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第31話:A-01 その2

 この少女は。


 自分にとって、


 絶対に忘れてはいけない存在だった。


 翼は無意識に胸元を押さえる。


 心臓がうるさい。


 思い出せない。


 でも。


 忘れてはいけない。


 そんな矛盾した感覚だった。


「翼くん」


 沙良が心配そうに声をかける。


「……大丈夫?」


「分からない」


 正直に答える。


 翔がスマホを覗き込んだ。


「でもさ」


「ん?」


「探さないでくださいって言われて、探さないやついるか?」


 沈黙。


「それは……」


 ひよりが困ったように笑う。


「ちょっと気になりますね」


「ちょっとどころじゃないだろ」


 翔は腕を組む。


「しかも大学の近くにいるんだろ?」


「でも接触は推奨されてない」


 智が冷静に言う。


「危険性は考えるべきだ」


「だからって放置するのか?」


 翔の言葉に、


 智は少しだけ黙った。


「……放置はしない」


「じゃあ決まりじゃね?」


「お前、勢いだけで動くな」


「考えて動いてる!」


「考えた結果がそれか」


「それはそう」


「認めるな」


 いつものやり取り。


 部室に少しだけ笑いが戻る。


 だが。


 澪だけは笑っていなかった。


「……探さないで」


 小さく呟く。


「え?」


 沙良が振り返る。


 澪は写真を見つめていた。


「その言葉」


 震える声。


「どこかで聞いたことがある」


 翼が息を呑む。


「思い出せるか?」


 澪は目を閉じる。


「……駄目」


「でも」


 ゆっくり目を開ける。


「すごく、大切な約束だった気がする」


 その時。


 ひよりのスマホが震えた。


 全員が身構える。


 新しい通知。


 そこには短い文章だけ。


 《対象A-01の行動履歴を開示します》


「行動履歴?」


 智が眉をひそめる。


 画面が切り替わる。


 時刻。


 場所。


 そして。


 今日の記録。


 15:02 ○○駅到着


 15:17 大学方面へ移動


 16:05 学食付近滞在


「学食?」


 翔が声を上げた。


「いたのかよ!?」


「私たち大学にいたよね……?」


 沙良が呟く。


 誰も見かけていない。


 なのに。


 A-01は同じ場所にいた。


 そして最後の記録。


 17:43 ボランティアサークル棟付近通過


 全員が固まる。


「……は?」


 翔が目を見開く。


「ここじゃねぇか」


 部室に冷たい沈黙が落ちる。


 サークル棟の近くまで来ていた。


 つい数時間前に。


 それなのに。


 誰も気づかなかった。


「偶然じゃない」


 榊が低く言う。


「A-01は最初から翼を探していた可能性がある」


 翼は写真を見る。


 笑う金髪の少女。


 胸が締め付けられる。


 その時だった。


 コンコン。


 部室のドアがノックされた。


「失礼します」


 聞き覚えのない女の子の声。


 全員が一斉に振り返る。


 ドアがゆっくり開く。


 そこに立っていたのは。


 金色の髪をした、


 見知らぬ少女だった。

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