表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイブカード  作者: きしと
Enjoy Game
34/36

番外編 セキュリティ一斉捜査


「ユーザー主催イベント?」


 いつものように遊びに来ていた優理は、暁から聞いた言葉を思わず問い返していた。


「そ、ブレイブカードでは運営が主催するイベントと、ユーザーが主催するイベントの二つのイベントが存在している。

 今日はそんなユーザ主催イベントの一つである、【セキュリティ一斉捜査】に一緒に参加しようと思ってな」


 優理が用意した食事を取りながら、暁はそう説明する。

 それを聞いた優理は、疑問を素直に言葉にした。


「むぅ? ブレイブカードでユーザー主催のイベントがあるの?」


 ブレイブカードという本体のゲームの中でイベント開催するなら、それは運営が出した公式イベントになるのでは? という疑問が優理の頭を過ぎったのだ。

 暁はその意図を理解して、その疑問に答える。


「ブレイブカード運営が明確に、運営が主催するイベントと、ユーザーが主催するイベントを分けているからな。

 それもこれもまた、インフレ対策の為なんだが」

「また、インフレ対策?」


 優理はそれを聞いて思わずあきれ顔になった。

 確かサーバが、別々の世界観で運営されている、というおかしな作りも、インフレ対策によるものだったと思い出したのだ。


「まあ、それだけインフレを恐れてるんだよ」

「むぅ……。でも、イベントなんて普通に開催すればいいじゃん!」

「それだと新規カードを配布することなっちまうからなぁ……。

 今は無き、ソシャゲとかでもそうだったが、イベントを実施すると、そのイベントに関連した配布カードや、新規カードを作って用意しないといけない。そうなるとカードが増えてインフレが加速する」


 ソシャゲなどでも、季節イベントなどで頻繁に限定キャラを出していると、あっという間にインフレが加速して、二年経った頃には初期のキャラなどただの雑魚になっているだろう。


 ブレイブカード運営はその二の舞になることを恐れたのだ。

 だからこそ、自分達が主催という形ではイベントをやりたくなかった。

 だが、イベントを開催しないとユーザーが暇になって離れてしまう。


「イベントは開催しないといけないけど、自分ではイベントを出したくない……。そんなジレンマに陥った運営はこう思ったわけだ。『――だったら、ユーザーが主催したってことにしてしまえばいいんじゃね?』って」

「えぇ……」


 優理が呆れを通り越して、どん引きしたような声を出す。


「ユーザー主催したってものなら、運営がカードを追加する必要なんてないからな。適当に既存カードや、記念品カード、素材カードを賞品として渡せば良い」

「それって騙してるってこと? 怒らないの?」

「まあ、プレイヤーを騙してることにはなるだろうな。

 でもプレイヤー側も、運営がそこら辺に気を遣ってイベントを出さないようになっても困るから、黙認してる。

 だから、明らかに運営産と思われるようなしっかりとしたイベントが来ても、『ああー。こんなイベントを思いつくなんて凄いユーザーもいるんだなー(棒読み)』とか言って流して楽しんでるのが現状だ」


 他のゲームならぶち切れる人がいるかも知れないが、良くも悪くも順応能力が高いのが、デュエリストというものだ。

 『どうしてD・ホイールと合体しないんだ』とか『奴をデュエルで拘束せよ!』とかを言えるようになっていく、デュエリスト達に隙はない。


「ふ~ん。じゃあ、セキュリティ一斉捜査も、実は運営が主催したイベントなの?」

「いや、これに関しては正真正銘ユーザーが主催したイベントだ。5○'s好きのプレイヤーの一人が、運営に企画書を出して承認されたイベントになる。

 こう言ったパロディ的なイベントは、運営が主催したくても色々と問題になりそうで出来ないからな~。あくまでユーザーが勝手に考えて実施していて、ブレイブカードはその場所を提供しているだけっていう体面があるから何とかなってるんだ。

 そういった面を見ると、運営が破れかぶれで作ったユーザー主催イベントというものも、イベントの自由度が増えたという面では、存外悪いものではないのかもしれない」


 二次創作までは行かないが、パロディ的なものでイベントを作るのは、パロディ先の相手によっては偉い人が頭を下げたり、現場の人間が頭を丸める事にも繋がることもあるのだ。

