カードを繋げた一撃
「ユーリ。お前は【スターターデッキ】に[氷造の守護者]を選んだな?」
スターターデッキとは、ブレイブカードを始めるときに選ぶことが出来る最初のデッキだ。炎水地風雷光闇の七つの属性のスターターデッキが存在しており、その中から一つを選択して扱う事になる。
ユーリが選んだのは水属性の[氷造の守護者]であり、使用するカードテーマは【氷造】となっている。氷造は、氷で出来た遺跡を守る、魔物を模した氷の造形達という設定で作られたテーマだ。
「氷造の特徴はスタートダッシュ! 其奴らは同カード帯にしては高性能な作りになっているが、その代わりに、時間が経つほど氷が解けて、弱体化していく効果があるのさ!」
「それがさっきのと何の関係がある?」
ユーリのその疑問に、黄昏はおかしくて仕方ないと言った顔をして笑う。
「ククク、氷造ユニットの基本効果である時間による弱体化。
実はそれは能動的に起こすことが出来る! 炎系付与魔法を氷造ユニットに付与すると、一気にその能力を最低ランクまで落とすことが出来るのさ!
俺は、シザーマンティスに、炎系付与魔法のフレアエンチャントを付与することで、強制的に弱体化させたのだよ」
ユーリは、黄昏の説明の説明を聞いて、そう言うことだったのかと、と納得したような表情をする。
だが、その一方である考えが頭を過ぎった。
「何故わざわざ説明するんだって顔だな?」
黄昏の説明のおかげで、ユーリは今の出来事の詳細を知ることが出来た。
だが、それは黄昏が有利になる情報の一つを捨てたと言うことだ。
黙っていれば、ユーリの手札をもっと削れたのかも知れないのに、わざわざそれを喋ったことを、ユーリは不審に思ったのだ。
「知れたこと! 俺が楽しいからだ!」
そう黄昏は、心の底から言い切った。
強力なカードを召喚し、その効果を朗々と説明して、相手にいかに手がないかを語る。『このカードを発動させていたのさ!』などと言って、カード効果を語る。
このようなことをするカードゲームアニメを、デュエリストなら一度は見たことがあるのではないか。
――正直言ってやってみたいと思ったことはないだろうか? 楽しそうだと思ったことはないだろうか? 相手を嵌めて、それを成した自分の手を解説する。
デュエリストなら、誰もが一度はやってみたいと思うその愉悦を、黄昏はいま堪能しているのだ。
「さあ、俺のファンサービスを受け取りな! 崩界のエクストリームバースト!!」
何処かのファンサービスが豊富なカードゲームアニメのキャラのようなことを言いながら、黄昏は再度バハムートによるなぎ払いを宣言する。
既に、シザーマンティスは、ユーリを乗せて空を飛ぶことが出来ない。
故にユーリは駆け出し、そしてブレスが来る直前でカードを発動させた。
「[氷花]!」
ユーリは氷で出来た花の盾を、斜めに傾けて発生させた。
ユーリへと向かってきたブレスは、氷の盾によって軌道を少しずらされ、ユーリはその少しのずれが産んだ安全地帯に滑り込んで攻撃を躱した。
「ほう。なかなか上手い使い方だ。単純な力押しはここまでだな。――来い! [機獣リカード]×2!」
黄昏の言葉に従い、ねこねこ戦でも現れたリカードが、その場に現れる。
「リカードのキカイの効果! デッキからリカードを墓地に送る。そして墓地に送った[リカード]のケモノの効果! 墓地からリカードを蘇生する!」
機獣リカードはキカイの効果で、デッキから墓地に機獣リカードを送ることが出来る。そしてケモノの効果で、墓地から機獣リカードのカードを除外して、機獣リカードを一体場に出すことが出来るのだ。
無限ループを避けるために、回数がなくなったり、コストにした機獣リカードは、墓地に送られず、ゲームから除外されることになるが、それでも強力な効果だと言える。
黄昏のデッキには、三枚の機獣リカードのカードが存在しており、手札にある機獣リカード以外の二枚のカードを墓地に送って、ケモノの効果を発揮させたことで、この場には四体のリカードが揃うことになっていた。
「ぐぉお!」
「む……」
四体のリカードがユーリに向かってくる。
ユーリは、それらのリカードがいない方向に逃げようとするが――。
「逃がすかよ! [エレメンタル]! キカイ! そして発動だ!」
その逃げ道を塞ぐように炎が駆け抜け、[樹海の決闘場]の効果で、その先は進むことが出来ないフィールドへと変化する。
(無理矢理にでも突破するしかない……)
完全に追い込まれつつあるこの状況。
だが、その一方でユーリは一つの希望を見つけていた。
(バハムートのブレスを止めた。それはEPが少なくなったから)
ユーリの目には見えていた。
バハムートのEPが、崩界のエクストリームバーストを撃つ度に、5分の1ずつ減っていくのを、つまり詳細情報でユーリが確認した通り、バハムートが放つあのブレスは、アクティブエフェクトなのだ。
(時間経過で少しずつ回復してるけど、四回使ったことで、今のゲージは2回分くらいしか残っていない。それを温存して回復する時間を稼ぐために、リカードを召喚したんだ)
まるでユーリが、氷花でブレスを防いだことを認めて、リカード達による接近戦に切り替えたように見せているが、その全てがプラフ。
バハムートの消耗を悟られたくない黄昏が打ち出した一手なのだ。
(あと二発躱せば、バハムートを追い詰められる。このままここを突破して近づくことが出来れば……!)
