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ブレイブカード  作者: きしと
Enjoy Game
35/36

番外編 スポーツジムへ行こう!


「おじさ~ん。遊びに来たよ~」


 その日、優理はいつもと同じように暁の家に遊びに来ていた。

 だが、その玄関口にいた一人の少女を見て、思わずその楽しそうな顔が固まる。


「だれ!?」

「……未来は……時任未来。……にぃにの……本物の従姉妹……」


 何故か本物の部分を少しだけ強めに言いながら、未来は優理に自分の事を紹介した。


「む、むう……。おじさんの従姉妹……」

「……そう……これまで未来の代役……ご苦労様……」


 怠惰な表情の中で、全てを見透かしたような目が、ユーリを射貫く。

 ユーリはその目に怯みながらも言い返す。


「別に労われる必要ないよ。代役なんてやってないし!」

「……あなたが……どう思っていても……関係ない……。……そこにいるだけで……役割は果たされる。……あと三年……目的の日まで……現状を維持するのが……楽になった」

「三年? 何を言ってる?」

「……」


 優理は未来の言葉を理解出来ず、思わず問い返す。

 だが、未来はそれについては詳しく話さなかった。


「お前ら、そこで何やってるんだ?」


 そこに暁がやってきた。

 会話している二人を見て、怪訝な顔をする。


「あ、おじさん! あれ? お出かけするの?」

「ん? ああ、今日はこれからスポーツジムに行こうと思ってな」


 そう言った暁は、着替えの入った袋を持っていた。

 服装もラフな部屋着ではなく、お出かけ用のものになっている。

 

 ちらりと優理は未来へと目を向けると、未来も着替え用と思われる袋を持っていた。


「今日は未来も来たのか。その袋があるってことは、俺と一緒にスポーツジムに行くつもりか?」


 その暁の言葉に、未来はこくりと顔を動かして頷いた。


「っと、そう言えば紹介してなかったな。こっちが俺の従姉妹の未来。んでそっちがお隣さんの白河優理だ」

「……よろしく」

「むぅ……よろしく」


 未来が暁の紹介を受けて、優理に挨拶をする。

 先程までのこともあり、若干不服そうにしながらも、優理は挨拶を返した。


「なんだ? 雰囲気悪いな……。ていうか未来。また寝癖が付いたままになってるぞ? スポーツジムに行くなら直しておかないとな」


 そう言って暁は、未来の頭の寝癖を直すように、優しく撫で始めた。

 それを受けた未来は心地の良さそうな顔をし、そして横目で優理を見ると、優越感に満ちた表情で、マウントを取るように笑みを見せた。


「あぁーー!!」

「うお!? なんだ!?」


 未来の様子を見た優理は、思わず驚いたように声を上げる。


「いま! 未来が!」

「未来が? どうかしたって?」


 暁が目を向けた時には、既に優理に見せた表情はなく、いつも通りの未来に戻っていた。

 それを見て暁は、突如騒ぎ始めた優理に、怪訝な表情を向ける。


「む、むぅ! 優理も寝癖ついてる! だから優理の寝癖も直して!!」

「はぁ? 何処にも付いてないだろ。第一優理はいつも自分でやってるんだから、わざわざ俺が直す必要もないだろ?」


 未来の様子を問い詰めることは無理だと判断した優理は、方向性を変えて、未来と同じ事をやって貰おうと暁に言う。

 だが、普段からしっかりとした様子を見せている優理のその言葉は、あっさりと暁によって却下されてしまった。


 その様子を見て、更に優越感に満ちた表情をする未来を見て、優理は理解する。


(此奴! おじさんに構って貰うために、わざと怠惰な駄目な子を演じてる! そんな方法があったなんて! ずるい!!)


「……過ぎ去りし時は戻らない……偽物は……そこで本物の栄光を……見てるといい」


 言外に、しっかり者の姿を見せたお前には、もう自分と同じ事をさせるのは無理だから、そこで羨ましそうに指をくわえて見てろ、と言われた優理はぶち切れた。


「むう! 優理! 此奴! 嫌い!!!」

「ええ……。何なんだよいきなり」


 突如怒り始めた優理に、困惑する暁。


「スポーツジム! 優理も! 行くから!」


 優理はそう言うと、扉を勢いよく開けて、飛び出していった。


「何なんだ一体……。未来はなんか分かるか」

「……にぃにが分からないなら……未来も分からない」

「そっか……」


 その後、荒れ狂う優理と共に、暁達はスポーツジムへと向かった。


☆☆☆


 この時代、スポーツジムはかなりの数が、街に存在している。

 これらはネクストオリジン社が運営するもので、マイギアを持っている者なら、誰もが無料で使用することが出来るのだ。


(定期的に運動しないとVRが使えなくなるからな)


