第13話:違和感
翌日。
拠点の空気は、いつも通り——のはずだった。
「おはようございます!!」
ドアが勢いよく開く。
「今日も元気だな」
翼が言うと、ひよりは満面の笑みでうなずいた。
「はい!元気だけが取り柄です!」
「それ十分強いだろ」
「翼くん、おはよう」
沙良が手を振る。
「今日はちょっと忙しくなりそうだよ」
「何かあるのか?」
「近くのイベントの手伝い、急に増えたの」
「つまり人手不足ってことだな」
翔が椅子の上でだらけながら言う。
「俺の出番だな」
「いつも出てないだろ」
智が即答する。
榊が資料を机に置いた。
「午前は準備、午後は現地対応だ」
「了解」
翼は短く返す。
作業が始まる。
テントの備品確認、チラシ整理、道具の積み込み。
ひよりは相変わらず全力だった。
「これ運びます!」
「それ軽い方だぞ」
「じゃあ重い方いきます!」
「極端だな」
翔が笑う。
「新キャラ強すぎだろ」
「ゲームみたいに言うな」
準備をしている最中、不意に——
翼の手が止まった。
ほんの一瞬。
頭の奥で、何かが引っかかった。
「……翼?」
沙良が声をかける。
「どうかした?」
「いや……」
すぐに首を振る。
「なんでもない」
でも、違和感は消えなかった。
見たことのないはずの光景。
知らないはずの場所。
なのに、どこかで——
「おーい!翼ー!」
翔の声で現実に引き戻される。
「ぼーっとしてるぞ!」
「してない」
「してた」
そのまま作業を続ける。
体は普通に動く。
会話もできる。
なのに、どこか集中しきれない。
午後。
イベント会場はかなり賑わっていた。
子ども連れや地域の人たちであふれている。
「翼くん、こっちお願い!」
「了解」
指示に従って動く。
でも——
一瞬だけ、視界が揺れた。
知らない光景が重なる。
崩れた建物。
赤く染まった空。
誰かの声。
「——橘」
「翼くん!」
強く呼ばれて、意識が戻る。
目の前には沙良がいた。
「大丈夫?今、止まってたよ」
「……ああ」
少しだけ息を整える。
「問題ない」
問題ない、はずだった。
でも、さっきのは——
作業が終わる頃には、違和感は引いていた。
ただ、完全には消えていない。
帰り道。
夕焼けの中を歩きながら、翼はぼんやり考える。
記憶はない。
それは変わらない。
でも——
何かが、少しずつ戻り始めている気がする。
「翼さん!」
ひよりが後ろから駆けてくる。
「今日もお疲れさまです!」
「ああ」
その明るさに、少しだけ救われる。
いつも通りの一日。
その小さな違和感、
確実に何かの始まりだった。




