更なる力
(追ってきたか)
黄昏は、シザーマンティスに乗ってこちらを追いかけてきたユーリを見ながらそう思う。
ここでもう一発ブレスを放ってもいいが、先程の連続使用の影響もあって、まだ1.5回分しかEPが溜まっていない。なるべく無駄撃ちは避けたいというのが黄昏の本音だった。
(手札に魔獣族、妖怪族のEPを回復することが出来る、逢魔が時、があれば話は別なんだが、そう上手くもいかないか)
[樹海の決闘場]を眼下に収めながら、一頭の巨大な龍と、それを追う氷で出来たカマキリが、その宙を舞い続ける。
時折、接近して切り裂こうとするユーリを、バハムートの腕を振り回すことで牽制し、近づけさせないようにする。
ユーリは、黄昏が乗っている方の手なら、そう振り回せないだろうと考えて、そちらに回ろうとするが、その時は反対側の手に飛び移って、その手を自由に動かせるようにさせることで、それを躱した。
小回りが利くが決定打のないユーリ、決定打はあるが小回りが利かない黄昏。
空中で繰り広げられる戦いは、お互いに決めきれないまま、地上にある広場の上空を、グルグルと旋回しながら、高く高く上っていく。
(ユーリは飛び立つ前にカードを引いたはず。それを使ってこないのか?)
平行線の状況の中で、黄昏はそんなことを思っていた。
(時間はこちらの味方だが、相手の手札が見えないのは不安だな。こっちはもう手札が三連式魔法障壁が二回と、フレアエンチャントが一回しか残ってない。取り敢えず一当てして様子を伺ってみるか)
「バハムート! その場に留まれ!」
旋回をやめて、シザーマンティスに乗るユーリと向き合う。
ユーリ側も旋回を止めて、その場に留まった。
「――やれ! バハムート!」
「――きた! [氷造の豪槍]!」
バハムートから放たれたブレスが、ユーリへと向かって行く。
ユーリは、手元に氷で出来た槍を生み出すと、シザーマンティスに、ブレスを躱して進むように指示を出した。
ブレスを潜り抜けるように回避するシザーマンティス。
だが、バハムートは首を動かすことで、それを追撃する。
(引いたカードはアイテムだったか。
だが、この様子だとブレスは躱されるな)
黄昏は考える。
この先の展開を如何するかを。
(ブレスはもう少し経てばもう一回分溜まる。
だけどこの様子だと当てるのは難しそうだな。
そうなると相手の持っているアイテムを投擲されて、ちまちまと削られることになる。
それでバハムートが倒されれば、地面に落ちてジ・エンドだ)
このまま待っていれば、ユーリがバハムートを削りきる前に、カードをドロー出来るかも知れない。
だが、それを期待するのは危険だろう。
(やるか……。リスクはあろうとも、ユーリはここで仕留める)
こちらに向かってくるユーリを目にし、黄昏はそう意気込む。
「えい!」
ブレスを躱したユーリが、槍を投擲する。
可愛らしい言葉と裏腹に、その豪槍はバハムートの顎へと向かう。
「手で受け止めろ!」
「――? 好都合」
黄昏の命令に従い、バハムートがその攻撃を手で受け止める。
回避されると思っていたのだろうか、ユーリは一瞬怪訝そうにしたものの、それならそれで良いと自分を納得させていた。
「好都合なのはこちらの方だ。注意しなきゃいけないぜ、迂闊にカードを使えば、相手にそのカードを利用された、友情コンボ<相手のカードを利用して自分のコンボを決めるカード用語>を決められることがあるからな!」
そう言うと黄昏は、バハムートが黄昏に近づけた手から、刺さった槍を抜き取り、その手に構えた。
それを見たユーリは、黄昏の目的を理解する。
「むぅ。そういうこと」
「そういうことだ。これで俺も投擲用のアイテムを手に入れた。
バハムートがダメージを受けるだけの価値はあるだろう?」
「……[豪槍]!」
ユーリは黄昏の言葉に返答せず、再び槍をその手に構える。
空中を旋回していたユーリは、再びバハムートへとその槍を投げた。
「躱せ!」
二度目は受けろとは言わず、バハムートに躱すように指示をする。
バハムートは素早く動いてその投擲を躱した。
だが、躱すことによって動きは制御される。
その躱した先には、そこを狙うように移動したユーリの姿があった。
(それはこっちも同じなんだよ!)
