番外編 ねこねこのとある一日
とある私大の教室。
そこでは垢抜けた女子達が、キャピキャピと話をしていた。
「~でさ~だよね~」
「そうそう。まじ、そんな感じ~」
そんな中で、グループの中にいるのに、そのノリに乗り切れていない者が一人いた。
「ね。猫田さんもそう思うよね」
「ん、そうやな~」
その人物である猫田美音子は、その女学生からの言葉に、無難に言葉を返す。
それを受けた女学生は、ケラケラと笑い始めた。
「やだ~、そこは振ったんだからしっかりとボケてよ~」
「そうだよ。関西人なんだから」
「あはは、これは一本取られてしもうた。次は上手くボケるわ」
猫田は愛想良くそう返した。
だが、内心では、理不尽な無理難題を振ってきた女学生への不満が溢れていた。
(なんで東京の奴らは、関西人がみんなお笑い好きで、面白いこと言わなあかん、みたいな態度をとるんや。うちはそういうノリが大嫌いっやっていうのに)
女学生達と別れた猫田は、心の中で思わずそんな風に毒づきながら、足早に家と向かう。
今日は彼女に取って特別な日だった。
前から楽しみにしていたアレが届く予定になっていたのだ。
大阪から東京に来たときに借りた部屋へと帰り、時間指定をした宅配便がくるのを待つ。しばらくすると目的の宅配便が現れ、猫田は意気揚々とその箱を開けて中身を取り出した。
「マイギア! これが!」
仮想現実へとフルダイブするために必要な機器であるマイギアを取り出した猫田は、それを高く掲げて胸の中に抱きしめた。
「まさか、フルダイブ型VRがウチの生きている間に完成するなんて、こんな夢みたいなことあるんやな……」
感慨深いと言った感じでそう呟く猫田。
憧れ続けてきた、アニメやゲームでしか存在しないと思っていた世界が、こうして現実になったのだから、この態度も至極当然といったものだろう。
「っと。皆も待っているから速くウチもいかんと」
猫田は早速同時に購入したゲームをマイギアに設定し、戸締まり等の安全の確認と、マイギアに同梱されていた、防犯用の装置を室内に取り付けてから、マイギアを頭に装着した。
「こういうときはこう言うやったな! リンクスタート!」
お気に入りのアニメかけ声と共に、猫田の意識は仮想世界へと旅だった。
☆☆☆
仮想世界へと降り立った猫田は、プレイヤーネームねこねことして各種設定を行って、待ち合わせ場所の街へと降り立った。
「よう久しぶりだな! 猫田!」
猫田が振り返るとそこには一人の男性プレイヤーがいた。
東京に行ったことで会うことが難しくなった友人。
アバターとして少し変化したそんな友人の姿がそこにあった。
「なんや、佐古、お前また焼けたんちゃう?」
「これはアバターだっての」
お互いにプレイヤーネームがあるが、リア友のために、遠慮無くお互いの名字を言い合う、ねこねことそのプレイヤー。
そんな気安い関係の二人の元に、更に数人の人が現れた。
「やっほー! ねっこー! 元気にやってる?」
「東京にかぶれてるんじゃないだろうな」
次々とねこねこに挨拶をしてくるプレイヤー達。
誰もが地元にいる、ねこねこの大切な友達達だ。
(懐かしいな……。やっぱ地元の奴らと一緒にいるのが一番落ち着く。ここがウチの居場所なんやって実感するわ)
東京の雰囲気に馴染めないねこねこは、特にその思いが強くなっていた。
正直、就職のことを考えて有名私大に行くのではなく、皆と同じ地元の大学に行っておけば、という後悔すら現れていた。
誰も彼もがお互いのことをよく知っている。
好きなものも、嫌いなものも、だからこそ気兼ねなく話し合える。
ちょっとオタク気味のねこねこが、気を遣いながら話す必要がある、キャピキャピとした大学の連中と話すのとは違った、安らぎがその場所にはあった。
ねこねこは素直にVRゲームに感謝していた。
遠く離れた友人たちと、こうやってまた繋がることが出来た。
それだけでこのゲームが、とても愛おしいものに見えた。
お互いの近況を話していると、遅れていた最後の一人がやってきた。
「よし、全員揃ったし、みんな行こうか!」
「「「「おう!(ええ!)」」」」
いつもグループを引っ張っていってくれるリーダー役が声がけをすると、全員がそれに答えた。
そして彼らは始まりの街から冒険に飛び出していく。ねこねこも彼らを追って――。
☆☆☆
ちりんちりんと鳴り響く目覚まし時計の音で、猫田は目を覚ました。
「またあの夢か……。そう言えばもうその日なんやな」
