拙い一手
(取り敢えず、ゴーレムを出したけど、この後はどうしよう)
ユーリにはカードゲームの経験がない。
だからこそ、この先どうやってカードを使っていけばいいか分からなかった。
「ユーリはカード効果もよく分かってないだろう。
デュエルリングから自分の現在の手札や場と、相手の公開されているカードの情報を見られる。
さすがにそれくらいは待ってやるから、じっくりと確認するといい」
黄昏はそう言うと、ユーリの出方を伺う待ちの姿勢となった。
ユーリはその配慮を有り難く受けることにして、デュエルリングをタッチして、ウィンドウを表示させると、場のカードに関する情報を表示させた。
ブレイブカードでは、オプションで変更可能な項目ではあるが、基本的に対戦時に視界に映るのは、カード種別、カード名、回数、状態となっている。
これは、攻撃力などの細かいステータスや、エフェクト、フレーバーテキストなどの情報が、常時視界に表示されていると、それが視野を塞いでしまうからだ。
故にそう言った詳細情報は、デュエルリングを利用して表示した、ウィンドウを使って確認する必要が出てくるのだ。
本来、ブレイブカードのプレイヤーならば、自分のデッキの内容は全把握してるのが当たり前なので、このように詳細情報を確認する必要もなく、カード名と回数、状態の把握だけで充分だが、カードを碌に把握していないユーリには、この確認作業が必要だった。
(むぅ。やっぱりスペシャルカードは強い)
ユーリは、傾界機龍バハムート・ギアの詳細情報を表示して、思わず唸る。
そして視界の端では、カード種別やカード名、そして回数しか表示されていなかった、氷造のゴーレムの詳細情報を表示して同じように確認した。
(ゴーレムのステータスだと、簡単に倒されちゃう)
もっと善戦するかと思っていたが、カード情報を確認すると、バハムートとの差は圧倒的だった。故にユーリは更に悩む、あのバハムートを倒す為にはどんな手段を使えばいいのかと。
一通り、ユーリは自分の手札を改めて確認した。
〔ユニット〕【氷造のゴーレム】回数:3(残数:2)
〔マジック〕【氷花】回数:4(残数:4)
〔スペシャル〕【氷造の守護者ミミック】回数:1(残数:1)
〔スキル〕【氷結の一閃】回数:3(残数:3)
(スペシャルを使う?
でも詳細情報を見る限りだと、バハムートには勝てないかも)
氷造の守護者ミミックは、氷で出来た迷宮の宝物を守る門番という設定のユニットだ。
そのため防御力は高い方だが、細やかな動きが出来るとは言い辛く、あのバハムート相手に、有効な効果を発揮するとは思えなかった。
「おっと、DPが溜まったみたいだぞ? 取り敢えず引いてみたらどうだ?」
ユーリのDPを見ていた黄昏からそんな声がかかる。
ユーリはその言葉を受けて、デュエルリングの装飾部分に手を当てながら、黄昏やねこねこ達がやっていたことを真似て、装飾から指を引いた。
「ユーリのターン! ドロー!」
〔ユニット〕【氷造のシザーマンティス】回数:4(残数:4)
(むぅ。これは……どうなんだろう?)
素早く攻撃的なカード。
でもこれだけでは、バハムートを突破出来ないかもしれない。
だけど――。
(ユーリがドロー出来たってことは、それだけの時間が経ってるってこと。
スペシャル発動時の代償のDP追加停止は、DPが一回分溜まるまでの時間――つまり二分三十秒で終わっちゃう。待っていたら相手もカードを引けちゃう。だから動かないと!)
