エピローグ2
そうして約束したオフ会の日。
暁は待ち合わせ場所にした最寄り駅まで、ユーリを迎えに行っていた。
(さてと、ユーリは何処にいるかな? リアルの姿は知らないからな~。目印の為に赤い帽子を被っておくとか言ってたけど)
暁は周囲を見回す。
時間帯が時間帯ということもあり、VR内で全てをこなせるようになったこの世界でも、それなりの人通りがその場にあった。
近くにいる女性や、念の為に男性に目を向けるが、それらしき人は見当たらない。
(ユーリに直接は聞いてないが、アバターが女性だとしても、中身も女だとは限らないからな、念の為に男も見ているが、どちらにしろ、それらしいのはいないな)
「ん?」
そんな中、暁の裾を、何かがちょんちょんと引っ張った。
暁が視線を向けると、赤い帽子を被った幼稚園……いや、小学校低学年くらいの、将来美人になりそうな、可愛らしい女の子が、黄昏の裾を引っ張っていた。
「どうした? 迷子か? すぐ側に交番があるから連れて行こうか?」
その言葉に、幼女はふるふると否定するように頭を振った。
そして暁のバックについていた、遊○王キャラのストラップを指差す。
「そのストラップ。黄昏だよね?」
「は?」
その言葉を聞いて暁は唖然とした。
確かにユーリには、自分を見分けるために、遊○王キャラのストラップを付けていくと言い、現物の画像をあちらで見せていた。しかし――。
暁はもう一度、まじまじとその幼女を見た。
その幼女は、何処と無くユーリの面影があった。
何処か可愛らしい顔つき、下結いのポニーテイル。
服装はさすがに巫女服のようなものではなく、水色のワンピースだが、この幼女が成長すれば、ユーリのような見た目になるのではないか、と暁に思わせるほどだった。
「もしかして――ユーリ?」
「うん! そうだよ!」
自分が話しかけた相手が黄昏だったと分かって、無邪気にはしゃぐ幼女。
それを見て、暁は思わず問いかけた。
「お前――」
「お前じゃない。優理は白河優理」
「じゃあ、優理は何歳なんだ?」
余りの若さに、暁は問わずにいられなかった。
新人類である以上、暁より年下なのは確定していた。
だが、それでも少なくとも10歳は越えているだろうと予想していたのだ。
「えーと。たぶん6歳!」
「たぶんて……そんな曖昧な。親に誕生日とか祝われてればわかるだろ?」
「優理に親は居ないよ」
暁の言葉に優理は冷たくそう返した。
その感情を押し殺したような言葉に、暁が思わず口籠もっていると、優理は明るく暁に向かって言う。
「だから誕生日なんて知らないけど、たぶん6歳だよ! もしかしたら5歳かも知れないけど、学校行っていない優理には、歳なんてあんまり意味ないし!」
「……あー。そうか。それにしても優理って、プレイヤーネームとほぼ同じ名前なんだな」
暁は、優理の剣幕に、それ以上この話を広げるのを止めて、別の話題に切り替える。
「そうだよ? 何か問題あるの?」
「まあ、あるっちゃあるな。ネットリテラシーってやつだ」
「ネットリテラシー?」
「現実そのままの名前だと、個人情報を知られてしまうだろう?