久しぶりにみた夢の余韻に惑わされながら、猫田はカレンダーに目を向けて、思わずそう呟いた。
猫田に取って今日は特別な日だ。
隔月で行っているある場所へと赴かなければならない日。
(今日もまた駄目なんやろうな)
諦めの気持ちが溢れ出てくるが、それでもやらなければならない。
猫田は気合いを入れ直すと、いつも通りの身支度を手早く始める。
その場所に行くための準備ではなく、その前段階。
社会人としては常に優先しなければならない、仕事に行くのである。
☆☆☆
猫田は中田倉庫という倉庫会社に勤めている。
VRによる世界の変革が起こらなければ、有名私大の出身で、容量のいい猫田なら、もっと上の企業に勤めることはさほど難しくなかったが、新人類発生による世界の混乱をみた猫田は、すぐさま高い目標を捨てて、手近で確実に入れる底辺とも言える会社に就職した。
その読みは当たり、他の同年代が就職出来ずに嘆く中で、猫田は何とか仕事をして、給料を貰うことが出来た。そのおかげで猫田は今日までなんとか生きていくことが出来たのだ。
「すみません~。ここなんですけど……」
「ああ、それはやな……」
仕事を始めて6年。
まだ若輩とも言える年齢だが、猫田はこの中田倉庫でそれなりに高い地位に就いていた。
これは猫田がそれなりに優秀だったからというだけではなく、猫田の上の立場のものが次々と中田倉庫を辞めていったためによるものだ。
中田倉庫を辞めたと言っても、新人類が出た影響で首を切られたわけではない。
中田倉庫の社長は、初めて新人類を雇った時に、その幼さと身体能力によって、運び出した商品が破損してしまった経験から、『機械等を使って既存の通りに作業した方が、商品に対する安全性を確保出来る。そして機械を使うなら新人類である必要はない』と既存の人員を雇い続けることを決めていた。
だからこそ、中田倉庫の社長は、旧人類の首を切ることはしなかった。
今の時代は、実力があれば何処までもいける社会。
彼らは副業で一発当てたことで、しがない倉庫業なんてものは辞めて、その道へと飛び出していくために、自らの意思で辞職していったのだ。
(出て行った奴らはみんな笑顔で、希望に溢れてたけど、その後はどうなったんやろうな。上手くいったのか、それとも……。ま、どうでもええか)
気にしなくて良いことを、気にしないようにする。
それが大人になって、猫田が身につけた処世術だった。
――だが、そんな猫田でも譲れないものはある。
「お疲れ様です」
そう言って、猫田は仕事を終えて帰途につく。
何時もよりも足早に、家へと帰った猫田は、早々に身支度を調えると、マイギアを手に取った。
「……ログインするか。始まりのあの地へ」
そう言って猫田はマイギアを使い、仮想世界へとダイブする。
選択するのは彼女が――いや、人類が初めて体験したVRMMO。
希望の始まりであり、絶望の始まりでもあった、【ネクストオンライン】だった。
☆☆☆
ネクストオンライン――それは人類が初めてプレイしたVRMMOだ。
ネクストオリジン社が、マイギアと共に販売を開始したそれは、それまでの常識を覆したフルダイブを可能とするVRゲームだった。
小説などで語られていたVRと同じように、自分のプレイスタイル次第で、ステータスとスキルの状況が変わり、個人個人がユニークな存在として、ファンタジー世界を冒険することが出来るそのゲームは、爆発的なヒットになった。
猫田はそのネクストオンラインの四番目の街に降り立った。
ネクストオンラインはステージ開放型のVRMMOだ。
猫田はここまでしか攻略を進めていないので、四番目の街までしか行くことが出来ない。
だが、それで問題はなかった。
猫田が目指す目的地は、この街にあるのだから。
プレイ人口が減り、更に序盤の街という事もあって、人通りが少ない通りを、ねこねこはスラスラと通り過ぎていく。
(ここも人が減ったな……。運営状況がもうやばいって噂やけど、まだ続いているのは、最初のVRMMOってことで、ネクストオリジンが無理矢理延命させてるからって話らしいけど、一体どこまで本当の話なのか)
やがてねこねこは目的の場所へと辿り着く。
そこは彼女が所属しているギルド、【ブレイドブレイド】のギルドハウスだった。
猫田はそこで気持ちを落ち着かせるように深く深呼吸をすると、扉を開けてその中へと向かった。
室内に入ったねこねこの目に映し出されたのは、見慣れた景色だ。以前来た時から何も変わっていない光景――それを見てねこねこは思わずため息をついた。
「やっぱり、今日も駄目やったか」