 それがこんな形でも実現出来ているのは、このような形式があってのことだろう。


「……まあ、ここの運営は、なんかそんな感じばっかなんだがな。エラッタ戦争とかもそうだし」

「エラッタ戦争? エラッタって確かカードのテキストが変わることだよね?」


 暁の言葉に興味を引かれた優理が、暁にそう聞き返す。


「そうだ。よく知ってたな? 偉いぞ」

「ふふん! 優理も、ひび、せいちょーしてるからね!」


 ドヤ顔をでそう言う優理の頭を、黄昏は撫でる。

 そして続きの説明を始めた。


「優理が使っている[氷造の守護者]あるだろ? あれって水属性なのは知ってるよな?」

「うん。最初のスターターデッキで水属性を選んだから」

「だがな、実はブレイブカードには氷属性が存在するんだ」

「……えっ?」


 その暁の言葉を聞いて、優理は驚いたような声を上げた。

 だって、あのカード達はどう見ても氷。氷属性が存在するなら、水属性ではなく、氷属性であるのが正しいのではないかと思ったのだ。


「もっとも氷属性は後から追加された属性なんだがな。そうやって新しい属性が追加された時とか、他にもカードの細かい設定を変えるときなんかに、ブレイブカードでもエラッタが発生する。

 本来は運営側で、その全てのエラッタを決めていくものなんだが、運営とプレイヤーが近しいVRMMOというものでは、ユーザー側の意見を無視し続けることが出来なかった」


 本来カードゲームのカードは、提供会社が考えて、エラッタや禁止カードが出た場合は、ユーザーはそれを粛々と受け入れるしかない。どれだけ文句を言ったところで、その声が実際にそれらのカード効果を考えている部署には届かないだろう。

 だが、VRMMOではクレームとは直接運営に届く、更に言えば継続的に遊んで貰うことで利益を得ていて、新規参画者を得ることが難しいMMOでは、その意見を無碍にしてユーザーを減らすことは許されないことなのだ。


「エラッタして別属性になって欲しいプレイヤーも、エラッタして欲しくないプレイヤーも双方大勢いて、日夜運営にクレームを飛ばす戦争状態になったんだよ。最終的には双方の暴論に晒され続けてた運営がキレた。『そこまで言うならお前らが直接戦って決めろ! こっちが絶対に変えるってもの以外は、お前達に選ばせてやる!』ってな」

「投げやりばっかだね。運営」

「凄いストレスが溜まるんだよ。運営ってのは。何をやっても非難されるからな……。最後まで必死で調整して、最後の最後でぶん投げたくなる気持ちはよく分かる……」


 同じように別ゲームで夜勤のGMをやっている暁はしみじみといった。


「まあ、そんなこんなで運営がプレイヤーが決めてもいいと決めたカードに付いては、エラッタしたい側とエラッタさせたくない側でデュエルをして、どちらにするか決めることになった。

 これは結果的にガス抜きの役割を果たして、前ほどエラッタに対する不満はなくなったって話だ」


 全てではないとは言え、一応は自分の意見が通るから、文句を言う人が減ったということだろう。加えて言えば、更に文句を言って、今得たこの権利を失うことを恐れて、声を上げる人が減ったというだけかもしれないが。


「そんなこんなで、エラッタ戦争ってのは一種のイベントでお祭りなんだ。双方とも死肉漁り(グールズ)の傭兵を雇ったり、ただ戦いたいだけの獣の掟(ビーストロウ)が乱入してきたり、ともかく凄いことになる」

「ふ~ん」

「ま、エラッタは早々は起こらないし、今はあんまり関係ないか。

 それよりもどうする? 優理は一緒にセキュリティ一斉捜査に参加するか?」


 話を最初に戻して、暁は優理に問いかけた。


「参加する!」


 優理は元気いっぱいにそれに頷いた。


☆☆☆


 優理と暁は、二人ともブレイブカードの世界へとダイブした。

 会場となっている街に移動すると、イベントの受付にやってきた。


「いっぱい人がいる!」

「だな、セキュリティ一斉捜査は、割と人気のユーザー主催イベントだからな。今回で三回目だし、参加プレイヤーも気の入り方が違う」


 ふと目をこらせば、不良風のファッションで、プレイヤーネームをサテライトのクズにして参加しているプレイヤーや、逆に警官風の服装をして、牛島警部という名前に変えて参加しているプレイヤーも見かける。


