まだ負けてない
(強い――)
それがユーリの偽らざる本音だった。
ユーリは今までの制限を外してカードを使い始めた。
だが、そのユーリの猛攻は容易く受け流され、逆にこうして追い詰められる形になっている。
黄昏が言った通り、黄昏はユーリより強かった。
ユーリは本気で戦っているのに、今だ勝ち筋が見えてこない。
それに、それだけではない。
あのバハムートの進化形なんていう、とんでもない奥の手まで出してきた。
(でも、勝つのユーリ!)
ユーリは心の底からそう思った。
相手が強いと認めるからこそ、ユーリも全力でその強さに答え、それを乗り越えることにこそ、楽しさが表れる。
ユーリはゲームに存在する、そんな当たり前の楽しさを改めて実感し、心の底からそれを楽しんでいた。
ユーリは、黄昏の元に向かって駆け出す。
相も変わらず侵入不可能エリアはあるが、それを避けて、すらすらと進んでいく。
ユーリは誘っていた。黄昏がブレスを撃つことを。
既に黄昏の手札がないことは把握している。
ユーリを止めるためには、それしか手がないはずだとユーリは考えたのだ。
(EPは1.5回分! 躱せばユーリの勝ちに近づく!)
「灼界機龍バハムート・炎・ギアのキカイの効果を発動! フレアバーン! 全てを弾き飛ばせ!!」
だが、そんなユーリの思惑とは裏腹に、黄昏はブレスを放たなかった。
バハムートのキカイの効果を発動し、それに答えたバハムートは、燃え盛る機械の拳で、地面を思いっきり叩いた。
「――うわ!?」
そして、そこを中心とするように、ドーム状の炎の壁が産まれて、全てを弾き飛ばしていく。
勿論それにはユーリも巻き込まれ、バハムートの居る場所から、大きく離れた位置へと、吹き飛ばされてしまった。
「うぅ。延焼状態になってる!?」
ユーリは慌てて体についた炎を消すと、起き上がり、バハムートの方へと視線を向けた。
(これは――)
ユーリが考察を進めるより速く、黄昏がその口を開く。
「灼界機龍バハムート・炎・ギアのキカイの力は、周囲のもの全てを弾き飛ばす炎の領域を作り出すものだ。
ユーリ、これでお前は、俺やバハムートに近づくことは出来なくなった。
そして――汎用テーマ効果! チャージアップ発動!」
黄昏はそう言うと、汎用テーマ効果を発動し、DPの溜まりを速くする。
「これで待つという選択肢もなくなった」
「む……」
「ユーリの手札、その最後の一枚はもう割れている。それはスペシャルカード、氷造の守護者ミミックだな?」
「――っ!? なんで!?」
ユーリは、自分の最後の手札を言い当てられて、思わず動揺する。
黄昏はその様子を見て、己の考えがあっていたと、にやりと笑ったあと、それを見破った理由について語り始めた。
「そのカードは最初から手札にあった。
だが、今まで一度も使われていない。
だとするなら、使いにくいカードで、同時にバハムートを倒すことの出来ないカードだと、ユーリが考えたとみるべきだ。
[氷造の守護者]のスターターデッキの内容は全て把握しているが、初心者用に使いやすいカードで揃えられているために、該当するとしたら代償が必要なスペシャルカード以外考えられない」
「……」
黄昏の推察に、ユーリは無言で回答する。
だが、その無言こそが、黄昏が言っていることが正解であると、如実に語っていた。
「あえて言わせてもらおうか! そのカードではバハムートを倒せない!
そしてユーリ自身はキカイの効果で近づくことは出来ない!
加えてこのターンに俺を倒せなければ、新たなカードとバハムートを従えた俺が勝つ!
ユーリ! お前の負けだ!」
「ユーリの……負け?」
黄昏の指摘を受けて、ユーリの思わずそう呟く。
ここまでなのか、もう手がないのか。
突き付けられた敗北宣言に、狼狽えながらも必死で考える。
負けたくない――。
このゲームを好きになったからこそ、勝ちたい――。
そこでユーリは、これまで自分が打ち倒してきた、他のゲームのトッププレイヤー達の気持ちに気付いた。
自分の好きなもので負けるのがこんなにも悔しいのだと、だからこそ彼らはあんなにも必死に戦って、そして作業のように負かした自分を罵倒したのだと。
(ユーリの番が来ただけ)
思わずそんな負け犬の気持ちが、ユーリの中に産まれた。
勝つこともあれば負けることもある。それが普通なのだ。
これまで勝ち続けていたのがおかしなこと、当たり前のように訪れるはずの敗北が、ようやくユーリの所に回ってきたのだと。
「さあ、ユーリ! お前はこの絶体絶命な状況を! 確定された敗北を! どう破る!」
ふと負けることを受け入れていたユーリの耳に、黄昏のそんな言葉が飛び込んで来た。
敗北を受け入れて地面を見ていたユーリが顔を向けると、そこには期待するような顔を浮かべて、こちらを見る黄昏の姿があった。
(いや――違う! ユーリはまだ負けてない! まだ全てを出し切ってない!)
まだ足掻ける手があるというなら!
手札が残されているのなら!
最後まで諦めてはいけないんだ!
それこそがこれまで全力で戦ってきてくれた相手に対する礼儀なんだ!
ユーリはそう考えてデュエルリングで手札と場の状況を見回した。
決闘は一人では出来ない。
人と人が戦い合うものだからこそ、一度決闘を始めたのなら、本当の詰みとなる状況まで、諦めず進み続けなければ駄目だ。
全開まで全てを出し切って、これでもかと言うほどに完膚なきまでに勝って負ける。その清々しい勝ち負けがあるからこそ、お互いに笑い合って、またやろうと語り合えるのだ。
(あ、これなら……)
ユーリは、氷造の守護者ミミックの効果を見て、ある一つの策が頭に浮かんだ。
実現出来るかも分からない、か細い勝利への道筋、だが決してそれはゼロではない。
(少しでも可能性があるのなら! ユーリは進む!)