テーブルに置いてあった手紙を手に取る。
その封筒の中には、ねこねこがかつての仲間に当てた、近況を知らせて欲しいという、彼女の願いが書き記されていた。
その封筒も開けられた痕跡がない。
ねこねこは手紙を再び封筒に収めて机の上に戻すと、近くにある椅子に座った。
そしてその位置から、ふと目に入る巨大な大剣を見て、思わず呟く。
「楽しかったなぁ……」
ねこねこの目には、在りし日のこの場の姿が映っていた。
あの大剣は、ギルド単位で参加するイベントで入賞することで手に入れた、彼女に取っては思い出の品だった。
大剣を手に入れるために、彼女達のギルドは一致団結して様々なことに挑戦したものだ。困難にぶつかってもそれを楽しんで、お互いがお互いの為を思い合って、ようやく手に入れた自分達の友情の結晶。
それが今や、寂しくぽつんと、棚に飾られるだけになっている。
「ホロイド鉱石を集めた時は、田口の奴が穴に落ちたせいで、難易度の高いダンジョンに挑む嵌めになったっけ。シュバイトの街についた時に、NPCの見た目に峯内がガチ恋して、その後に奥さんキャラだと分かって落ち込んだ彼奴を、皆でからかい合って……」
一つ思い出せば、次々と溢れ出るように思い出していく。
過去の思い出ということで、美化されている面もあるかも知れないが、どれもとても大切で、何よりも代えがたいねこねこの幸せな日々だ。
「――なんでこんなんになってしまったんやろうな……」
そう呟いたねこねこだが、その理由を彼女は理解していた。
全てはあの瞬間から始まってしまったのだ。
自分が全てを失うことになった切っ掛け、それをねこねこは思い出す。
☆☆☆
ネクストオンラインを初めてからしばらく経った頃、ねこねこ達はアップデートによって実装された第五の街に行くための、ボス討伐について話し合っていた。
ちまたでは、ちらほらと新人類の噂や、VRによる経済の変化の話など、怖い話が囁かれていたが、学生であった彼女達は、「こわいねー」と言いつつも、それを現実視しておらず、深刻に考えることはしていなかった。
そんな事よりも、ボスをどう倒すか。
遊びに魅入られた彼女達は、必死で頭を悩ませて、そしてしっかりと準備に数日を掛けて、他のギルドから遅れること数日、彼女達はそのボスへと挑もうとしていた。
「じゃあ、行こうか!」
「おう」
リーダーの言葉に、メンバーが頷き歩き出す。
「ボス、大分強いらしいけど大丈夫かな?」
「今回はかなり準備した。さすがにこれで勝てるだろう」
ボスへと向かう間にお互いで話し合う。
これから向かうボスの話、一人でログインしたときにゲームでやったこと、現実での自分達の近況など。いつも通りの彼らに取ってはたわいもない話を続けていく。
「――あれ? 誰かいるぞ?」
その時、先頭歩いていた者が気付いた。
目の前に、中学生ぐらいの子供が一人ぽつんと立っている。
「こんな所に一人? ボスに挑むにしては戦力不足だし、下見かなにかかな?」
その子供に気付いた他のメンバーがそう口にする。
代表して、何時もリーダー役をしている男が、その子供に話しかけた。
「キミ、これからボスに挑むのかい?」
「……」
リーダー役からの問いかけに、その子供は一瞬目を向けるも、何も答えずに、目をボス部屋の方向へと向けた。
「ちょっと無視するの!?」
その行為に、メンバーの一人が強く子供を問い詰める。
その言葉に、再び子供は視線を向けるが、また何も言わずに視線を戻した。
(なんや……あの目……)
メンバーが憤る中で、一人だけねこねこは恐怖を覚えていた。
一瞬見えた子供の目、何の感情も映さない無機質な目が、楽しむ為に存在しているこのゲームの中で、異常なように見えたからだ。
あの子供と関わるのは何か不味い。
このままここにいれば、今まで当たり前と思っている何かが崩れてしまう。
ねこねこはそう言った、いいようもない不安に晒される。
「なぁ、みんな……」
ねこねこは、そんな奴はほっといてさっさと行こうと、そう仲間達に話そうとする。
だが、それよりも速く、子供はボス部屋の中へと入っていった。
「ちょっと……」
それを見て、メンバー達はそれを追った。
そしてボス部屋に入る直前で足を止める。
ねこねこ達はボスに挑む為の最大人数で来ており、このままボス部屋に入ったら、子供のぶん誰かが抜けなければならなかったからだ。
彼らの見ている前で、子供とボスの戦いが始まる。
それを見てメンバー達は唖然と呟いた。
「なんだあれ……」