「イベントにお集まりの皆さん! 三回目となる本イベントに参加して頂きありがとうございます! 主催者であるA-ALL(アール)が少し早いですが、イベントの説明を始めさせて頂きます」


 そんな言葉と共に、何処か蟹を思わせる髪型をした老人が、壇上に現れた。


「まず始めに、本イベントは前二回と同じように、その様子を録画、そして公開することになっています。映像にその姿を残したくないという方は、事前にプレイヤーネームとアバターを変更するか、オプションの設定で顔出しNGを設定してください。

 顔出しNGの方は、映像の一部がぶつ切りになってしまう可能性があるので、可能であればプレイヤーネーム等を変更する方で、対応して頂ければ有り難いです」


 A-ALLの言葉に、幾人かのプレイヤーがこの場から離れていく、このイベントが録画されることは事前の告知で記載してあったが、それを知らなかったのだろう。

 普段のイベントと違い、こう言ったパロディが多分に含んだイベントでは、色々な悪ノリをしたい場面が出てくると思うので、そのままの姿ではなく、自由度のある別人になることにしたのかも知れない。


「既にイベントに関する情報を、デュエルリングで確認しているかもしれませんが、改めて私の方から一通りのルールを説明します。

 簡単に言ってしまえば今回のデュエルはドロケイ形式となっています」


 そう言ってA-ALLは語り始めた。

 内容を纏めると以下の通りとなる。


 ・プレイヤーはデュエル開始前に泥棒と刑事にランダムに振り分けられる。

 ・特別仕様のフィールドには、特別施設として五カ所のモーメントと、各種乗り物が配置されている。この乗り物は自由に乗って動かすことが出来る。

 ・泥棒側は、モーメントを三カ所破壊すれば勝利となる。

 ・刑事側は、泥棒を全て牢屋送りにさせるか、指定時間までモーメントを三カ所破壊されなければ勝利となる。

 ・刑事側は、泥棒をタッチして『サテライト確保』と叫ぶか、エクストラタイムをゼロにすれば、泥棒を牢屋に送ることが出来る。

 ・泥棒側は、刑事のエクストラタイムをゼロにすれば、刑事をゲームから排除することが出来る。

 ・牢屋に送られた泥棒は、他の泥棒が牢屋を破壊することで救出することが出来る。

 ・泥棒側も、刑事側も、指定の補給ポイントに行けば、手札が五枚になるまでカードをドローすることが出来る。補給ポイントはそれぞれの側の分しか知らされない。


「前回とルールは変わってないな」


 黄昏はルールを見て確認するようにそう呟いた。


「では、そろそろイベントを開始します。泥棒――サテライト民と、刑事――セキュリティの振り分けを行います!」


 その言葉と共に、それぞれの頭上に、サテライトと、セキュリティの文字が浮かんだ。

 黄昏の頭上に浮かんだのは、サテライトの文字、ユーリの頭上には、セキュリティの文字が浮かんでいた。


「むぅ。おじさんとは敵同士みたいだね」

「そうだな。まあ、フィールドが広いから合わないかもしれないが、出会ったら遠慮抜きでよろしく頼むぜ」

「うん」


 そんな感じで、黄昏達がほのぼのと話している一方で、振り分けの結果に絶望する者達もいた。


「そんな~! なんで俺がセキュリティなんだ!!」


 そう心からの声で叫んだのは、サテライトのクズだ。

 その姿を見て、黄昏も、あれだけ準備して真逆の役は辛いな、と思わず思う。


「ではデュエルを始めます! 三、二、一……」

「「「「「「決闘デュエル!!」」」」」」


☆☆☆


 近未来的な都市の中の一画に、黄昏は転送されていた。


「さてと、それじゃ早速動きますか」


 そう言って、黄昏は歩き始めた。

 すると、すぐ目の前に、遊○号のようなバイクが、その場にぽつんと残されていた。


「ラッキー! いきなり乗り物ゲット!」


 このセキュリティ一斉操作イベントでは、パロディ元の5○'sと同じようにDホ○ールに乗って戦う事が出来るのだ。

