エピローグ1
「手札のエレメンタルのケモノの効果を発動! このカードの属性を地属性に! そしてコネクト! 召喚条件は傾界機龍バハムート・ギアと地属性マジックカード! 連なり重なり歪む世界の底から! その雄叫びを轟し! 万物を圧し尽くせ! [歪界機龍バハムート・地・ギア]!」
ユーリの目の前に、焦げ茶色に近づいた灰銀を纏った龍が、その場に姿を現した。
それを見てユーリは直ぐさま、その龍と反対の方角へと駆け出した。
ユーリ達が今居るこの場所は、対戦室のランダム選択で選択された、[天空城への道]という名のフィールドだ。
[天空城への道]は、幾つものパネルが空中に浮かび、それが五つの階層の足場となっているフィールドで、それらの階層やパネル間を、矢印の記載されたパネルに乗って、その矢印を踏むことで、パネルを移動させて進むことになる。
ユーリは目の前にある、進行方向向きの矢印が記載されたパネルに飛び乗って、その矢印を足で踏んづけた。
それによってパネルが移動を始め、バハムートから距離を取っていく。
(上下にいける矢印がよかった……)
ユーリは内心そう思いながらも、パネルごとに矢印のパターンが変わっているから仕方ないと諦め、最低限距離を離せるからと納得する。
(ユーリの手札には氷花がある。それにいざとなったら、下の階層のパネルに飛び落ちれば攻撃を躱せる。何があろうとも問題ない)
ユーリがそう思っていると、パネルが次の無地のパネルの足場についた。
「歪界機龍バハムート・地・ギアのキカイの効果! 湾曲特異点!」
黄昏の言葉と共に、バハムートが、フィールド全体に、黒寄りのエネルギーで出来た球体を、複数発生させた。
「むぅ……?」
だが、その球体は、ユーリに何の影響も及ばさなかった。
特に効果を発揮しないそれらを見て、ユーリは思わず疑問の声をあげる。
「初見殺しを喰らえ! 崩界のエクストリームバースト!」
バハムートから強力なブレスが放たれる。
それを見て、内心ユーリは歓喜した。
(きた!)
その攻撃を受け止める準備は出来ている。
ユーリは自分の手札を思い出しながら、そのカード名を宣言した。
「[氷花]!」
(これで逸らして防ぐ! EPも残り少ないはず。これで――!)
氷花へとブレスが向かって行く。
だが、それを見た黄昏は、満面の笑顔を見せた。
「あまい! これで俺の勝ちだ! 歪め! ブレス!」
その言葉と同時に、球体側へとブレスが曲がった。
(――え?)
そして曲がったブレスは、更に別の球体によって曲がり、ユーリが放った氷花を迂回して、ユーリへと迫る。
「そんな!?」
ユーリが叫んだその時、躱しきれなかったユーリの体の半分を、ブレスが吹き飛ばした。
HPがゼロになったユーリは、エクストラタイムに突入する。
だが、既にユーリには、リバイブを行う為の未使用の手札がない。
「うわ~!」
そして上半身だけとなったユーリは、そのまま為す術もないまま、パネルから落ちて空へと落下する。
[天空城への道]では、地面がないエリアに落下した場合、一定高度より下にいくと、HP全損扱いでパネルの上に戻されるのだ。
エクストラタイムになっていたユーリは、パネルに戻ることはなく、そのまま碌なエクストラタイムもないままに、敗北して消えていった。
☆☆☆
「これで一敗五勝、そして俺の五連勝だな」
「むぅぅう! 最後のあれ! 何!」
復活して対戦室に戻ってきたユーリは、膨れっ面になりながらも、最後の曲がるブレスについて、黄昏を問い詰めた。
「あれは歪界機龍バハムート・地・ギアのキカイの効果さ、ブレスを曲げる特殊な重力場を生み出して、ブレスを湾曲させて相手に当てることが出来る」
「何その変な効果! ずるい! ずるい! バハムート! ずる~い!! だからユーリがこんなに負けるんだ~!!」
地面に寝っ転がり、聞き分けのない子供のように、手足をじたばたとさせるユーリ。
それを見て、黄昏は呆れたような表情を作った。
「おいおい。俺がバハムートを使ったのはこの五連勝の中で、今回の一回だけだろうが、後の四回はバハムートなしでの勝利、つまるところ俺の実力ってやつだ。
まあ、バハムートありでも、俺の実力ってことに変わりはないけどな!」
「むぅぅうううう! もう一回! もう一回やろ!」
更に膨れっ面になるユーリが、そう黄昏に頼み込む。
黄昏は、手元のデュエルリングで時間を確認すると言った。
「元々どちらかが五勝するまでの話だし、もう良い時間だから止めとくわ」
「何で!?」
「何でっていま理由言ったよね!? 俺にだってリアルの生活とか色々あるんだから、そうぶっ通しでいつまでも遊び続けてられないっての!」
ゲームはあくまでゲーム。
楽しむ為の娯楽であり、それを維持するためには、現実的な生活をしっかりとしないといけない。
それを理解している黄昏は、そろそろ今日は遊び終えようと思っていたのだ。
「むぅ……」
ユーリとて、現実で活動しなければ行けないことは分かっている。
だからこそ、黄昏がここで遊び終えることは理解出来る。
だが、論理的に理解出来るのと、感情的に許せないのは別物だった。
「じゃあな」
そうこうしている間にも、黄昏はデュエルリングを操作して、ログアウトしようとする。
それを見てユーリは焦った、このままでは逃げられてしまうと。
そんな中で、ユーリの中に、今回のような状況を打破するための、悪魔的なヒラメキが過ぎった。
「――そうだ! オフ会しよう!!」
「は? オフ会?」
唐突にオフ会などと語り出したユーリを前に、黄昏は思わずログアウトするための手を止める。
「うん! ゲームで遊べないならリアルで遊ぼう!」
「いや、ちょっと極論過ぎやしませんかね。ユーリさん」
「ユーリにカードゲームを布教するんでしょ? なら現実のカードゲームも教えて!」
「ぐ、こざかしいまねを……。そんな大義名分掲げられたら断れないだろうが」
ユーリは黄昏が前に言っていた、ユーリにカードゲームを布教すると言う話を持ち出して、黄昏を強引に説得する。
ユーリは、この話を持ち出せば、黄昏は断れないと思ったのだ。
そしてそれは事実であり、カードゲームの布教をしたいと常々思っている黄昏は、ユーリの提案に乗らざる終えなかった。
「はぁ。分かったよ。行きつけのカードショップがあるから、そこに連れて行ってやる」
「やった!」
こうして黄昏とユーリは、オフ会をすることになったのだった。