彼らはボスによって子供が瞬殺されてしまうのではないかと思っていた。
だが、彼らが目にしたのは別の光景だった。
小さな子供が、ボスの攻撃を容易く躱し、連撃をボスに浴びせていく、強靱な力を持ってプレイヤーを圧倒するはずのボスが、たった一人のプレイヤーによって圧殺されていく。
「もしかしてあれって新人類?」
「都市伝説じゃなかったのか……」
そのような存在を目にして、彼らは噂を思い出していた。
曰く、自分達の一つ下の世代、18歳未満の者がVRで自分の能力と違ったアバターを使用すると、新人類と言われるほどの能力を得ることが出来るだと。
「あれが、俺達が一年若ければ手にすることが出来た力……」
誰かがぽつりと呟いた一言。
悪意無く呟かれたその言葉は、その場にいた者達に、その事実を気付かせるのに、充分な力を持っていた。
誰もが自分達が得られるはずだった力に目を奪われ、嫉妬し、そしてこれからの未来を絶望していく。
そうして見ている間に、ボスは子供に倒されてしまった。
たった一人でボスを倒した子供は、何てこともないように、その先へと進んで行った。
自分達が必死で準備して、この人数で挑もうとしているボスを、たった一人で――。
「俺達何やってるんだろな」
そんな絶望をはらんだ言葉が、ふと誰かから漏れたのを、ねこねこは耳にした。
――その後、彼らはボスへと挑み、そして大敗した。
☆☆☆
あの日以来、一人一人と友人達はゲームを辞めて去って行った。
最後までの残ったのはねこねこだけだ。
誰よりも友人達への思いが強かったねこねこだけが、このゲームに縋り付き、そして取り残されることになった。
今では彼らが如何しているのか分からない。別のゲームをやっているのか。どう生活しているのか。
――いや、そんな事よりも、ちゃんと生きているのかすら、ねこねこには分からない。
それでもねこねこは、最後まで彼らと再会することを諦めていない。
例え現実の彼らの実家が、別の人間のものになっていたとしても、何処かで生きていれば、またこのゲームの様子を見に来てくれるのではないか。そんな拙い希望に縋って、このゲームに課金をしてギルドハウスを維持しているのだ。
そして来る日も来る日も、ギルドハウスで仲間を待つ日々。
憂さ晴らしとして冒険に出掛ければ、新人類たちやボスに、コテンパンにされ逃げ帰り、その都度、このギルドハウスで、世の中を恨んでねこねこは泣いた。
そんな暗闇のような日々を送っていたねこねこ。
とある日、彼女は一つのネットニュースを目にした。
「ブレイブカード……?」
それは別ゲームでの出来事を綴ったものだった。
七人中六人が旧人類で、しかもその内の三人が自分と同じ喪失者だと言う。
そんなこの世界では劣った者達が、新人類ですら行えていない快挙を成し遂げたのだ。それも第二世代のようなユニークチートを使わない形で。
「カードの力で新人類相手でも対等に戦える……? そんな馬鹿な話があるんか?
でも、もしそれが本当なのだとしたら……」
ねこねこは、ネットニュースに映る七龍征のリーダーだという少年の映像に、指を当ててその姿の部分をなぞった。
ねこねこに取っては、彼が勇者か英雄のように見えた。新人類という魔王すらも倒すことが出来る自分達人類の希望……。絶対無理だと思っていたことを成し遂げたその存在に、勇者の活躍を耳にした平凡な村娘のように、ねこねこは淡い憧れの気持ちを抱いた。
「やってみるか」
だからこそ、ねこねこはそのゲームをプレイする事に決めた。
そしてねこねこが始めたそのゲームは、彼女が想像していたよりも、もっとずっと彼女に取って好きになれるようなものだった。
「ええな! このゲーム! 本当に新人類とも対等に戦える! 何よりも、どんなカードであろうとも、どんな力であろうとも、資金と努力で手に入れることが出来る!!」
新人類と対等に戦える。
それだけでもねこねこには充分に価値があることだった。
だが、それだけなら第二世代でも問題がなかったはずだ。
それなのに、ねこねこは第二世代をプレイせずに、ネクストオンラインに一人引きこもっていたのは、特別な力という存在にねこねこが嫌悪感を抱いていたからだ。
「特別な才能! 誰もが手に入れることが出来ない力! そんなものクソ食らえや! プライスレスな価値がなんや! そんなもの! 人が手に入れることが出来ないものを! ただ見せびらかしているだけやないか!!」
あの時の新人類がみせた圧倒的な力。