 その為にイベントの各所には、このようにDホイー○がうち捨てられている。


 黄昏はそのバイクに乗ると、エンジンを起動させた。

 バイクなんて殆ど運転したことがない黄昏だが、アシスト機能で熟練のバイク乗りのように、軽快な乗りこなしで移動を始める。


 黄昏は一番手近な場所にあるモーメントへと向かっていた。

 そして移動する中で考える。


(このまま直接向かっても警備のセキュリティがいるよな。何処かで他のサテライトと合流するか、それとも気付かれずに接近出来る何かを……)


 そう思って黄昏がふと見た方向に、モノレールが移動しているのが目に入った。


(あれに乗って奇襲でもしますか)


 そうにやりと笑った黄昏は、バイクを走らせてモノレールの方へと移動していく。


 ――だが、その移動のさなかに。


「いたぞ! サテライトのクズ共だ!」

「コモンズを捕らえろ!」


 黄昏はセキュリティに発見されてしまった。


「くそ! いきなり二人に見つかるか!」


 黄昏は、バイクのスピードを上げて、モノレールへと向かって行く。

 そんな黄昏に向かって、セキュリティの二人が、同じようにバイクに乗って、猛追撃を仕掛けてきた。


「奴をデュエルで拘束しろ! [拘束されし者 アルタイル]! 拘束解放!」

「トップスの力を見てやるよ! [操具(そうぐ) 雷火の大剣]!」


 二人のセキュリティからカードが発動される。


 [拘束されし者]は、回数を余分に消費することで本来の性能を発揮するテーマだ。簡単に言ってしまえばシャ○バのエンハンスのような能力であると言える。

 [操具(そうぐ)]は、テーマ効果で召喚したタクトで、召喚された様々な道具を操り、戦わせる事が出来るテーマだ。


「っち。[機獣レットウ]×2!」


 黄昏側から召喚された、刀の魔物であるレットウが、雷と炎を纏う大剣と、猛烈な勢いでバイクと併走する、ちぎれた鎖を纏う大男と切り結ぶ。

 だが、硬直状態を生み出せたのは一瞬で、レットウはあっさりと、雷火の大剣で壊され、アルタイルに叩き潰された。


(くそっ。あっちの方がステは上、レットウじゃ、止めきれないか。とは言ってもこの移動の中じゃ、他のユニットはまともに戦えん)


 移動中のDホイー○とユニットが併走する為には、相応する素早さのステータスを持っているか、地面に囚われない飛行型のユニットでなければならない。

 黄昏の手持ちの中で、それらに該当するのは、レットウしかいない状況だった。


(手札でどうしようも出来ないなら、場にあるものを使う!)


「[帝国式フレアショット]! そして、こい! [レットウ]!」


 そして黄昏は帝国式フレアショットを使い、二人のセキュリティを撃つ。

 移動中なのもあって、狙いは定まっていないが、それでも数を撃てば、後ろから追跡にしてくる二人に当てるのは、さほど難しいことではない。


「ふん悪あがきを! 防げ! アルタイル!」

「守れ! [操具 六方陣盾]!」


 その攻撃を、一人目のセキュリティは、既に召喚したアルタイルで防ぎ、二人目のセキュリティは、新たに召喚した、六角形の魔法陣が刻まれた盾である六方陣盾で防いだ。


 それ目にした黄昏。

 だが、黄昏に焦りはない。


(これは牽制。狙い通りだ)


「いけ! レットウ! あのビルのガラスを打ち砕け!」


 黄昏の狙いはこの場に並び立つ高層ビルだった。

 高所にあるビルのガラスが割れれば、その大きな破片は重力に従って、凶器として降り注ぐ、その強烈な一撃を、セキュリティ達にお見舞いしようと考えたのだ。


 黄昏の狙い通り、レットウは高所にあったガラスを次々と打ち砕いた。

 それによって幾つものガラス片が降り注いでくる。


 黄昏のいる位置なら、それに当たる事無く通り抜けられる。

 だが、二人のセキュリティはそうではない。


(直撃コース……! 貰った!)


