第29話:A-01
澪が頭を押さえる。
「っ……!」
冷静そうな澪が、苦しそうに顔を歪めていた。
「澪!」
翼が駆け寄る。
「大丈夫か!?」
澪は息を荒げながら写真を見つめる。
「知ってる……」
「え?」
「絶対に知ってるの……!」
震える声。
だが次の瞬間。
「名前が……出てこない……!」
まるで見えない壁に阻まれているようだった。
榊も険しい表情になる。
「記憶の操作か」
「そんなことできるのか」
智が聞く。
「未来の技術なら不可能じゃない」
榊は写真の少女を見る。
「だが、ここまで完全なのは異常だ」
翔が写真を覗き込む。
「俺は普通に知らない子にしか見えねぇぞ」
「それが普通」
澪が苦しそうに言う。
「問題は私達」
写真を見るたびに、
胸の奥がざわつく。
知っている。
だが思い出せない。
そんな矛盾した感覚。
その時だった。
ピッ。
ひよりのスマホに新しい文字が表示される。
《閲覧権限確認》
「また出た……」
ひよりが青ざめる。
さらに文字が続く。
《対象コード:A-01》
《保護対象》
《検索許可》
「検索許可?」
沙良が首を傾げる。
「つまり探していいってことか?」
翔が言う。
しかし。
その直後だった。
画面がノイズで乱れる。
そして最後の一文が現れる。
《ただし接触は推奨されない》
全員が固まった。
「は?」
翔が声を漏らす。
「探せ。でも会うな?」
「無茶苦茶だろ」
智も眉をひそめる。
榊は静かに目を細めた。
「……嫌な予感がするな」
その時。
翼の頭に再び断片が流れ込む。
夜。
雨。
駅のホーム。
金髪の少女が立っている。
振り返る。
そして微笑む。
『見つけないで』
優しい声。
なのに。
どこか悲しかった。
「っ!」
翼は頭を押さえる。
「翼くん!?」
沙良が支える。
「今度は何見たの!?」
翼は荒い息を整える。
「駅だ」
「駅?」
「それと……」
写真の少女を見る。
「この子の声を聞いた」
部室が静まり返る。
「何て言った」
榊が聞く。
翼はゆっくり答えた。
「——見つけないで」
澪の顔色が変わった。
その反応を見て、
全員が気付く。
この少女はただの重要人物じゃない。
もっと深く、
未来の橘翼に関わる存在だ。
そしてその時。
ひよりのスマホに最後の通知が届く。
画像ファイル。
添付されたのは一枚だけ。
現代の風景だった。
どこかの駅。
そしてホームの端に、
金色の髪の少女が小さく写っていた。
写真の右下には日時。
撮影時刻:3時間前
全員が息を呑む。
A-01は。
過去でも未来でもない。
今、この時代にいる。




