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ブレイブカード  作者: きしと
Enjoy Game
26/36

更なる力


(追ってきたか)


 黄昏は、シザーマンティスに乗ってこちらを追いかけてきたユーリを見ながらそう思う。

 ここでもう一発ブレスを放ってもいいが、先程の連続使用の影響もあって、まだ1.5回分しかEPが溜まっていない。なるべく無駄撃ちは避けたいというのが黄昏の本音だった。


(手札に魔獣族、妖怪族のEPを回復することが出来る、逢魔が時、があれば話は別なんだが、そう上手くもいかないか)


 [樹海の決闘場]を眼下に収めながら、一頭の巨大な龍と、それを追う氷で出来たカマキリが、その宙を舞い続ける。


 時折、接近して切り裂こうとするユーリを、バハムートの腕を振り回すことで牽制し、近づけさせないようにする。

 ユーリは、黄昏が乗っている方の手なら、そう振り回せないだろうと考えて、そちらに回ろうとするが、その時は反対側の手に飛び移って、その手を自由に動かせるようにさせることで、それを躱した。


 小回りが利くが決定打のないユーリ、決定打はあるが小回りが利かない黄昏。

 空中で繰り広げられる戦いは、お互いに決めきれないまま、地上にある広場の上空を、グルグルと旋回しながら、高く高く上っていく。


(ユーリは飛び立つ前にカードを引いたはず。それを使ってこないのか?)


 平行線の状況の中で、黄昏はそんなことを思っていた。


(時間はこちらの味方だが、相手の手札が見えないのは不安だな。こっちはもう手札が三連式魔法障壁が二回と、フレアエンチャントが一回しか残ってない。取り敢えず一当てして様子を伺ってみるか)


「バハムート! その場に留まれ!」


 旋回をやめて、シザーマンティスに乗るユーリと向き合う。

 ユーリ側も旋回を止めて、その場に留まった。


「――やれ! バハムート!」

「――きた! [氷造の豪槍]!」


 バハムートから放たれたブレスが、ユーリへと向かって行く。

 ユーリは、手元に氷で出来た槍を生み出すと、シザーマンティスに、ブレスを躱して進むように指示を出した。


 ブレスを潜り抜けるように回避するシザーマンティス。

 だが、バハムートは首を動かすことで、それを追撃する。


(引いたカードはアイテムだったか。

 だが、この様子だとブレスは躱されるな)


 黄昏は考える。

 この先の展開を如何するかを。


(ブレスはもう少し経てばもう一回分溜まる。

 だけどこの様子だと当てるのは難しそうだな。

 そうなると相手の持っているアイテムを投擲されて、ちまちまと削られることになる。

 それでバハムートが倒されれば、地面に落ちてジ・エンドだ)


 このまま待っていれば、ユーリがバハムートを削りきる前に、カードをドロー出来るかも知れない。

 だが、それを期待するのは危険だろう。


(やるか……。リスクはあろうとも、ユーリはここで仕留める)


 こちらに向かってくるユーリを目にし、黄昏はそう意気込む。


「えい!」


 ブレスを躱したユーリが、槍を投擲する。

 可愛らしい言葉と裏腹に、その豪槍はバハムートの顎へと向かう。


「手で受け止めろ!」

「――? 好都合」


 黄昏の命令に従い、バハムートがその攻撃を手で受け止める。

 回避されると思っていたのだろうか、ユーリは一瞬怪訝そうにしたものの、それならそれで良いと自分を納得させていた。


「好都合なのはこちらの方だ。注意しなきゃいけないぜ、迂闊にカードを使えば、相手にそのカードを利用された、友情コンボ<相手のカードを利用して自分のコンボを決めるカード用語>を決められることがあるからな!」


 そう言うと黄昏は、バハムートが黄昏に近づけた手から、刺さった槍を抜き取り、その手に構えた。

 それを見たユーリは、黄昏の目的を理解する。


「むぅ。そういうこと」

「そういうことだ。これで俺も投擲用のアイテムを手に入れた。

 バハムートがダメージを受けるだけの価値はあるだろう?」

「……[豪槍]!」


 ユーリは黄昏の言葉に返答せず、再び槍をその手に構える。

 空中を旋回していたユーリは、再びバハムートへとその槍を投げた。


「躱せ!」


 二度目は受けろとは言わず、バハムートに躱すように指示をする。

 バハムートは素早く動いてその投擲を躱した。

 だが、躱すことによって動きは制御される。

 その躱した先には、そこを狙うように移動したユーリの姿があった。


(それはこっちも同じなんだよ!)