特にユーリは、自分の成長予測をそのままアバターにしたのか知らんけど、見た目も似ているし。俺達世代の人間なら、そう言った時は、名前をもじったプレイヤーネームを付けるんだ」
そこまで言った所で、暁は自分が自己紹介していないことに気付いた。
「例えば、俺の名前は時任暁って言うんだが、その名前をもじって暁の対義語になる黄昏って言葉をプレイヤーネームにしてるみたいな感じだな」
(うちは変な家訓で名前に時間に関する語句を入れる必要があるんだよな……。
おかげで暁なんてキラキラネーム一歩手前の名前だし、歴史の重大な局面によく傍観者として関わったから家訓が出来たって話だけど、VRなんて世界を丸ごとひっくり返すような存在の誕生に、俺が関わってない時点で眉唾だよな。
まあ、家訓なんてそんな感じのただの験担ぎなのかもしれないが)
そんな自分の名前の由来について考えている間に、優理は黄昏の言ったことについて悩むと、直ぐにその思考を打ち切って笑顔でいった。
「う~ん。よくわからない! だってどっちも自分だよ? 同じ名前で問題ないと思う!」
(これが新人類の考え方か)
暁は、優理の言葉を聞いて、思わずそう思った。
実は新人類の中では優理のような考えをしているものが大半だ。
なぜなら幼い頃からVRに触れている彼らに取っては、VRが生み出す仮想世界とは第二の現実であり、そのままの自分が居るべき場所となるからだ。
だからこそ、優理のように、そのままの名前をプレイヤーネームとして使い、アバターすらも現在の自分の容姿をそのまま反映することが多いのだ。
勿論、全員が全員そのような、そのままの姿や名前でプレイしているわけではない。旧人類達からネットリテラシーを聞いてそれを実施しているものや、厨二病や何らかのアニメ等の真似などで、姿や名前を変える新人類もいるにはいる。
だが、それは少数であり、多くの者が姿と名前を偽ってプレイする旧人類とは、対極の存在となっていると言えるのだ。
(これが時代の差ってやつか。
まさか自分が古い世代になるとはな)
ネットリテラシー等言っているのも、もう時代遅れなのかも知れない。
そんな事にもの悲しさを感じつつも、暁は話を打ち切って優理に語りかけた。
「まあ、本人の自由だしな。じゃあ行くか」
そう言って暁は優理に向かって手を出した。
小さな優理が、人混みの中ではぐれるのを避けるために、手を繋ごうと思ったのだ。
それを見てきょとんとした優理は、差し出された手の意味を理解すると、笑顔で「うん!」と言いながらその手を握った。
「♪~♪♪」
ノリノリでぶぶんと、手を振りながら、鼻歌を歌う優理。
黙々と歩く中で、ふと優理は暁に向かって問いかけた。
「これから何処行くの?」
「前にも話した通り、カードショップだ」
「カードショップ?」
聞き慣れない言葉に、優理は思わず問い返す。
「あんまり聞いた事ないか。まあ、ばったばったと潰れていったからな~。今も残っているカードショップなんてほぼないし、仕方ないか」
暁は残念そうにそう言いながら、優理の為に説明する。
「カードショップってのは、その名前の通り、カードを売っているお店だ。一種類のカードゲームだけじゃなく、色々なカードゲームのカードを売っている。
これから行く店は、大企業に勤めていた俺の知り合いが、退職した後に道楽で始めた店で、俺の行きつけのカードショップなんだ」
「良く行くの?」
「ああ、店が俺の家の近くにあるからな。ここら辺で残ってるカードショップはあそこしかないし……というか、あの店だけが道楽で続けられるから、採算度外視で保っているようなものなんだけどな」
黄昏の行きつけのカードショップは、黄昏の知り合いが店長をやっている店だ。
老後のためにと溜めた資金で道楽として始めたそれは、他のカードショップと違い、資金繰りを考える必要がないため、潰れた店から在庫を次々と買い漁り、その大量の資産でデュエリスト達を集めて、このご時世でも暢気に営業を続けられているという希有な店だった。
「ここだ。このビルの二階にある。階段は大丈夫か?」
「うん」