 VRを行う為に必要なマイギアには、体調管理システムが搭載されている。

 運動不足な不健康な生活を送っていると、体調管理システムによってそれを咎められて、ログインすることが出来なくなってしまうのだ。


 スポーツジムへと入り、男女に分かれて更衣室へと向かって、着替えてから、色々な器具がある部屋と集合した暁達。


「まずは取り敢えず走るか」


 暁のその言葉で、それぞれがルームランナーに乗って走り始めた。

 あっさりとバテて、ルームランナーから暁が降りる。

 一方で新人類である未来と優理は、まだそれなりに走っていた。


(人類種の差を感じるな……)


 ふと目を別の場所に向ければ、そこには新人類用の高負荷の器具なども存在している。

 彼らの筋力トレーニングをするとなると、旧人類用のものだとトレーニングにならないので、新人類用のものを用意する必要があるのだ。


(ま、それがどうしたって話ではあるが)


 二人が終わるのを待ってから、暁達は別の場所へと移動を始めた。

 そしてその移動のさなか、見知った顔と、暁はばったりと合う。


「よう、玲奈」

「ん? 暁か」


 暁は目の前に立つ、複数の子供を連れた女性に声を掛けた。


「だれ?」


 それを見た優理が暁にそう問う。

 その様子を見て、暁の紹介よりも先に、その女性が反応した。


「な!? その子供は何だ!? まさか隠し子か!?」

「違うわ! 白河優理っていう近所の子供だよ」

「そ、そうか……よかった……」


 何処かの店長と同じような反応をする女性に、暁は思わず突っ込むように叫ぶ。

 それを聞いた女性は、何処かほっとしたような表情をした。


 暁はそんな女性を指し示しながら、優理に向かって言う。


「此奴は俺の幼馴染みの一人である【浅見玲奈あさみれいな】だ。近所で武術の道場を経営してる。そこにいる子供達は、たぶんその門下生だ」

「よろしく頼む、優理。……しかし、優理か。まさかこの間の子か?」


 落ち着いた浅見は、ふと思ったことを口に出した。


「この間?」

「あ~。優理とはブレイブカードであってるんだ」

「やはりそうか」


 暁の言葉に納得したように頷く。

 一方で優理は、より頭に疑問符を浮かべた。


「ブレイブカードであった? ブレイブカードで見たことないけど?」

「う~ん。そうだな……。玲奈は言っても大丈夫か?」

「先に言い出したのは私の方だしな」

「そっか、俺が前に話した内容を覚えてるか、俺ら旧人類は、大体名前を少し弄って、プレイヤーネームにしてるって話」


 暁の言葉を受けて、優理は前に暁が話していた内容を思い出す。

 名前を弄っているということは、浅見か玲奈に似た響きがある、プレイヤーネームのプレイヤーだろうか、と優理は考える。


「浅見、あさみ、あーさ……もしかしてあーさー!?」

「正解だ」


 その正体に辿り着き、驚きの声をあげる優理。

 一方で正解を引き当てた優理に、浅見は笑顔を見せた。


「え!? だって男だったよ!?」


 優理は浅見の姿をじろじろと見て、思わずそうやって声を上げた。

 なぜなら目の前に立つ浅見は、ブレイブカードで見た、ライダー風の服装の大柄なマッチョな男と違い、ほどよく筋肉がついて引き締まった躰をしているが、一般的な女性に比べても小柄な背丈で、華奢な少女だったからだ。

 そしてその瑞々しい張りのある肌は、とても暁と同じ二十代後半に見えず、その背丈も相まって、まだ十代の少女のように見える。その点から見ても黄昏の同年代とは思えなかった。


「ああ、あーさーは確かに男だな。だが性別の違うアバターを使用することは珍しいことではあるまい」

「所謂ネナベってやつだな。まあ、特に現実と同じ性別にしないといけないって制限もないし、性別が別でプレイするやつもいるだろ。一人称視点になるから、わざわざ元の性別から変える奴は少ないけどな。確かカタリナの奴だって現実は男だって言ってるし」


