第4話:サークル2日目!!
翌日。
目が覚めた瞬間、自分がどこにいるのか一瞬だけ分からなかった。
「……ああ」
昨夜、榊に案内された簡易宿泊施設の一室。
ボラサーの所属している大学と提携している安い学生向けの宿らしい。
最低限のベッドと机、カーテン、洗面台。
広くはないが、今の翼には十分すぎた。
ちなみに生活費は部長に出してもらっている。
外は晴れていた。
昨日の雨が嘘みたいな青空だ。
支度をする。
昼前に拠点へ着くと、すでに中から騒がしい声が聞こえた。
「だからそれは俺の席!」
「席って何。ここサークル室じゃなくて倉庫だから」
「心の席だよ!」
「意味分かんない」
ドアを開ける。
「お、翼!」
森 翔がすぐ気づいた。
「ちゃんと来たな!」
「来るって言っただろ」
「いやー新人って次の日消えるパターンあるからさ」
「どんなサークルだよ」
天野 沙良が笑いながら手を振る。
「おはよう、翼くん」
「……おはよう」
「まだ昼前だけどね」
「細かいな」
「大事です」
久我 智は窓際の椅子で本を読んでいた。
ちらっとこちらを見る。
「……来たんだな」
「まあな」
「ふーん」
それだけ言ってまた本に視線を戻した。
相変わらず掴みにくいやつだ。
「翼ー!」
翔が机を叩く。
「今日の重大ミッション発表します!」
「嫌な予感しかしない」
「商店街のイベント手伝いだ!」
榊 伸介が奥から現れた。
「騒ぐな。近所迷惑だ」
「部長、俺の熱意が抑えきれなくて」
「抑えろ」
即答だった。
「今日は商店街の子ども向けイベント補助だ」
榊が資料を机に置く。
「設営、誘導、片付け。以上」
「説明雑っ」
翔が叫ぶ。
「詳しくは現地で聞け」
商店街までは歩いて十分ほどだった。
天気も良く、人通りも多い。
昨日よりずっと明るい空気だ。
「翼くんって、歩くの速いね」
沙良が隣で言う。
「そうか?」
「うん。迷いなく進む感じ」
「……そういうもんじゃないのか」
「人によるかな」
その言葉に少しだけ引っかかる。
迷いなく進む。
自分では意識していないが、そう見えるらしい。
「着いたぞ」
榊の声で顔を上げる。
商店街の広場には、テントや机が並び始めていた。
風船、輪投げ、くじ引き。
子ども向けの小さな祭りのようだ。
「おおー!」
翔が無駄にテンション高くなる。
「俺こういうの好きなんだよ!」
「子ども側の感想だろ」
智がぼそっと言う。
「智、お前最近キレあるな」
準備が始まる。
机を運び、看板を立て、風船を膨らませる。
「翼くん、これ結んでくれる?」
沙良に渡された風船の紐を、翼は手早く結んだ。
「え、上手」
「そうか?」
「めっちゃ早かった」
「……なんとなく手が動いた」
自分でも不思議だった。
「翼、こっち手伝え」
榊に呼ばれる。
テントの支柱が少し傾いていた。
「これ押さえろ」
「こうか?」
「そうだ」
二人で支えると、ぐらつきが止まる。
「……助かる」
榊が小さく言った。
「珍しいな、部長が素直だ」
翔が遠くから茶化す。
「翔、お前は風船百個追加な」
「横暴!」
気づけば、翼は笑っていた。
昨日まで何もなかった自分が、誰かと並んで何かをしている。
それが少し嬉しかった。
準備が終わり、子どもたちが集まり始める。
賑やかな声が広場に広がる。
その景色を見ながら、翼は思う。
記憶はまだ戻らない。
自分が何者かも分からない。
それでも。
ここにいる時間は、嫌いじゃない。
「翼ー!」
翔が手を振る。
「ぼーっとしてると子どもに負けるぞ!」
「なんだその注意」
「戦場だからな、ここは」
「ただのイベントだろ」
笑いながら、翼はその輪の中へ歩いていった。




