっていう声を変えるツールを使っているので』
ボイスチェンジャー!?
あれがもう実用化可能なレベルであるのか。これは驚いた。
後で詳しく話を聞きたいところだ。
「そんな秘密が……あぁ、これはここだけの話に留めておいたほうがいいですよね」
『あ』
『しまったぁあああ!』と受話器越しに頭を抱えているのが分かるくらい動揺している。
『この件はどうかご内密に』
耳元で囁くように可愛らしい声でお願いされてしまった。この人可愛いな。
礼とばかりに俺も真似するように囁くことにした。
「はい♪私たちだけの秘密ですっ♪」
普段は絶対にやらない甘々な感じで囁く。ちょっと恥ずかしい。
『ひゃひぃ……あ、閃いた!』
閃くな。なんとなく予想できてしまう。
「天羽さん、その閃きの件は後でゆっくり話しましょう」
『あ、すみません』
真面目なトーンで話を再開。今回こそ本題に入る。
「メールの件、内容に関しては認識の違いなどありませんか?」
『ないですよっ!オールオッケーです!』
「よかったです」
『オールオッケーなんですが、実は相談がありまして……』
「?」
数秒の間をおき、彼女はゆっくりと深呼吸してからおそるおそるといった具合で言葉を続けた。
『――新しいツールの実験……いえ、私とコラボレーション配信をしていただけませんか』
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。




