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第20話:来訪者その2

 駅前での出来事のあと。


 空気は、目に見えて変わっていた。


 誰も何も言わない。


 でも全員、考えている。


 未来。


 管理局。


 世界の崩壊。


 そして——翼。


 拠点へ戻る道中も、いつもの騒がしさはなかった。


 翔ですら静かだった。


 重たい沈黙を破ったのは、ひよりだった。


「……あの」


 小さな声。


 いつもの勢いがない。


「翼さんは、翼さん……ですよね?」


 全員の視線が集まる。


 翼は少しだけ目を伏せた。


「……分からない」


 正直な答えだった。


「俺自身、何が本当なのか分かってない」


 ひよりはぎゅっと袖を握る。


「でも!」


 少し強く言う。


「未来人でも何でも、翼さんは翼さんです!」


 一瞬、空気が止まった。


 その言葉は、あまりにも真っ直ぐだった。


 翔が小さく笑う。


「ひより、そういうとこ強いよな」


「だってそうじゃないですか!」


 ひよりは真剣だった。


「今まで一緒にいた翼さんが急に別人になるわけじゃないです!」


 沙良も静かに頷く。


「……うん」


 翼は言葉を失う。


 未来がどうとか。


 使命がどうとか。


 それはまだ分からない。


 でも。


 今ここにいる自分を見てくれている人がいる。


「……ありがとう」


 小さく呟く。


 その時だった。


 榊のスマホが震える。


 ピロン、という普通の通知音。


 でも。


 榊の表情が変わった。


「部長?」


 榊は画面を見る。


 数秒。


 そして静かに言った。


「……今日は解散だ」


「え?」


 翔が反応する。


「急だな」


「用事ができた」


 その声が妙に硬い。


 翼は気づく。


 “未来ことの何か”だ。


「翼」


 榊が短く言う。


「少し来い」


 空気が張り詰める。


「え、俺らは?」


 翔が聞く。


「今日は帰れ」


 榊はそれ以上説明しなかった。


 翼は数秒迷い、


 そして頷く。


「……分かった」


 沙良が不安そうに見る。


「翼くん」


「大丈夫」


 反射的にそう答えた。


 でも、自分でも確信はなかった。


 拠点を出る。


 夕暮れの街。


 榊は無言のまま歩いていた。


「……何があった」


 翼が聞く。


 榊はすぐには答えない。


 しばらく歩き、


 人気の少ない歩道橋の上で止まった。


 風が強い。


 空は赤く染まっている。


 榊はスマホを取り出した。


「……通信じゃない」


「え?」


「未来からの直接転送だ」


 その言葉の意味を理解する前に。


 空間が、歪んだ。


 歩道橋の中央。


 空気がノイズみたいに揺れる。


「っ……!」


 次の瞬間。


 人影が現れた。


 黒いコート。


 長い銀髪。


 鋭い目。


 年齢は二十前後。


 女性だった。


 彼女は周囲を一瞬だけ確認し、


 そして翼を見た。


 その瞬間。


 表情が、わずかに崩れる。


「……ほんとに、生きてる」


 その声には、


 今まで聞いたどの未来側の人間よりも感情があった。


 翼は呆然と立ち尽くす。


 女性は数歩近づく。


「翼」


 その呼び方だけで分かった。


 この人は、


 自分を知っている。


 深く。


 昔から。


 女性は震える息を吐き、


 そして静かに言った。


「久しぶり」


「……誰だ」


 一瞬だけ。


 本当に一瞬だけ。


 彼女は傷ついたような顔をした。


 だがすぐに隠す。


「……そうだよね」


 そして。


「塩崎澪」


 その名前を聞いた瞬間。


 翼の胸の奥で、


 何かが大きく脈打った。

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