手札にあるスキルカードを意識しながらも、ユーリは、一体のリカードがこちらに向かってくる方に意識を向ける。
「来て! ゴーレム!」
「っは! ユニットの召喚をしたか! だが、それは俺には効かないぞ!」
黄昏はそう言うと、デュエルリングからカードを現出させて、ゴーレムに向けて投げた。
侵入不可能エリアは、あくまでプレイヤーやユニットの侵入を拒むだけのものであるらしく、黄昏の手元から投げられたカードは、炎の壁を通り抜けてゴーレムへと迫る。
「させない!」
その時、ユーリは黄昏とねこねこの対戦を観戦していた時の言葉を思い出していた。
現出したカードには耐久値があり、それを削れば破壊することが出来ると。
ユーリは、ゴーレムの前に駆け寄ると、迫り来るカードをたたき切った。
耐久力がゼロになったカードは、ユーリの前で消えていく。
「やった!」
「壊せることを知ってたか……。――が、よそ見してると危ないぜ!」
カードをたたき切って喜ぶユーリの元に、リカードが襲い係る。
だが、そのリカードを、ゴーレムが殴り飛ばした。
「く、やっぱり、ゴーレムの方がステは上か。
しゃーない、溜まったDPを使って次の手を考えますかね。
――俺のターン! ドロー!」
黄昏は代償を払いきり、溜まるようになったDPが、1ドロー分まで溜まったところで、カードをドローした。
「……このカードがここで来たか。なるほど面白くなりそうだ」
黄昏がカードを見て、何か納得している間に事態は動く、ゴーレムが殴り飛ばしたリカードを、ユーリがゴーレムと共にたこ殴りにして打ち倒す。
(これで道は空いた!)
ユーリがその道を駆けようとするが、それよりも速く黄昏の声が響く。
「[キャスリング]!」
「――!?」
その言葉によって、こちらに向かってきていた三体のリカードの一体が、黄昏へと変わる。
(むぅ? バハムートの側に居る方が安全のはず)
「カード同士を繋げたコンボって奴を見せてやるよ! バハムート! リカード! やれ!」
黄昏の言葉に、バハムートが動き出す。
その強靱な手の上に、黄昏と入れ替わったリカードを乗せて、それを思いっきり、オーバースローで投げた。
「え?」
ユーリが思わず間抜けな声をあげている間に、凄まじい勢いでやってきたリカードは、ゴーレムと正面衝突し、ゴーレムを打ち砕いた。
「そんな!?」
「まだ、終わりじゃない。そんなに合わせたいなら合わせてやるさ! [キャスリング]!」
そしてまた黄昏の姿が消える。
その代わりに現れたのは、強大な灰色の龍。
――バハムートがユーリの元に転移してきたのだ。
「やれ! バハムート!」
「――っ!」
バハムートの拳がユーリに迫る。
ユーリはそれを飛び退いて躱す。
バハムートの拳が地面を抉り、余りの威力に、その衝撃がユーリまで伝わる。
(これで終わりじゃない――!)