自分達が決して手に入れることが出来ないものを見せびらかされて、ねこねこはそう言った誰かが手にすることが出来ないものに対して憎しみを抱いていたのだ。
あの力が、お金で手に入るものだったら、努力で身につけられるものだったら、ねこねこの友人達は決して消えることはなかっただろう。
もし彼らが諦め掛けても、ねこねこは彼らを励ますことが出来た。或いはその力を得るための手助けをすることだって出来た。
――そうすれば、ここにもまだ彼らはいたはずなのだ。
だが、現実はそうではなかった。
決して得ることの出来ない力を見て、それに対する励ましを口にすることも出来ないまま、彼女の居場所は失われた。
だからこそ、ねこねこは許せないのだ。
この世に存在する、資金や努力だけでは如何することも出来ないものが、その全てを消し去りたいと心の底から思っているのだ。
「でもこの世界は違う! カードなら金や時間でその全てを誰だって揃えることが出来る! 戦術や戦い方は研究すればより良くしていける! どんな相手だってそれを打ち倒すカードがある!」
特別な力も絶対的な力も存在しない世界。
頑張れば頑張った分だけ報いがある世界。
――決して届かないというものがない世界。
「そうや! この世界には絶対的な力はない! 誰もが得られないものはない! この世界は平等なんや! これこそがウチが何よりも求めていたもの! ウチが求めていたゲーム!」
努力の結果の上で不平等になることは仕方が無い。
だが、その前に、誰もが平等になるような土台が存在すること、それこそがねこねこが、知らず知らずのうちに望んでいたゲームの姿だった。
「この世界は全部プライスなものなんや! どんなものでも努力で買える! なら、うちは自分のことを商人だと名乗ろう! この世界にあるものはそうやって買えるものなんだと証明するために! そうやって買ったもので強くなっていくと証明する為に! うちは武器商人――! 武器商人ねこねこや――!!」
それはねこねこが決めた生き様。
――ねこねこの誓いだった。
だからこそ、彼女は接近戦を多用する。
新人類であろうとも、努力で培った力で勝てると証明する為に。
☆☆☆
「……帰るか」
ねこねこは大剣を見つめて、過去をひとしきり思いだした後、そう呟いた。
今日思い出した過去の幸せを噛みしめたことで、ねこねこはまた明日からの仕事や、辛いことを乗り切っていくことが出来そうだった。
「また一ヶ月後や、みんな」
ギルドハウスを出る間際に、いるはずもない者達へとそう語りかけて、ねこねこはギルドハウスを出て行った。
「それにしても七龍征か。久しぶりにあの時のこと思い出した。ウチに取っての憧れ、ウチに取ってのヒーロー、ウチに取っての――勇者様」
そうやってねこねこは来た道を戻って行く。
「例え広告の産物であろうとも、ウチに取っては本物や。彼らのおかげでウチはブレイブカードを始めることが出来た。ウチの恩人とも言える存在――。
せやけどあまりあったことはないんや。イベントだと人数が多くて当たらないことも多いからな~」
今のねこねこには獣の掟という新たな仲間達も存在する。
クランのメンバーとして動いていると、イベントなどでは、無所属で自由に行動している者が多い、七龍征の面々とは、運が良くないと直接ぶつかり合うことは出来なかった。
「折角やから、イベントでどかんと思い出に残るような戦いをしたかったけど、そもそも戦うことが出来てないんやから、四の五の言ってる場合やないか。
確か七龍征の二人が所属しているクランがあったはず……CCOに頼んで、そことの練習試合でも、用意してみようか」
普段色々背負わされて大変なんだから、このぐらいの役得があっても良いだろう。
ねこねこはそう考えて、楽しそうにネクストオンラインから、ブレイブカードへと向かった。
その後、練習試合の打ち合わせのはずの会合で、いきなり黄昏と戦うことになったのは、ねこねこも心底驚いた出来事だった。
そのため、うっかりと感情と連動して、尻尾や耳が動くエモーションに関するオプションを切り忘れてしまい。憧れの黄昏と戦える嬉しさのあまり、暴れ狂う尻尾を隠すのに、人知れず必死になることになってしまっていた。
後ろ姿を見せないことで、七龍征の面々にはそれを隠していたねこねこだが、ばっちりとクランリーダーであるCCOには見られてしまい、その事をからかわれてぶち切れた結果、CCOに戦いを挑むことになって、それが原因でクラン内のバトルトーナメントが開催されることになったのは、また別のお話である。