 降り注いでくるガラス片。

 それを見た瞬間、二人のセキュリティは目を合わせた。


「アルタイル! その盾に飛び乗れ!」


 一人目のセキュリティの命令で、六方陣盾にアルタイルが飛び乗る。

 それを確認するのと同時に、二人目のセキュリティがタクトで盾を操作し、盾を高速で回転させながら上昇させていく。

 その盾に捕まったアルタイルの鎖によって、それは高速回転する強大な鎖の盾として、彼らの頭上に現れ、ガラス片を次々と打ち砕いていった。


「なっ!? 連携プレイだと!?」

「「これがセキュリティの力だ!!」」

「セキュリティはセキュリティでも、世界観が別物だっただろ!」


 まるで連携して当然だと言った顔をする、5○'sとAR○-Vと言った別物の背景を持つ、セキュリティに思わず突っ込む黄昏。

 そんな黄昏の突っ込みを無視するように、二人のセキュリティは、そのまま六方陣盾に乗ったアルタイルを、黄昏に向かって飛ばし来る。


(まず……! 止めきれない……! ――いや、ギリギリ間に合った!)


 黄昏は、アルタイルが自分の元に到着する前に、モノレールへとバイクに乗ったまま飛び乗った。

 モノレールの車体を破壊して中に押し入った黄昏は、そのままモノレール内をバイクで走り続ける。


「逃がすか!」

「追い詰めたぞ!」


 そしてそんな黄昏を追って、二人のセキュリティはモノレール内にやってくる。


(このままじゃ、モーメントに奇襲なんてできっこない。

 ――なら! この状況を最大限利用する!)


 黄昏は、デュエルリングからカードを取り出すと、前方に向かって投げた。

 投げられたカードは、黄昏の前方にぶつかってセットされる。


「……?!」

「トラップだと!?」

「オープン! キカイ! これでおさらばさせて貰うぜ!」


 唐突なトラップに驚く二人のセキュリティの前で、黄昏は直ぐさまトラップを発動させる。

 そして自身は、車体をそのままバイクでぶち抜いて、空へと飛び出した。


「これは! バルタザー……!」

「六方陣盾!」


 二人のセキュリティが対策をしようとしたその瞬間、黒い煙を吐き出した空間は、粉塵爆発を起こして盛大に破壊された。

 そしてそれによって、モノレールのレールが壊れて、車体が地面へと落ちて行く。

 当然、そこに乗っていた二人のセキュリティも、落ちて行くモノレールから、宙へと放り出されて落下していった。


「助けてくれ! 遊○ええええー!!」


 上空へと手を伸ばしながら、何処かの未来のネオドミ○シティ民のような言葉を放って、一人のセキュリティが暗き闇の中に消えていった。


(ここでそのネタを使いますか)


 その言葉に、黄昏は思わずクスリと笑う。


(それにしてもこうやってやりたい放題無茶苦茶出来るのがVRの良いところだよな)


 追っ手を撒くためにモノレールを爆破する、なんてアクション映画のような行為は、現実だったら出来ないことだ。

 だが、仮想現実であるこの世界では、何かが実際に壊れるわけでもないので、幾らやっても問題がない。

 だからこそこう言った危険な行動ですら、取り得る選択肢になり得るのは、これがVRゲームだからこそと言ったものだった。


(さてと、このまま飛び乗って……? あれ? もしかして微妙に届かない?)


