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第24話:ここにいる証明

「……え?」


「なんでそんな顔してるんですか?」


「いや、ごめん」


 翔が頭を押さえる。


「本当に分かんねぇんだ」


 ひよりは立ち尽くしていた。


「翔先輩……?」


 その呼び方にも、翔は反応しない。


「俺、会ったことある?」


 翼は拳を握る。


 ひよりは昨日までここにいた。


 朝から騒いで、


 意味不明なテンションで笑って、


 皆と一緒に活動していた。


 それなのに。


 “存在そのもの”が薄れている。


「翔くん!」


 沙良が強く言う。


「一緒にたくさんボランティアしたでしょ!?」


「だから……」


 翔が苦しそうに顔をしかめる。


「写真とか話聞くと、“そうだった気”はするんだよ」


 でも。


「顔見ると知らないやつなんだ」


 ひよりの表情が少しずつ曇っていく。


 いつもの元気さが消えていた。


「……私、いましたよね?」


 小さな声。


 誰に向けた言葉か分からない。


「いた」


 智が即答した。


 全員が見る。


 智は椅子に座ったまま、ひよりを見る。


「毎朝うるさかった」


「智先輩」


「張り切りすぎて酸欠になってた」


 ひよりの目が少し見開く。


「……ありましたね、それ」


「あと翔に変なあだ名付けてた」


 翔が顔を上げる。


「え、何それ」


「“陽キャゴリラ先輩”」


「待て覚えある気がする」


 その瞬間。


 翔の表情が少しだけ変わった。


「……あ」


 頭を押さえる。


「なんか、声……」


 澪が目を見開く。


「戻りかけてる……?」


 榊は低く言う。


「感情の記憶が引っ張ってる」


「感情の記憶?」


 沙良が聞く。


「“感覚で覚えてる記憶”だ」


 翼はひよりを見る。


 ひよりはまだ不安そうだった。


「……私、消えるんですか」


 静かな声。


 その言葉に、誰もすぐ答えられない。


「消えない」


 翼が言った。


 ひよりが顔を上げる。


「でも……」


「消させない」


 翼は真っ直ぐ言う。


「お前はここにいる」


 部室を見回す。


「うるさいし、空気読まないし、朝から元気すぎる」


「悪口ですか!?」


 反射的にひよりが返す。


「ほらそういうとこ」


 少しだけ笑いが漏れる。


 重かった空気が、ほんの少し緩んだ。


 その時。


 翔が小さく呟く。


「……ひより」


 全員が止まる。


 翔は頭を押さえたまま、苦しそうに言う。


「磯部……ひより」


 ひよりの目が大きく開く。


「翔先輩……!」


「なんか、無理やり思い出してる感じで気持ち悪ぃけど……」


 翔は顔をしかめる。


「確かにいた」


 澪が静かに息を呑む。


「この世界との繋がりが強くなっている」


 澪はひよりを見る。


「“ここにいる”って認識が戻れば、消失を遅らせられる」


「遅らせる?」


 翼が反応する。


 澪は少し黙った。


「……完全に止めるには」


 その時だった。


 部室の照明が、一瞬だけ明滅した。


 ピシッ。


 空間にノイズが走る。


「っ……!」


 ひよりの右手が、一瞬だけ透けた。

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