目的の店【源遊堂】が存在しているビルの前に立った暁は、その二階へと繋がる階段を見て、優理に問いかけた。
優理は一言頷くと、何てこともないように、軽々と階段をジャンプするように進んでいく。
(さすが新人類と言った所か? 身長的には大変そうな階段を、軽々と上っていくな。
……しっかし、カードショップって言うのは、なんでこう古いビルの二階とか、奥まった場所にあるかね~)
暁も淡々と階段を登っていく、そして階段を登り切り、そこにあった源遊堂と書かれたドアを開けて中に入ると、その中は大勢のデュエリスト達で溢れかえっていた。
「いらっしゃい。おや、その子は……?」
「邪魔するよ。店長。それで此奴は……」
「まさか隠し子ですか!?」
「はぁっ!?」
親しくしている店長から、いの一番で飛び出したその言葉に暁は思わず声を荒げた。
「まさか暁くんに隠し子が居たとは……。
友人である私に知らせてくれないなんて水くさいですよ」
「ちょっと待って店長! 俺にそんなものがいないってことは店長もよく知ってるでしょうが! そんなふざけたことは言わないでくれ! この子はオフ会でカードショップに案内しただけだよ!!」
とんでもない濡れ衣を着せられそうになった黄昏は必死で弁明する。
しかしそれを耳にした店長は目を鋭くし、机からマイギアと連動する携帯端末を取り出した。
「オフ会と称してそんな年端もいかない子を連れ回す……。
残念です暁くん。君はそんな人ではないと思っていましたが……。安心してください私のお金で優秀な弁護士はつけてあげますから」
「何処に電話する気だ!」
「110、110」
「止めて! ほんとに止めて! 社会的に終わっちゃう!!」
端末を取り上げようとする暁。
店長は軽やかにそれを躱すと、笑顔で言った。
「冗談ですよ。暁くんがそんな人ではないことは分かってますから」
「冗談が冗談になってないんだよ……」
げっそりと疲れた顔をする暁とは対照的に、楽しそうにしていた店長が、優理へと視線を向ける。
「改めてまして、私はこの源遊堂の店長をしている神代源一です。よろしくお願いしますねお嬢さん」
そう言って、源遊堂のエプロンを着けた紳士的な風貌の初老の男性が頭を下げた。
「優理は白河優理です! よろしく!」
神代の言葉に、優理は元気よく言葉を返す。
それを見た神代は、楽しそうに笑った。
「元気があっていいですね。
ここは道楽で続けているような、しがないカードショップですが、楽しんで行ってください」
「ふう。まったく、……優理。こっちだ」
一通り落ち着いた暁は、優理を伴って店の奥に入った。
そこには様々なカードがガラスケースの中にあり、それとは別に幾つものパックが、壁に付けられたフックに掛けられる形で存在していた。
「すご~い! カードが一杯ある!」
「そうだろう。そうだろう」
優理の言葉に、思わず機嫌が良くなった黄昏は、同じ言葉を二回繰り返すことが好きなとあるカードゲームアニメキャラのような言葉を放つ。
「おいおい。時任。その子はなんだ? 隠し子か?」
「その下りはもうやった」
「なんだ。それは残念」
店の奥にあるデュエルスペースから、騒がしいこっちの様子を見に来た、知り合いのデュエリストから投げかけられた言葉に、暁はあっさりとそう返した。
暁からそんな返答を返されたその男は、面白くねーのと言った顔をして、再びデュエルスペースへと戻り、友達とのデュエルを再開する。
「あそこは?」
「ああ、あそこは……」
「あそこは持ち込んだカードや、買ったカードで、自由にデュエルすることが出来るデュエルスペースだよ。大抵のカードショップには必ずあるものだね」
優理のデュエルスペースに関する質問に、暁が答えるよりも速く、側に居たアイドルと言われても通じるようなイケメンが答える。
「天沢か! 久しぶりだな!」
それを見た暁が声を上げた。
「いや、久しぶりだね。時任。最近は舞台が忙しくてここにこれなかったけど、大体演技も覚えて稽古が一段落したからまた顔出しに来たのさ」
「?」
この人は誰だ? 何を言っているんだ? という顔をする優理。
そんな優理に向けて、暁が彼を紹介する。