 爆風による後押しを受けたバイクで、手近なビルに飛び移ろうとしていた黄昏は、微妙に飛距離が足りず、届かないことに気付く。


「嘘だろ! クソ! 仕方ない!」


 黄昏はバイクを足場にして飛び出した。

 それによってギリギリ、ビルに辿り着くことができ、屋上を転がるようにしながら、無様に着地をする。


「ああ、俺の遊○号……」


 失った相棒を見て、思わずそう呟く黄昏、ふと自分が来た方へと目を向けると、そこには雷火の大剣をサーフボードのようにして乗って、宙を移動する二人目のセキュリティの姿があった。


「そう簡単には撒けないか!」


 黄昏は双剣槍を取り出すと、そのセキュリティへと向かって行った。


☆☆☆


 操具使いのセキュリティとの戦いからそれなりの時間が既に経っていた。

 イベント開始から、時間が一定時間経過したことから、設定された内容に従って、泥棒側の有利となるように、フィールドには豪雨が降り注いでいた。


「はぁ、はぁ。クソ、セキュリティの数が多すぎる……! 全くモーメントに近づけない……!」


 降りしきる豪雨の中、黄昏は思わずそう呟いた。


 操具使いのセキュリティを倒した後、黄昏は補給ポイントを利用しながら、何度かモーメントへと向かおうとした。

 だが、その度にセキュリティと遭遇して追い返されてしまった。


 一応、戦う事になったセキュリティは始末しているものの、消耗から補給ポイントへと向かう必要が出てきてしまうため、一向にモーメントに近づくことが出来なかった。

 更に、セキュリティを倒しても倒しても、モーメントに向かうとぶつかるため、一向に相手の戦力を減らした気にならないのも、黄昏の疲労を増長させていた。


「今の戦況はどうなってるんだ……? っげ! 泥棒側、もう半分以上やられてるじゃないか! モーメントは二つ壊してあるみたいだけど、誰も牢屋に救助に行ってないのか!?」


 デュエルリングを操作して、現在の泥棒と警察の人数を把握し、黄昏は思わずそう呟いた。

 モーメントを破壊するのを優先したのか、あと一つモーメントを破壊すれば勝利という状況に追い詰めているものの、泥棒側の戦力は既に三分の一まで減っていたのだ。


「こうなったら俺が牢屋を……!」

「捕らえたぞ!」


 今後の方針を決定しようとしていた黄昏を、何者かがその手で拘束する。


「く……!?」


(デュエルリングに夢中になっていた俺は、背後から近づく男に気付かず――なんて冗談言ってる場合じゃない! やっべ、脱出しないと牢屋行きだ!)


 後ろから黄昏を拘束する男から、何とか逃れようとするが、しっかりと押さえつけられているため、それが出来ない。


「サテラ……」

「おじさん……!」


 このまま為す術もなく負けるかと思ったその時、その場に新たな人物が乱入した。

 ユーリとセキュリティの男――サテライトのクズが新たにその場に現れたのだ。


 周囲の状況を視認した黄昏の脳裏に稲妻が走る。


 セキュリティに押さえ込まれる男、降り注ぐ雨、近くにある車両。そして取り押さえられる男の知り合いと、その側にいるセキュリティ――。この――状況は――!!


