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第26話:夢の中の街

 部室の空気は重かった。


「最悪の場合、ひよりだけじゃ済まない」


 榊のその言葉が、全員の中に沈んでいた。


「……どういう意味ですか」


 沙良が静かに聞く。


 榊は少し黙る。


 代わりに澪が答えた。


「時間軸崩壊は、感染みたいに広がる」


「感染……」


 翔が顔をしかめる。


「いや、意味分かんねぇって……」


「分からなくて正常」


 智が低く言う。


 翔は少しムッとした顔をする。


「お前は冷静すぎんだよ」


「パニック担当がいるからバランス取ってる」


「誰がパニック担当だ」


 いつものやり取り。


 ほんの少しだけ、空気が軽くなる。


 でも。


 ひよりだけは笑えていなかった。


 自分の右手を見つめている。


「……私、本当に消えるんですか」


 小さな声。


 翼はすぐ答えた。


「消えない」


「でもさっき……」


「それでもだ」


 翼は真っ直ぐ言う。


「お前はここにいる」


 ひよりは少しだけ目を伏せた。


「……ありがとうございます」


 その声は、いつもより弱かった。


 澪が静かに口を開く。


「ひより」


「はい」


「夢のこと、もう少し詳しく教えて」


 ひよりは頷き、ゆっくり話し始める。


「場所は毎回違うんです」


「違う?」


「でも空はいつも赤くて」


 翼の胸がざわつく。


「街が壊れてて、音がすごくて」


 ひよりは頭を押さえる。


「あと……」


 一瞬、迷う。


「翼さんがいるんです」


 空気が止まった。


「俺が?」


「はい」


 ひよりは翼を見る。


「今の翼さんじゃなくて……もっと怖い感じの」


 その言葉に、澪の表情が揺れる。


「武器持ってて」


 翼の頭に、断片が走る。


 黒いコート。


 崩れた道路。


 誰かを庇う自分。


『先に行け!!』


「っ……!」


 頭痛。


 沙良が心配そうに支える。


「また……?」


「大丈夫だ」


 そう言ったが、全然大丈夫じゃなかった。


 ひよりは続ける。


「それで、翼さんが誰かと喧嘩してて……」


 澪が小さく息を呑む。


「誰と」


「分からないです」


 ひよりは苦しそうに目を閉じる。


「でも最後に」


 部室が静まり返る。


「“CTL”って聞こえました」


 その瞬間。


 澪の顔色が変わった。


 榊も目を細める。


「……あり得ない」


 澪が低く呟く。


「どうした」


 翼が聞く。


 澪は数秒黙ったあと、静かに言った。


「“CTL”は、クロスリンク内部の緊急停止コード」


「緊急停止?」


「時間軸接続を強制遮断する命令」


 翔が頭を抱える。


「専門用語多すぎる!」


「つまり」


 智が整理する。


「ひよりは、本来知るはずのない未来側の情報を夢で見てる」


「……そう」


 澪の声は重かった。


「普通の人間なら絶対にあり得ない」


 その時。


 ひよりのスマホが鳴る。


 本人も驚いた顔で画面を見る。


「……知らない番号」


 全員の空気が張り詰める。


「出るな」


 榊が即座に言う。


 だが。


 スマホが勝手に震え始めた。


 画面にノイズが走る。


 そして。


 スピーカーから、微かな音声が流れる。


『——確認』


 機械みたいな声。


『観測対象、磯部ひより』


 部室の空気が凍る。


『排除プロセスを開始します』

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