ユーリは今の手札で動き出すことを決めた。
その選択は間違ったことではない。
カードゲームにおいて、万全の手札が常に揃うとは限らない。それが揃うのを待っていたらその前に敵に倒されることになってしまう。
だからこそ、限られた手札の中で、それらを最大限に活かせる戦略を考えて、常に行動して行く必要があるのだ。
「[氷造のシザーマンティス]を召喚!」
ユーリの宣言で、シザーマンティスが召喚される。
それと同時に、ユーリは駆け出した。
「来るか! ならこっちも! バハムート! 崩界のエクストリームバースト!」
「――っ! 躱して!」
ユーリは短くそれだけを、自らのユニットに命じる。
だが、バハムートの放ったブレスは、ゴーレムに命中し、何かが蒸発するような音と共に、ゴーレムは消滅した。
「端から狙いは、動きの遅いゴーレムだ! そしてユーリ達の行動はこれで封じる! エレメンタルのキカイの効果を発動! 手札にあるこのカードを公開して、発動時の攻撃範囲を変更する! そして[エレメンタル]を発動だ!」
機獣エレメンタル・コール――。
このカードは他の機獣カードと少し違った、特殊な効果発揮形式となっている。
他の機獣カードは、召喚時や効果発動時に、キカイかケモノを一回だけ選ぶことになるが、エレメンタルは、手札にあるこのカードを公開することで、発動前に使用回数分だけ、キカイかケモノの効果を選ぶことが出来るのだ。
その効果は、ケモノなら自身の属性を変更、キカイなら発動時の攻撃範囲を変更、というものになっている。
そのため、ユーリの目の前に現れた炎の球体から、前回と同じように炎が広がっていくが、その広がり方は前回と異なったものとなっていた。
「こんなの当たらない!」
威力より範囲を重視しているためか、広範囲に広がっている炎だが、前回と違い、不意を突かれたわけでもないため、ユーリが躱すための時間は充分にあった。
迫る炎から飛び退くユーリ。
その姿を見て、黄昏はにやりと笑った。
「ふ、当たれば儲けものだと思ったが、最初から当てるつもりはない。
目の前にある炎が通った所をよく見てみろよ」
「むぅっ!? なにこれ!?」
黄昏に言われて、ユーリが目にしたその先では、草木が燃え上がって道を塞いでいた。
ユーリの驚いた様子を見て、黄昏は高らかに笑いあげる。
「はーははは! これが[樹海の決闘場]の効果だ! 樹海に住む決闘士達は炎に包まれた闘技場で、不退転の決闘を行う! それが決闘樹海の闘士達の設定! それが反映されているこのマップでは、炎属性の攻撃を受けた草木は燃え上がり、侵入不可能エリアとなるのさ!」
その言葉を聞いて、ユーリは確かめるために燃え上がる草木に突撃した。
だが、彼女の体は、見えない壁にぶつかったように弾かれ、そして延焼の状態異常によって、触れた部位が燃え上がる。
ユーリは、延焼の状態異常によってHPが少しずつ減る中で、急いでその手を振って炎を消すと、改めて侵入不可能エリアとなった場所を見た。
(本当に通れなくなってる! それだけじゃない! 触れると延焼状態になってダメージを受ける!)
これでは迂闊に侵入不可能エリアに近づくことは出来ない。
黄昏は、ユーリが接近するための道を塞ぎに来たのだと、ユーリは理解した。
「進むことは封じられた。縦方向のは躱されてしまったみたいだが、その状態でこれは躱せるか? なぎ払え! バハムート!」
「シザーマンティス!」
これまで、下から上にすくい上げるようにブレスを放ってきたバハムート。
だが、今度は周囲をなぎ払うように、顔を横向きにふって、そのブレスを広範囲に広げた。
ユーリは咄嗟に、シザーマンティスに飛び乗って、共に宙に逃れた。
だが、その動きは黄昏によって、既に予測されていた。
どこからともなく飛んできたカードが、シザーマンティスに当たる。
すると、シザーマンティスが急に溶け始め、高度を落としていった。
「え? なに!?」
どんなカードを使われたのか?
それを理解する暇もなく、再びユーリは炎で囲まれた決闘場に不時着する。
視界に表示される[状態]は、カードに対して状態異常が仕掛けられた時に表示されるので、通常時は何も表示されていない設定です。