相手に攻撃を躱させることで、次の攻撃地点へと誘導させる。
一般的な手の一つだ。
だからこそ、そうすることくらいは読めていた。
先程までなら何も出来なかったが、今の黄昏の手元には豪槍がある。
逃げた相手を狙うということは、逃げた先を狙える位置にいると言うこと。
間接的に動きを制御されたユーリの元へと、黄昏は槍を放った。
「――っ躱して!」
しかしユーリも、相手が豪槍を持っていることは把握している。
警戒していたユーリは、直ぐにシザーマンティスに避けるように指示した。
だが――。
ゴツンと、シザーマンティスが何かにぶつかって動きを止める。
「――え?」
戸惑ったユーリが、槍からその方へと目を向けると、そこには障壁が発生していた。
驚いたユーリが、黄昏に視線を向けると、黄昏はこちらを見ながら、デュエルリングに手を当てていた。
「手動操作で――!」
そう黄昏は、手動操作で、予想したシザーマンティスの回避先に、壁となる[魔法障壁]を発生させて、その回避を封じたのだ。
ユーリがそれに気付いた時には既に遅く、豪槍に貫かれて、シザーマンティスは粒子となって消えていった。
「むぅ!?」
空から地面へと放り投げられるユーリ。
(だが、これで終わりじゃないぜ!)
黄昏は、バハムートの手から、ユーリに向かって飛び降りた。
「おぉぉぉ! りゃ!」
「むぅ!」
落ちながらユーリに向かって振った双剣槍が、ユーリの剣で受け止められる。
「このまま地面に叩きつけてやるよ!」
「――む!」
黄昏の攻撃を防いだことで、ユーリは動きを封じられてしまった。
このまま行けば逃げられないユーリは、地面に叩きつけられて、エクストラタイムに入ってしまう。
(向きはユーリが地面側、こっちはいざとなれば、魔法障壁やバハムートがある! これでリーサル! これで決まりだ!)
敗北までのカウントダウンがユーリに迫る。
だが、それでもユーリは諦めてなかった。
「ユーリは! 負けない!」
そう言ってユーリは笑顔を見せると、剣から片手を離し、デュエルリングに当てた。
そしてそこから、三枚のカードを取り出すと上に放った。
(んな!? まさか!)
「追い詰められたのは黄昏の方! [豪槍]!」
黄昏を追い越し、上に行ったカード達は、その姿を槍へと変化させる。
空気抵抗の影響を受けにくい棒状の物体は、黄昏達へと降り注ごうとしていた。
「っぐ! ただで行かせるか!」
そうして意識が削がれた黄昏を、ユーリは蹴って離れる。
黄昏は苦し紛れに、双剣槍をそのユーリに向かって投げ、自分は投げた勢いで反転すると、落ちてくる槍達に目を向けた。
「[魔法障壁]!」
三連式魔法障壁は三つの障壁を生み出せるが、三つに分けたのだと、この槍を受け止める強度が足りない。
黄昏は致命的な一撃になりそうなものだけを、重ねた障壁で防ぎ、それ以外のものをその身で受けた。
「う! くそ! バハムート!」
落ちてきた槍で、左腕を切断され、足に大きな傷を負った黄昏は、バハムートの手によって救助される。
一方でユーリは、黄昏と同じように左腕を切断されていたが、木々をクッションにして、上手く地面に着地していた。
その様子を見て、黄昏は言う。
「まさかここまでボロボロにされるとはな。
だけどこれで俺のライフは鉄壁<ライフポイントが100とか200を指し示すカードゲームアニメ用語、先にこうなった方が大体勝つ>に入った。追い詰められてからこそが! デュエリストの真骨頂!」
まだDPは溜まりきらない。
新たな手札を引くことで、この状況は打開出来ない。
なら見せるしかないだろう。
ここまで残しておいた奥の手という奴を!
「――知っているか?」
黄昏は左腕に付けた腕輪のような端末――デュエルリングから一枚のカードを取り出す。
「古今東西! カードゲームアニメの主人公が持つエースカードは進化する!!」
己がその主人公であると鼓舞するように。
だからこそこの決闘で勝利するのは自分であると示すように。
黄昏は高らかに名乗り上げる。
「今見せてやるぜ! 俺のエースの本当の力を!」
そう言うと、黄昏は手に持ったカードを灰銀の龍に投げ当てた。
カードを取り込んだ灰銀の龍は、カードを投げ当てられた所を中心に、至る所から炎が巻き上がり、全身を炎で包まれて、いまここに新たな存在として産声を上げようとしていた。
「コネクト! 召喚条件は! 傾界機龍バハムート・ギアと炎属性マジックカード! 灼熱の世界の果てから! その怒りを振るい! 万物を灰とかせ! 顕現せよ! [灼界機龍バハムート・炎・ギア]!」
炎の中から赤く変色した機械の腕が飛び出す。
そしてその炎を割るようにして、新たに生誕した、赤みがかった灰銀を持った龍が、その場に姿を現した。
進化したバハムートは、以前のように咆哮を轟かせる。
それが終わると、楽しそうに意気揚々と、こちらに向かってくるユーリに向けて、黄昏は叫んだ。
「さあ、楽しんで行こうぜ!!」