 それを聞いた優理は目を丸くする。


「信じられない……」


 仮想世界の肉体はもう一つの現実の肉体である、という認識が強い新人類の一人である優理は、自分の性別と別の性別を利用している浅見の事が理解出来なかった。


「そ、そこまでか……?」


 珍獣を見るような視線に、浅見が思わずそう呟く。

 それを見て、暁はしみじみとした様子で言った。


「ジェネレーションギャップってやつだよな……」


 そんななんとも言えない雰囲気の中、突如浅見が引き連れている子供の中から、一人の子供が前に出来た。


「おい! ババア! いつまでくっちゃべってるんだよ!」


 十歳頃の金髪の幼女は、そう言って浅見を問い詰める。

 そんな子供の頭を、軽く浅見ははたいた。


「私は28歳だ。まだババアじゃない」

「うっさい! ババアはババアだろ! この行き遅れが!」

「……死にたいのか?」


 じろりと殺気を金髪の幼女に向かって放つ浅見。


「な、なんだよ。事実だろうが!」


 金髪の幼女は、それに若干びびりながらも、必死でそれに反発する。


「はぁ。お前達、いつも通りトレーニングを開始しろ」

「は~い」


 浅見の殺気の巻き添えを食らった他の子供達は、その言葉で下らない争いに巻き込まれないように、蜘蛛の子を散らすように去って行く。

 そして浅見は、そんな子供達の中でも、金髪の二人を指名して言った。


「夏蓮と冬彦は残れ」

「は? 何でオレらだけ……」

「いいから残れ」

「……っち!」


 不満そうにしながらも、その場に残る夏蓮と言われた幼女と、先程からずっと黙って夏蓮に追従する冬彦と言われた子供。


「この機会に紹介しておこう。暁、この二人の顔に見覚えはないか?」

「ん? この二人……? 確かに何処かで見たことがあるような……」

「此奴らはな、ミリアの子供だ」

「ミリアってあのミリア!? って事はこっちの女の子があの時、お腹の何いた子か!?」


 暁は浅見の説明を聞いて驚いた。それもそのはず、夏蓮達の母親であるミリア・レナードは、暁もよく知る人物だったからだ。


 ミリアは、暁達の高校に留学生として転校してきた少女だった。

 スポーツ選手として海外に行くことがあったため、英語をペラペラと話せる浅見と仲が良く、その浅見の幼馴染みということで暁や、もう一人の幼馴染みである鳴神雷斗なるかみらいととも親しくしていた人物だ。

 友達の友達という立場から始まった関係だが、修学旅行などでも、基本的にこの四人で回っていたため、お互いに親友と言ってもいいくらいの関係性になっていた。


(だからこそ驚いたんだよな~。ミリアが在学中に出来ちゃった婚したのが)


 当時のミリアは年上の男性と付き合っていた。

 その話は元から聞いていたが、まさか子供を作ってしまうとは思ってもいなかった。その時は混乱の余り『外国人ってすげー』とよく分からない納得の仕方をしてしまったことを、暁はふと思い出した。


(あの時は大変だったな~。まさか就活のスーツよりも先に、礼服を作ることになるとは思わなかった。そのせいで金欠になって、パックを買うために新しいバイトをしなければならなくなったんだよな……)


 結婚式に参加するために金が入り用になり、その為に金欠になったことを暁は思い出す。

 そしてそのバイトの後に起こった出来事を思い出して、苦い顔をしそうになった暁は、その考えを途中で切り止めて、再び目の前の夏蓮に視線を戻す。


「はぁ~。この子がねぇ~」

「な、なんだよその目は!」


 ミリアのお腹が膨れあがったのを実際に見て、なんならそのお腹を少しだけ触らせて貰った暁は、そのお腹の中にいた子が、目の前にいることに感慨深げな表情をする。


(そう言えば俺らの歳なら、子供の一人や二人いてもおかしくないんだよな……。俺には子供どころか、今付き合ってる彼女すらいないが。

 別にそれに付いて寂しいと思ったことはないが、こうやって友人が子供を作ってるのを見ると、なんとも言えない気持ちになるな)