 相手に攻撃を躱させることで、次の攻撃地点へと誘導させる。

 一般的な手の一つだ。

 だからこそ、そうすることくらいは読めていた。


 先程までなら何も出来なかったが、今の黄昏の手元には豪槍がある。


 逃げた相手を狙うということは、逃げた先を狙える位置にいると言うこと。

 間接的に動きを制御されたユーリの元へと、黄昏は槍を放った。


「――っ躱して!」


 しかしユーリも、相手が豪槍を持っていることは把握している。

 警戒していたユーリは、直ぐにシザーマンティスに避けるように指示した。


 だが――。


 ゴツンと、シザーマンティスが何かにぶつかって動きを止める。


「――え?」


 戸惑ったユーリが、槍からその方へと目を向けると、そこには障壁が発生していた。

 驚いたユーリが、黄昏に視線を向けると、黄昏はこちらを見ながら、デュエルリングに手を当てていた。


「手動操作で――!」


 そう黄昏は、手動操作で、予想したシザーマンティスの回避先に、壁となる[魔法障壁]を発生させて、その回避を封じたのだ。


 ユーリがそれに気付いた時には既に遅く、豪槍に貫かれて、シザーマンティスは粒子となって消えていった。


「むぅ!?」


 空から地面へと放り投げられるユーリ。


(だが、これで終わりじゃないぜ!)


 黄昏は、バハムートの手から、ユーリに向かって飛び降りた。


「おぉぉぉ! りゃ!」

「むぅ!」


 落ちながらユーリに向かって振った双剣槍が、ユーリの剣で受け止められる。


「このまま地面に叩きつけてやるよ!」

「――む!」


 黄昏の攻撃を防いだことで、ユーリは動きを封じられてしまった。

 このまま行けば逃げられないユーリは、地面に叩きつけられて、エクストラタイムに入ってしまう。


(向きはユーリが地面側、こっちはいざとなれば、魔法障壁やバハムートがある! これでリーサル! これで決まりだ!)


 敗北までのカウントダウンがユーリに迫る。

 だが、それでもユーリは諦めてなかった。


「ユーリは! 負けない!」


 そう言ってユーリは笑顔を見せると、剣から片手を離し、デュエルリングに当てた。

 そしてそこから、三枚のカードを取り出すと上に放った。


(んな!? まさか!)


「追い詰められたのは黄昏の方! [豪槍]!」


 黄昏を追い越し、上に行ったカード達は、その姿を槍へと変化させる。

 空気抵抗の影響を受けにくい棒状の物体は、黄昏達へと降り注ごうとしていた。


「っぐ! ただで行かせるか!」


 そうして意識が削がれた黄昏を、ユーリは蹴って離れる。

 黄昏は苦し紛れに、双剣槍をそのユーリに向かって投げ、自分は投げた勢いで反転すると、落ちてくる槍達に目を向けた。


「[魔法障壁]!」


 三連式魔法障壁は三つの障壁を生み出せるが、三つに分けたのだと、この槍を受け止める強度が足りない。

 黄昏は致命的な一撃になりそうなものだけを、重ねた障壁で防ぎ、それ以外のものをその身で受けた。


「う! くそ! バハムート!」


 落ちてきた槍で、左腕を切断され、足に大きな傷を負った黄昏は、バハムートの手によって救助される。

 一方でユーリは、黄昏と同じように左腕を切断されていたが、木々をクッションにして、上手く地面に着地していた。


 その様子を見て、黄昏は言う。


「まさかここまでボロボロにされるとはな。

 だけどこれで俺のライフは鉄壁<ライフポイントが100とか200を指し示すカードゲームアニメ用語、先にこうなった方が大体勝つ>に入った。追い詰められてからこそが! デュエリストの真骨頂!」


 まだDPは溜まりきらない。

 新たな手札を引くことで、この状況は打開出来ない。


 なら見せるしかないだろう。

 ここまで残しておいた奥の手という奴を!


「――知っているか?」


 黄昏は左腕に付けた腕輪のような端末――デュエルリングから一枚のカードを取り出す。


「古今東西! カードゲームアニメの主人公が持つエースカードは進化する!!」


 己がその主人公であると鼓舞するように。

 だからこそこの決闘デュエルで勝利するのは自分であると示すように。

 黄昏は高らかに名乗り上げる。


「今見せてやるぜ! 俺のエースの本当の力を!」


 そう言うと、黄昏は手に持ったカードを灰銀の龍に投げ当てた。

 カードを取り込んだ灰銀の龍は、カードを投げ当てられた所を中心に、至る所から炎が巻き上がり、全身を炎で包まれて、いまここに新たな存在として産声を上げようとしていた。


「コネクト! 召喚条件は! 傾界機龍バハムート・ギアと炎属性マジックカード! 灼熱の世界の果てから! その怒りを振るい! 万物を灰とかせ! 顕現せよ! [灼界機龍バハムート・フレア・ギア]!」


 炎の中から赤く変色した機械の腕が飛び出す。

 そしてその炎を割るようにして、新たに生誕した、赤みがかった灰銀を持った龍が、その場に姿を現した。


 進化したバハムートは、以前のように咆哮を轟かせる。

 それが終わると、楽しそうに意気揚々と、こちらに向かってくるユーリに向けて、黄昏は叫んだ。


「さあ、楽しんで行こうぜ!!」


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