 その瞬間、ユーリを除いた三人が目だけで通じ合った。

 新たに来たサテライトのクズが、代表してデュエルリングを操作し、その頭上にRPロールプレイの文字を表示させた。


「見ろ、セキュリティへの反逆は第一級犯罪だ」

「へ?」


 唐突に語り出したサテライトのクズに、思わずそんな間抜けな返答を返すユーリ。

 彼はそんなユーリの様子を意に返さず、その肩に労うように手を置いた。


「奴には二度と会えないぞ。はははは」

「ユーリ! 裏切ったのか! 俺を売ったのか!」


 その様子を見た黄昏が怒り狂ったように叫ぶ。

 そしてその段階になってユーリは気付いた、これアニメで見たやつだと。


「違う、ユーリは」


 それに気付いたユーリは、その流れに合わせて、台詞の一部を自分の名前に変えながら、遊○の役どころを演じる。


「ユーリィィィイ!!!」


 車両へと放り投げられた黄昏は、その中でユーリに向かってそう叫けぶと、その扉がセキュリティの男によって閉じられた。


「おじさん……。おじさーん!!」


 ユーリの慟哭がその場に響いた。

 サテライトのクズがデュエルリングを操作してRPの文字を外すと、何事もなかったかのように扉をあげて黄昏が降りてきた。


「お疲れ様でーす」

「お疲れ」

「え?」


 まるでドラマの撮影が終わったかのように、先程までの熱演からあっさりと和気藹々とした雰囲気に戻る黄昏達、それをみて思わずユーリは再び間抜けな声を出した。


「いや~。即興にしてはなかなか完成度高かったんじゃない?」

「確かに、このイベントでこれが出来るってラッキーだったな」

「正直、俺がそっち側をやりたかったぜ、それにRP出すのってあんまり好きじゃないんだよな。やっぱりこういう即興って、何も出さずにやった方が面白いじゃん」


 サテライトのクズが心底悔しそうにそう呟いた。

 その言葉に「わかる~」ともう一人のセキュリティの男も頷く。


 状況について行けなくなったユーリは、黄昏の袖をちょいちょいと引っ張った。


「どういうこと?」


 全ての混乱が簡潔な一言に集約されていた。


「どいうことって、ただのロールプレイと、それが終わった後の感想だが?」

「それは分かってるけど……」


 ユーリの困惑を聞いた黄昏は、ユーリの疑問に答え始めた。


「いやさ、デュエリストってのは、割と根っからのロールプレイヤーなんだよ。そもそもアニメみてカードを買うこと自体、そのアニメキャラの真似事をするようなものだからな。

 だから、デュエリストってのは案外ノリがいいんだ。こうやって名シーンが再現できる状況になったら、思わずノリノリでそれを再現してしまうものなのさ」

「へぇ~」

「ここまで見事に嵌まるのも珍しいけどな、おかげで達成感が半端ない」


 黄昏はそうしみじみと言った。

 そしてさわやかにその場にいるものに告げる。


「いや~。良い経験させて貰ったよ。それじゃ、俺はこの辺で失礼するよ」


 そう言って逃げだそうとした黄昏の肩を誰かが掴んだ。


「いや、逃がさないよ?」

「ですよね~」


 この後、黄昏は、三対一で徹底的にボコられた。


☆☆☆


「まさかあの後、誰も助けにこないとは……」

「最後まで牢屋にいたね」


 愕然として様子でそう呟いた黄昏に、ユーリは肯定の言葉を返した。

 あの戦いの後、牢屋に送り込まれた黄昏は、誰にも救助されないまま、そのゲームが終わってしまったのだ。


「ユーリは最後の決戦前に倒されたんだっけ」

「うん、満足さんってプレイヤーにやられちゃった」

「あ~、満足さんか~、それはしゃーない。結局あの人が最後のモーメントを壊して、泥棒側の勝ちになったしな」


 黄昏はそう言って、録画されたイベントの映像を表示した。

 そこには最後に破壊されたモーメントを守るA-ALLの姿と、それを破壊しようと襲いかかる満足さんの姿があった。


 [機巧]テーマのテーマ効果で常時召喚されているコックピットに、魔神機巧などのパーツ名を宣言することでそのパーツを召還出来るカードを使用してパーツを装備させ、ロケットパンチなどのロボットに発動させるスキルを多用して戦うA-AAL。

 一方で満足さんは手札がゼロの時に効果を発揮する[狂戦士ベルセルク]テーマを使用して、次々と攻撃的な連携を見せて追い詰めていっていた。


 名前と紐付いた原作リスペクトのような効果を使っている二人に、黄昏は思わず確かな満足サティスファクションを抱いた。


(もっともA-AALの元ネタ的には、時○神だからロボットである機巧とは似ても似つかないものだけど。まあ、時○神に似たテーマがないから仕方ないか、あのロボットもZ-O○Eさんが乗ってるDホイール等だと思えば在りと言えばありだ)


 イベントの映像を確認し終えて、黄昏は一息つく。

 そしてユーリに向かって言った。


「どうだユーリ楽しかったか?」

「うん! 複数人で戦うのはいつものと違った感じで、これはこれで面白かった!」

「そうか、それは良かった。じゃあ、今日はもう帰るか」

「うん」


 そう言って二人はログアウトの準備を進める。

 その中でユーリがふと呟いた。


「次回大会も参加しようね」

「次は同じチームだと面白いかもな」

「だね!」


 黄昏はユーリの言葉を肯定し、そして二人は現実へと戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