「姉の方が稲光夏蓮いなみつかれん、一個下の弟が稲光冬彦いなみつふゆひこだ。そしてこっちがお前達の兄弟子にあたる時任暁だ」

「よろしく」


 浅見の言葉に、暁が軽く返す形で返答した。

 そしてそれを聞いていた夏蓮は、胡乱げな目をする。


「此奴が兄弟子~? こんなひょろひょろのおっさんが?」

「俺はまだ28歳だ。おっさんは止めてくれ」

「おっさんはおっさんだろうが!」


 どうして何奴も此奴も28歳をおっさん呼ばわりするのだろうか。

 暁は何処と無くその事実に対して、少しばかりの怒りを覚えているが、大人な彼はそれを押し殺して、自分が兄弟子となる理由を説明し始める。


「昔、強盗に遭ってバイト代を丸ごとを奪われたことがあってな。その時に身を守れるようにと、玲奈の勧めで浅見流の道場に通ったんだ。だから兄弟子で間違いはない」

「へぇー。そんなことがあったんだ」


 暁の意外なこぼれ話に思わず優理がそんな声を上げた。


「道場に通ってようが、俺はこんな弱そうな奴は、兄弟子なんて認めねーからな! 此奴はただのおっさんだ! おっさん!!」


 暁の話を聞いても、夏蓮は一向に態度を曲げず、イキり散らす。


「それでこそお姉ちゃんだよ! 格好いい! こんなブリキ野郎なんて、おっさんで充分だよね!」


 それまで黙っていた冬彦が、突然狂信するように姉である夏蓮を持ち上げ始めた。

 その様子に、夏蓮がほんの一瞬だけ苦い表情をするが、直ぐさまそれを打ち消して、その太鼓持ちの言葉に追従し始めた。


「当たり前だろ! こんなゴミクズなんて、兄弟子にする価値もない!!」

「酷い言われようだな」


 そのあんまりな態度に、暁は思わず苦笑いしか出てこない。

 そんな風に軽く受け流している暁の側で、明らかに怒気をまき散らしながら、優理が夏蓮へと問いかけた。


「おじさんを馬鹿にしてる?」

「はっ! 何だよチビ! 馬鹿にしたら悪いか!?」

「けんかなら買うよ?」

「へぇ……、おもしれぇじゃねえか」


 一触即発の空気の中、誰よりも早く動いたのは浅見だった。

 浅見は夏蓮と冬彦の頭をはたく。


「うげ!」

「あぐ!」

「お前達、その辺にしておけ。それに冬彦、ブリキ野郎なんて暴言を吐くことは、私の前では許さないぞ。次に言ったら間髪入れずに拳で黙らせるからな」


 ブリキ野郎――それは新人類が旧人類を見下す時に使用する差別用語だ。

 旧人類は新人類である彼らに取って見れば、古びていて、ブリキのように錆びて、動きの遅いものだという意味から、このような蔑称が誕生した。

 ちなみに、新人類の差別用語は、化け物で、電脳アレルギーの差別用語は、なりそこないとなっている。


「――っ! ……わかりました」


 はたかれた冬彦は、その浅見の言葉に渋々従った。

 そんな様子を見た浅見は、やれやれとため息を漏らす。


「こんな感じで何奴も此奴もやんちゃで困る」

「大変そうだな。道場経営も」

「そうだな、それで相談なんだが暁、師範代として手伝ってくれる気はないか? お前が来てくれれば楽になるんだが」

「あ~。悪いが止めておく。俺の力量じゃそんなに上手く、教えられないし、別の門下生を師範代にした方が良いと思うぞ?」


 浅見の誘いを、暁は申し分けなさそうに断った。

 一応、師範資格を貰えるまで、浅見にみっちりとしごかれた暁だったが、その時の経験から武術には余り才能がなく、自分が教えることは出来ないと実感していたのだ。


「まあ、それはそうなんだが……。別に武術を教える意外にもな」

「道場で武術意外に教えることがあるのか?」

「それは……まあ、そうだな」


 暁に断れても何とか粘ろうとした浅見だったが、さすがに良い言い訳が思いつかなかったのか、ギブアップを出した。


「まあ、仕方ないか……。所で暁、ここであったのも何かの縁、今度何処かに――」

「……伏兵……登場」

「うわ! 未来どうした!?」


 浅見が話そうとしたところで、割り込むように、これまでの会話に一切入ってこなかった未来が、突如として、暁の側から飛び出して話しかける。その不意を突いた突然の行動に、暁は思わず驚いてしまった。


