第6話:謎のオトコ
翌日。
翼が拠点に着くと、珍しく中が静かだった。
「……誰もいないのか?」
ドアを開ける。
中には榊と久我 智だけがいた。
智は机に突っ伏して寝ている。
榊は書類をまとめていた。
「おはよう」
「……おはようございます」
なんとなく敬語になる。
「翔と沙良は買い出しだ」
「なるほど」
「智、起きろ」
榊が机を軽く叩く。
「……起きてる」
「今絶対寝てただろ」
「目閉じて考え事してた」
「便利な言い訳だな」
そこへ勢いよくドアが開いた。
「ただいまー!」
森 翔が大量の袋を抱えて入ってくる。
「腕ちぎれる!誰か助けろ!」
「うるさい」
智が即答する。
続いて沙良も入ってきた。
「翔くんが余計なお菓子まで買うからだよ」
「活動の士気向上に必要!」
「自分が食べたいだけでしょ」
「……否定はしない」
いつもの騒がしさが戻る。
それだけで、部屋の空気が明るくなった。
「今日は近くの公園清掃と、倉庫整理だ」
榊が言う。
「好きな方選べ」
「公園!」
翔が即答する。
「外でサボれるし!」
「言っちゃってるじゃん」
沙良が呆れる。
「翼は?」
榊に聞かれる。
「……倉庫整理で」
「お、意外」
翔が言う。
「普通逆じゃね?」
「お前と離れたいんだよ」
「泣くぞ?」
結局、翔と沙良が公園へ。
翼、智、榊が倉庫整理になった。
倉庫は思っていた以上に物が多かった。
古い段ボール、使っていない机、イベント備品、なぜかラジカセ。
「これ絶対使わないだろ」
翼がラジカセを持ち上げる。
「翔が“エモい”って持ってきた」
智が言う。
「意味分からん」
「俺も分からん」
三人で黙々と片付ける。
榊は手際よく分類し、智は無言で運び、翼もそれに合わせる。
不思議と息が合っていた。
「翼」
智が突然口を開く。
「なんだ」
「前より表情増えた」
「……前?」
「昨日の前。来た初日」
言われて少し考える。
確かに最初は余裕がなかった。
今は、少しだけ肩の力が抜けている気がする。
「そうかもな」
「うん。今の方がマシ」
「褒め方下手か」
榊が小さく笑った気がした。
本当に一瞬だった。
奥の棚を動かしたとき、一冊の古いアルバムが落ちた。
「なんだこれ」
翼が拾い上げる。
表紙には何も書かれていない。
「それ、昔の活動写真」
榊が言う。
「見てもいい」
「別に困るもんはない」
ページを開く。
清掃活動、地域イベント、夏祭りの手伝い。
「なつかしい、去年のだ」
智が横から覗く。
何枚かめくった時だった。
翼の手が止まる。
一枚の集合写真。
みんなが笑っている。
その端に——
見覚えのない男が写っていた。
「……これ、誰だ?」
自然と口に出る。
榊の動きが止まる。
智も写真を見る。
「……昔いた人」
榊が短く答えた。
「今はいない」
「卒業したとか?」
「そんなところだ」
それ以上話す気はなさそうだった。
だが、翼は写真から目を離せない。
その男の顔に、妙な引っかかりがあった。
知っているような。
知らないような。
「翼?」
沙良たちが戻ってきた声で我に返る。
「ただいまー!公園、鳩に負けた!」
「どういう報告だよ」
翔が写真を見つける。
「お、懐かし!それまだあったのか!」
「この人、誰なんだ?」
翼がもう一度聞く。
翔は一瞬だけ黙った。
すぐにいつもの調子で笑う。
「昔の先輩だよ。めっちゃ頭いい人」
「へえ」
「でも急にいなくなった」
軽い口調だった。
なのに、その場の空気が少しだけ静かになる。
翼は写真を見つめる。
笑っている知らない男。
その顔が、なぜか胸に残った。