ユーリは更にその場から遠のいた。
ユーリが先程まで居た場所には、リカードの爪による攻撃が降り注いでいた。
危機から逃げ出したユーリ。
だが、その先にも更なるリカードがいる。
「[氷花]! [氷結の一閃]!」
新たに現れたリカードの攻撃を氷の盾で防ぎ、動きの止まったリカードを、氷を纏った剣の一閃を放つスキルで打ち倒す。
(残りのもう一体は?)
ユーリが最後の一体の居場所を探して目を向けると、フレアエンチャントによって、能力が低下したシザーマンティスを、最後のリカードが倒した所だった。
(むぅ。シザーマンティスのことをすっかり忘れてた)
戦いの中で、シザーマンティスのことが意識から抜けていたユーリは、もっとしっかりと周囲の状況を把握しなければならないと一人反省する。
この場に残るのは既にユーリ一人となった。
後は敵であるバハムートとリカードが二体。
だが、ユーリに迷いはない。
一番厄介なバハムートがこちらに来てくれたというのなら。
(出し惜しみせずに全力で行く!)
「来て! [ゴーレム]! 二体の[シザーマンティス]!」
フィールドに一体のゴーレムと二体のシザーマンティスが現れる。
「なら、こちらはこうするまでだ!」
「無駄――!」
黄昏が、カードを三枚現出させて、次々とそれをユーリのユニットに向かって投げる。
ユーリは一番近いユニットの前に立って、それを前と同じように防ごうとした。
(三枚投げて、どれかを通す作戦? そんなことを黄昏がする?)
それは直感だった。
これだけでは終わらない、黄昏とねこねこの戦い。
そしてこの戦いの中で、黄昏を見ていたからこそ、覚えた違和感。
「――[エレメンタル]!」
そしてそれは正しかった。
黄昏が投げたカード、一番近いユニットに投げたそれが、球体状の炎へと変化する。
だが、自分の直感を信じたユーリは、それを防ぐ手を用意していた。
「[氷花]!」
氷の盾がその炎を防ぐ。
だが、その為に、残りの二枚に対する対処が遅れてしまった。
「きゅぉぉ!」
「ごがぁ!」
「しまった!」
二体のユニットの叫びを聞いてユーリは己の失態を悟る。
ゴーレムとシザーマンティスの一体は、その能力を大きく低下させてしまったのだ。
(近いユニットじゃなくてゴーレムを守るべきだった……!
ゴーレムが元のままなら、リカード一体を確実に倒せたのに!)
そこまで考えたところでユーリはふと思い出した。
(そうだ! テーマ効果! 氷造のテーマ効果は確か、弱体化したユニットを、一時的に元のステータスまで戻すことだったはず!)
弱ったゴーレムにリカードが迫る。
ユーリは、それに横から斬り付けながらも、テーマ効果の発動を宣言した。
「テーマ効果発動!」
テーマ効果が発動し、溶けていたゴーレムが元の姿に戻る。
そしてゴーレムは、ユーリの攻撃によって、大きくダメージを受けて怯んだリカードを、その豪腕で殴り飛ばした。
殴り飛ばされたリカードは、炎の侵入不可能エリアにぶつかり、残りのHPを延焼によるダメージで削られ、粒子となって消えた。
(これでゴーレムは回復した。このまま押し切れる……!)
ちらりと、シザーマンティスが二体で、リカードを抑えているのを見ながら、ユーリは、バハムートの拳を躱し、軽くその腕を切りつけると、ユーリを警戒したバハムートは後方へと引いた。
「来い! [リカード]!」
黄昏はカードを取り出して投げて、そこからリカードを召喚した。
既に、シザーマンティスに二体がかりで挑まれたリカードは死に体になっている。
その補充の為だろうと、ユーリは考えた。
(あっちは何とかなる。それよりもこっち)
ユーリは、バハムートの方へと視線を向けた。
強力なブレスが恐ろしいバハムートだが、近接戦でもその強靱な肉体を使って、ユーリ達を翻弄していた。
(カードを繋げてコンボを決める……なら!)
ユーリはバハムートが再び接近する前に、ユーリはゴーレムの元へと近寄った、そしてその場でゴーレムに向かってジャンプする。
ゴーレムは手で、ユーリを受け止めると、思いっきりユーリを押し出した。ユーリはその反動を利用して、更に自らジャンプして、バハムートに向かって飛んでいく。
「これで! [氷結の一閃]!」
バハムートに向かって飛び立ったユーリは、そのままの勢いで、バハムートの首をスキルでたたき切った。




