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第33話:消えない約束

「今はまだ、思い出さないで」


 その言葉を最後に。


 少女の身体が光の粒になって崩れていく。


「待て!!」


 翼は反射的に手を伸ばした。


 だが届かない。


 指先は光を掠めるだけ。


「っ……!」


 少女は悲しそうに笑った。


 それは。


 別れを知っている人間の笑顔だった。


「また同じ顔してる」


 小さな声。


「え?」


 翼は聞き返す。


 少女は答えない。


 ただ。


 最後まで翼を見ていた。


 まるで。


 何年も会いたかった相手を見るように。


「やめろ!」


 翼はもう一度手を伸ばす。


「消えるな!」


 その瞬間。


 少女の瞳が大きく揺れた。


 光になりながらも。


 確かに笑った。


『ありがとう』


 声が聞こえた気がした。


 そして。


 少女の姿は完全に消えた。


 部室に静寂が落ちる。


 誰も動かない。


 誰も喋らない。


 数秒後。


 ひよりが小さく呟いた。


「……消えた」


 現実感のない言葉だった。


 だが。


 翼だけは少女が立っていた場所を見続けていた。


 胸の奥が痛い。


 理由も分からない。


 記憶もない。


 それなのに。


 涙が出そうだった。


「翼」


 澪が声をかける。


 しかし。


 その時だった。


 パキッ。


 小さな音。


 少女が立っていた場所に、


 何かが落ちている。


「……?」


 翔が近づく。


「なんだこれ」


 床にあったのは、


 銀色のペンダントだった。


 古びたデザイン。


 中央には小さな青い石。


「落としていった?」


 沙良が言う。


 翼はゆっくり拾い上げる。


 触れた瞬間。


 世界が反転した。


「っ!?」


 視界が真っ白になる。


 そして。


 知らない景色。


 未来の街。


 夕暮れ。


 屋上。


 そこには。


 少し年上に見える翼がいた。


 そして。


 隣にはあの少女。


 二人は笑っていた。


 今まで見たどの記憶よりも自然に。


『絶対忘れないから』


 少女が言う。


『それ、死亡フラグっぽい』


『違うし』


 未来の翼が笑う。


『もし全部なくなっても』


 少女はペンダントを握る。


『また見つけてね』


 そこで映像が途切れた。


「っ!!」


 翼は現実に引き戻される。


 呼吸が乱れる。


「翼!」


 沙良が支える。


「また記憶か!?」


 翼はペンダントを握り締めた。


 震える声で呟く。


「……約束した」


 全員が見る。


「俺」


 胸の奥が熱い。


 悲しい。


 苦しい。


 でも。


 今だけは確信できた。


「この子と約束してた」


 その瞬間。


 ペンダントの青い石が、


 微かに光を放った。

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