第19話:白銀悠真
場の空気が凍っていた。
「……おいおい」
最初に口を開いたのは翔だった。
「何その重い話」
悠真は翔を見る。
だが、特に反応はしない。
「今は関係ない人間には説明できません」
「感じ悪っ」
翔が眉をひそめる。
いつもの軽い調子ではあるが、声には警戒が混じっていた。
沙良は翼のそばにしゃがむ。
「大丈夫?」
「……ああ」
頭痛は少し引いていた。
でも胸のざわつきは消えない。
白銀悠真。
初めて会ったはずなのに、どこか懐かしい。
それが逆に不気味だった。
「榊さん」
悠真が静かに言う。
「時間がありません」
「分かってる」
「なら、もう隠してる場合じゃないでしょう」
榊は黙る。
その沈黙が、逆に答えみたいだった。
「部長」
翼が立ち上がる。
「……全部知ってるんだな」
榊は数秒、翼を見つめた。
そして、小さく息を吐く。
「全部じゃない」
「でも未来のことは知ってる」
「ああ」
駅前の雑踏がやけに遠く感じる。
翔が困惑した顔で笑った。
「いや待て待て。未来って何?SF?」
「翔くん……」
沙良もさすがに笑えない。
智だけは静かだった。
表情は変わらない。
でも、じっと榊を見ている。
「……本当なのか」
智が低く聞く。
榊は否定しなかった。
その瞬間。
全員の空気が変わる。
「は?」
翔が固まる。
「いや、え?マジで?」
「信じなくてもいい」
榊が言う。
「だが、翼に関しては事実だ」
ひよりが不安そうに翼を見る。
「翼さん……未来から来たんですか?」
「俺にも分からない」
翼は正直に答えた。
「……でも、多分そうらしい」
悠真が静かに口を開く。
「橘翼は管理局特務班所属」
「おい」
榊が止める。
「もう遅いですよ」
悠真は視線を逸らさない。
「彼は未来で、“クロスリンク”の中核だった」
Cross Link。
その単語が響いた瞬間。
頭の奥で何かが弾けた。
暗い空。
崩壊した都市。
誰かの叫び声。
『翼!!』
血。
炎。
そして——
『お前だけでも行け!!』
「っ……!」
膝が揺れる。
「翼!」
沙良が支える。
息が苦しい。
脳が無理やり開かれていくみたいだった。
「刺激するなと言っただろうが」
榊が低く言う。
「必要です」
悠真は冷静だった。
「彼は思い出さなきゃいけない」
「何を」
翼が睨む。
悠真は少しだけ黙る。
そして。
「世界が壊れた理由を」
その瞬間。
風が強く吹いた。
駅前のポスターが揺れる。
ざわめきが広がる。
「……俺が関係してるのか」
悠真は答えない。
その沈黙が逆に重い。
「今日はここまでにしろ」
榊が言った。
「これ以上は翼の負担になる」
「……了解です」
悠真は素直に引いた。
だが去る前。
翼の横を通る瞬間、小さく呟く。
「また来ます」
「……」
「あなたには、まだ思い出してもらわないと困る」
そう言い残し、
白銀悠真は人混みの中へ消えていった。
しばらく誰も話さなかった。
最初に口を開いたのは翔だった。
「……えっと」
珍しく言葉を探している。
「今の、夢じゃないよな?」
「……多分」
沙良が小さく答える。
ひよりはまだ整理が追いついていない顔だった。
智は黙ったまま空を見ている。
そして翼は。
自分の手を見つめていた。
普通じゃない。
そんなことは、もう分かっている。
でも。
自分はいったい何をしてきたんだ。
未来で。
壊れた世界で。
“クロスリンク”として。