「此奴は俺の知り合いの天沢修斗だ。稽古っていのは此奴が所属しているVR劇団の舞台のための稽古のことだろう。主演俳優やってるから何かと忙しいんだよな」
「そうだね~」
和気藹々と話す両者。
だが、ユーリにはまだ分からないことがあった。
「VR劇団って?」
「ユーリはあんまりそういうのを見たことがないのか。VRが出てきたことで産まれた新たな劇団の形ってやつだ。
これまでの俳優や女優は、元の顔が良いか、個性がないと、幾ら演技力があっても人気になることが出来なかった。
だからこそ、俳優や女優に興味があってもその業界に進めない者や、演技力は誰よりもあるのに冷や飯を食うことになるやつが大勢いた。
だけど、VR――仮想世界でなら、アバターとして自分の好きな姿を作り上げることが出来る。それに気付いた奴らがVR空間内で立ち上げたのがVR劇団だ」
現実では変えられないどうしようもない事柄でも、仮想世界なら自由に変えることが出来るのだ。
このように本来不可能だったことが可能になることで、VRによって新たな職業の形態が出てきたもの多い。VR劇団とはその中の一つだ。
「だから現実の劇団なんかよりも、モチベーションが高く、演技力が高いって言われてる。
まあ、顔で足切りされてた実力者が面に出てきただけってことかも知れないがな。
もっとも此奴のイケメン顔ならどちらでも活躍出来ただろうが」
「ははは、そう褒められると素直に嬉しいね。
でも僕は、僕自身の演技力を見て貰いたかったから、今のVR劇団の方が自分にあってると思うよ」
「へぇ~」
一連の流れを聞いた優理からそんな声があがる。
黄昏は最後に付け加えるように言った。
「俺も何回か此奴の舞台を見に行ったことがあるんだ。
なんなら、今度優理も一緒に見に行くか?」
「いいの? じゃあ見に行く!」
「そう言って貰えると嬉しいね。折角だし、二人の為に身内割引の券を今度プレゼントするよ。受け渡しはいつも通りブレイブカードでいいでしょ?」
「いつも悪いな」
「いいってことさ、どっちにしろ券は捌かないといけないしね。割引付きでも売れれば御の字ってやつだよ」
優理の目の前でそんな気安いやり取りが繰り広げるが、優理はそれより気になることがあった。
「ブレイブカードやってるの!?」
「やってるよ。その様子だと優理ちゃんもやってるのかな?」
「というかここにいる奴はみんな根っからのデュエリストなんだから、基本的に全員ブレイブカードやってるぞ」
「そうなの!?」
黄昏達の言葉が聞こえたのか、周囲から「俺もやってるぜ~」という声があがった。
「あっちでは、僕はエイトと言う名前で、【マスカレード】のクランリーダーをやってるよ」
そう言って天沢はさわやかに挨拶した。
それを聞いた優理は困った顔をする。
「言って良かったの? なんか、ねっとりてらしーってのがあるんだよね?」
「ああ、僕の場合は、名前を広げて劇団の集客つなげなくちゃいけないからね。そこら辺は普通の人とちょっと違うかな」
「むぅ。むずかしい……」
「ま、そのうち分かるようになるさ、それよりも今はこっちだ」
そう言って暁は、ユーリに幾つものパックを見せた。
「今日は俺が奢ってやるから、優理は好きなカードを買ってデッキを作るといい。あ、さすがに全ては無理だからどれか一つのカードゲームに絞れよ? 一応どのカードゲームでも出来るように俺はそれぞれのデッキを持ってきてるから、何でも大丈夫だ」
「ありがとう! このパックてのを買えばいいの?」
「そうだな。基本的にはパックを買ってデッキの指定枚数……遊○王とかだと40枚を集まればデュエルは出来る。
だけど、こう言ったストラクチャーデッキとかの方が最初に始めるならオススメだ。ストラクチャーデッキを三箱買って、重要なカードを三枚入れれば、大抵のカードゲームで現行のデッキとも戦えるようになるからな」
「ふ~ん。どれにしようかな~」
優理はワクワクとした様子で、壁にかけられたパックや、ストラクチャーデッキ、ガラスケースの中のカードを見ていく。
そんな中で、デュエルを終えて、こちらにデュエリスト仲間達がやってきていた。
