表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/36

第18話:来訪者

 駅前広場は休日ということもあり、人通りが多かった。


「イベント開催中でーす!」


 翔が妙に通る声で叫ぶ。


「翔くん、テンション高すぎ」


 沙良が苦笑する。


「客寄せ担当だからな!」


「勝手に役職増やすな」


 智が淡々と突っ込む。


 一方で、ひよりも全力だった。


「よろしくお願いします!!」


 両手でチラシを差し出す。


 元気すぎて逆に受け取りやすい。


「……すごいな」


 翼が呟く。


「ひよりちゃん強いよね」


 沙良も笑う。


 その時。


 不意に、視線を感じた。


 翼はゆっくり顔を上げる。


 少し離れた場所。


 自販機の横に、一人の青年が立っていた。


 黒髪。


 長めのコート。


 年齢は翼と同じくらい。


 だが——


 妙に目を引く。


 青年はじっと翼を見ていた。


 周囲の喧騒から切り離されたみたいに。


「……誰だ」


 小さく呟く。


「翼?」


 榊の声。


 気づけば、榊もその方向を見ていた。


 そして。


 榊の表情が、わずかに変わる。


「……おい」


 低い声だった。


「部長?」


 次の瞬間。


 青年がゆっくりこちらへ歩いてくる。


 足音は静か。


 でも、妙な圧があった。


「久しぶりですね」


 青年はそう言った。


 その視線は、榊に向いている。


 榊が目を細める。


「……来るのが早すぎる」


「向こうも余裕がなくなってますから」


 会話の意味が分からない。


 だが。


 翼の胸の奥がざわつく。


 青年が視線を移した。


 今度は翼を見る。


 一瞬だけ。


 ほんの一瞬だけ、青年の表情が揺れた。


「……本当に覚えてないんだ」


「お前、誰だ」


 翼が言う。


 青年は数秒黙り、


 そして小さく笑った。


「そうですよね。今はまだ」


 “今はまだ”。


 その言葉に引っ掛かる。


「自己紹介くらいはしておきます」


 青年は静かに言った。


「白銀 悠真です」


 初めて聞く名前。


 なのに——


 頭の奥で、何かが反応した。


『白銀、後ろ!!』


 知らない叫び声。


 銃声のような音。


 一瞬だけ赤い景色。


「っ……!」


 翼が思わず頭を押さえる。


「翼!」


 沙良が駆け寄る。


 榊がすぐ前へ出た。


 翼と悠真の間に立つ。


「何をした」


 悠真は軽く肩をすくめた。


「何も。ただ彼の記憶が反応しただけです」


「刺激するなと言ったはずだ」


「時間がないんですよ、榊さん」


 空気が変わる。


 翔もさすがに異変を察したのか、黙っていた。


 ひよりが小声で聞く。


「……知り合い、ですか?」


 誰もすぐには答えない。


 悠真は再び翼を見る。


「あなたが思ってるより、状況は悪い」


「……何の話だ」


「未来の話です」


 駅前の喧騒。


 通り過ぎる人々。


 その中で。


 そこだけ別の空間みたいだった。


 悠真は静かに続ける。


「橘翼。あなたはもう、“普通の日常”には戻れない」


 その言葉が、


 妙に現実味を持って胸に刺さった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