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第5話:多忙な一日

 商店街イベントは、想像以上に忙しかった。


「翼くん、輪投げの輪足りない!」


「追加持ってくる!」


「翔くん、景品勝手に配らないで!」


「夢を配ってるんだよ俺は!」


「うるさい!」


 子どもたちの笑い声と、沙良のツッコミが広場に響く。


 翼は段ボール箱を抱えながら走っていた。


 輪投げコーナー、くじ引きコーナー、受付。


 あちこちで人手が足りない。


「部長、次どこだ」


 榊に声をかける。


「受付を手伝ってくれ。そのあとテント裏の備品確認を頼む。」


「了解」


「返事が軍隊みたいだな」


 横から翔が笑う。


「お前も働け」


「今働こうとしてたとこ」


「五回目だぞその台詞」


 受付には親子連れが列を作っていた。


 参加券を配り、案内し、質問に答える。


 自然と手が動く。


 初めてのはずなのに、妙に落ち着いて対処できた。


「翼くん、接客向いてるかも」


 沙良が感心したように言う。


「そうか?」


「全然慌てないし」


「……慌てる暇がないだけだ」


「それも才能だよ」


 そう言われると、少しだけ照れくさい。


 昼過ぎになると、人も増えてきた。


 小さな広場はかなりの賑わいだ。


 焼きそばの匂い。


 風船を持って走る子ども。


 笑う家族連れ。


 平和そのものの景色。


「翼ー!」


 翔が遠くから手を振ってくる。


「こっち来い!大事件だ!」


「お前が言うとろくなことじゃないな」


 行ってみると、そこには泣いている小さな女の子がいた。


「迷子らしい」


 翔が小声で言う。


「さっきからずっと泣いててさ」


 女の子は風船の紐を握りしめたまま、涙目で震えている。


 翼はしゃがみ、目線を合わせた。


「名前は何て言うの?」


「……み、みお」


「みおちゃんか。お母さんとはぐれた?」


 こくり、と小さくうなずく。


「大丈夫。すぐ見つかる」


 自分でも驚くほど自然に言葉が出た。


 女の子の呼吸が少し落ち着く。


「翔、放送頼めるか」


「任せろ」


「しっかりとな」


「俺をなんだと思ってる!」


「信用ゼロの男」


「ひどっ」


 翔が受付へ走っていく。


 その間、翼はみおの隣に座った。


「風船好きなのか」


「……うん」


「何色が一番好きだ?」


「ぴんく」


「じゃあこの風船、大事だな」


 女の子は少しだけ笑った。


「翼くん、すごいね」


 沙良が感心したように言う。


「子ども慣れしてる感じ」


「……そう見えるか?」


「うん。優しいし」


 優しい。


 その言葉が妙に引っかかった。


 昔の自分も、そうだったんだろうか。


 数分後、息を切らした女性が駆け寄ってきた。


「みお!」


「まま!」


 女の子が飛びつく。


 女性は何度も頭を下げた。


「ありがとうございました……!」


「いえ、無事でよかったです」


 そう答えると、女性は涙ぐみながら去っていった。


「いやー、翼ヒーローじゃん」


 翔が肩を組んでくる。


「離れろ」


「照れるなって」


「照れてない」


 榊が少し離れた場所から見ていた。


 目が合う。


 無言のまま、わずかにうなずいた。


 それだけなのに、妙に認められた気がした。




 イベント終了後。


 片付けを終えた頃には、空が赤く染まり始めていた。


「疲れたー!」


 翔が地面に座り込む。


「お前は体力なさすぎだろ」


「精神は元気」


「一番信用ならん」


「でも楽しかったね」


 沙良が笑う。


「翼くんも今日、すごく馴染んでたし」


「……そうか?」


「うん。昨日よりずっと自然だった」


 自然だった。


 その言葉が胸に残る。


 ここに来てまだ二日目。


 なのに、自分の居場所みたいに感じ始めている。


「翼」


 榊が声をかける。


「明日、時間あるか」


「まあ、特に予定はない」


「なら手伝え」


「雑な誘い方だな」


「断るのか?」


「……行くよ」


 翔が笑う。


 夕焼けの商店街を歩きながら、翼は少しだけ思う。


 記憶がなくても。


 過去が分からなくても。


 こういう毎日なら、悪くない。


 そんなふうに思ってしまった自分に、


 少しだけ驚いていた。

少し時間に余裕ができてきたので、毎日投稿できそうです。

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