「優理ちゃんとか言ったっけ? このホルアクティってカードにすると良いよ」
「ほるあくてぃ?」
「ちょ! 待て! 人の金だと思ってすこぶる高いカードを買わせようとするんじゃない!」
それ聞いた他のデュエリストが別の声をあげる。
「カードゲームの楽しさと言ったらパックを開ける楽しさだろ! ウルレアも含めてさ、三枚ずつになるまでパックを開けた方が良いよ」
「やめろ! パックを開ける楽しさは分かるが、俺は金欠気味なんだ。そんなパックの買い漁り攻勢は耐えられない! ともかく高いのは禁止! お前らも買わさせようとするな! ほら! 散った散った!」
暁は集まったデュエリスト達を追い払う。
そんな中で、優理は多くのデュエリストの助言を受けながら、真剣に吟味して、遂にデッキを完成させた。
「完成した!」
キラキラとした顔でそう言う優理。
その表情になくなった金銭で心を痛めながらも、満足した表情をする暁。
「じゃあ、早速やるとするか」
「うん!」
二人はデュエルスペースへと移動して、空いている席に向かい会って座る。
優理は椅子に座っても座高が足りなかったので、店長から貰ったクッションを下に引いて高さを揃えた。
他のデュエリスト達が野次馬として集まる中、二人は宣言する。
「「決闘!」」
☆☆☆
周囲にいたデュエリスト達の野次などを交えながらも、二人で楽しくデュエルする優理と暁。
時折、自分もやると言って入り込んできた、他のデュエリスト達とも戦いながら過ごしていると、いつの間にかかなり遅い時間となっていた。
「ふ~。久しぶりに時間を忘れて遊んじまったな。優理、今日はもう遅いからあがるぞ?」
「え~。もう帰るの? 優理はまだやれるよ!」
「だ~め。暗くなると危なくなるからな」
「優理なら何とかなるよ?」
「優理が大丈夫でも、俺がヤバいんだよ」
新人類の登場によって、夜道を歩いていて最も危険なのは暁のようなおっさんとなった。
なぜなら新人類は個人個人で強化度が異なっており、例えユーリのような幼女が相手でも、相手の強化値が高ければ、高ステータスのプレイヤーに、低ステータスのプレイヤーが挑むように、ぼろぞうきんのように倒されてしまうことがあるからだ。
そんな風に見た目で危険度が分かりにくくなった世の中で、自分達より雑魚だと言ったことが確実視出来る存在がある――それは旧人類だ。
だからこそ不良である新人類達は旧人類を狙うが、旧人類の中でも更に弱い女性を狙うのは、余りにも情けなさ過ぎると考えているため、おっさんばかりを狙うようになったのだ。
(そうやって、新人類に襲われたおっさんやその家族が、新人類に恐怖と憎しみを抱き、自分の子供に対しての扱いが変わってしまい、それによって親の愛を受けられなくなった新人類が、新たなる不良と化すという負の循環があるんだよな……。難儀な世の中だよほんと)
黄昏は、現在の情勢が生み出す負の現象について思いを馳せて、心の中で思わずため息を付く。
「不良の新人類にでもあったらボコられるからな。ここら辺は治安もいいし、いざという時の護身用の道具も持っているけど、遅くならないうちに帰らないと危ないことには危ない。
ほら、他の奴らも帰り仕度を始めてるだろ?」
黄昏の指摘通り、店内の人数は少なくなっていた。
「むぅ……! なら優理が!」
「駄目だ。危ない真似はさせられない。帰るぞ」
不良を全部やっつけるし、と言おうとした優理を、黄昏が強い言葉で止める。
その頑な姿勢に、しょんぼりとした優理は、仕方なく帰り仕度を始めた。
「まあ、そんな残念がるな。タイミングが合えばまたいつでも遊んでやるからさ」
「ほんとう?」
「まあ、俺の出来る限りはな」
そう言って準備を終えた暁は、源遊堂を後にした。
駅まで、今日のことを楽しそうに話す優理の聞き役をし、そして駅で別れる。
「こっから先は一人で帰れるな」
「うん」
「それじゃ、またな」
「うん。またね」
「?」
『またね』の部分を意味深に強めた優理に、暁は疑問符を浮かべるが、大して考えもせずにそのまま帰途につく。
そんな暁の後ろ姿を見ていた優理は、駅に行く振りを止めて、暁の追跡を開始した。