「み、未来ちゃんか……。いつも突然現れるな」

「……出来る妹は……ピンチを見逃さない」

「何言ってるんだ? 未来?」


 訳の分からない事を言い出した未来に、暁が思わず問い返す。

 しかし、未来はそれを無視して、指を奥の方へと指し示した。


「……無謀……重いのに挑戦しようとしている……いいの……?」

「ん、確かにあれは危ないな。……暁、また今度話そう。夏蓮! 冬彦! 行くぞ!」


 未来が未来視のセンスを持っていることを知っている浅見は、未来が指差した方向の子供を見て、直ぐさま危険に気付き、夏蓮と冬彦を伴ってそちらへと駆け出した。


「むぅ……。言っちゃった」


 まだ怒りを滲ませながら、優理は思わずそう言う。

 そんな優理の頭を、暁は軽くぽんぽんと撫でた。


「まあ、そう怒るなって。少なくとも姉の方は売り言葉に買い言葉で、ああ言っちまっただけだろうしな」

「そうなの?」

「まあ、少なくとも俺にはそう見えた」


(あの一瞬明らかに顔が変わったよな)


 冬彦が夏蓮に追従したその瞬間、夏蓮の顔が苦い表情になったのを暁は見逃さなかった。

 そして、それまで否定していても軽い口調だったのが、より頑なに、より強烈な言葉を使って否定するように変わった。


(どんな関係か知らないが、随分と面倒くさそうなことになってるな。友達の子供達があんな問題がある感じになってるのは、ちょっと生々しくて嫌なんだが)


 これが物語や遠い人の話として聞く分なら大して気にしないが、知り合いの子供だと親である友達の苦労が思い浮かんで、思わず気分が萎えてしまう暁。


(特にあっちの弟の方がヤバいよな。ナチュラルに旧人類を見下してるし、玲奈に言われて渋々って感じだからな……)


「ふ~ん。おじさんがそう言うなら許す」

「まあ、そうしておいてくれ」


 優理がその怒りを和らげたところで、暁はほっとため息を付いた。


「それにしても、なんであの二人は、浅見って人の言葉を聞いたんだろ」


 突如湧いたユーリの疑問。

 それを聞いた暁は、簡潔にその理由を述べた。


「あ~。それは彼奴らじゃ玲奈に勝てないからだろうな」

「? あの人は旧人類だよね」

「そうだな。基本的に旧人類は新人類には勝てない。身体能力が違うからな。

 だが、玲奈は、旧人類でも新人類に勝てる、唯一の例外だ」

「身体能力で負けてるのに?」

「その代わり、玲奈には卓越した技術があるからな。浅見流は色々な流派をブレンドした何でもありの武術で、格闘技だけではなく、剣術など、あらゆる武術を教えてた。

 玲奈はそこの跡取りとして幼い頃から色々な武術を極めていた。あの見た目の通り、躰が小柄で力も弱かったから、技術を極めて相手の力を利用しないと、体格の良い武術家達相手に勝っていくことが難しかったんだ。

 そんなこんなで血の滲むような努力で最高峰の技術を身につけた彼女は、どんな相手だろうとも勝てるようになっていた。オ○ンピックで格闘技の金メダルを総なめするんじゃないかって当時は言われてたな」


 過去を思い出すように暁はそう言う。


「それで総なめしたの?」

「いや、それは出来なかった」

「なんで?」

「オ○ンピック自体が新人類の発生でなくなったからな」

「あ……」

「それまで自らを鍛えあげることで伸ばしてきた記録が、新人類の強化値によってあっさりと覆られるようになった。スポーツってのは元より才能による影響が強いもんだが、努力が一切関係ない資質だけの勝負になったら、それを応援する面白さがなくなったのさ」

「……」


 スポーツ選手が凄いのは、個人の才能もあるが、それを人生を賭けて磨き上げようとするその姿勢だ。

 だからこそ、勝って欲しいとその人の事を応援して熱狂できる。

 でも、それが完全に生まれ持った才能で決まるようになったらどうだろうか? 磨き上げようとする努力では、資質を越えられない事態が起こったら。

 ただ数値上で勝っているものだけが勝つ試合に何の意味があるのか、新人類という新たな人類種の達成によって、オ○ンピックは終わりを告げることになったのだ。


「幻の金メダリスト。悲劇のチャンピオン。それが現実世界での彼奴の異名だ」


 遠くにある浅見の背中を見ながら、暁はそうぽつりと呟いた。


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