示す意思
二人は再び空を飛び、[樹海の決闘場]へと戻ってきた。
他に邪魔も入らないこの場所で、黄昏はユーリに問いかける。
「さてと、準備はいいか?」
「うん」
お互いにある程度の距離を開けて向き合う。
ユーリの了承を得た黄昏は、デュエルリングを操作して、ユーリとのマッチングを開始した。
『他プレイヤーへの攻撃意思を検知。デュエルモード[対人戦][一対一][ノーマルデュエル]でマッチングを行います』
「マッチング承認……」
マッチングが完了し、黄昏とユーリの二人は、それまでいた場所と全く同じ様相の別の世界――対戦用のレイヤーへと移動する。
ブレイブカードでは、プレイヤー同士の決闘時には、他プレイヤーやユニットがデュエルに乱入したり、戦いの余波の巻き添えを食らわないように、決闘の参加者達を別のレイヤー、すなわち階層違いの同じ場所へと移動させるのだ。
これによって、フィールドにいるプレイヤーやユニットは、黄昏とユーリだけになった。
この先、どれだけ二人の戦いでフィールドを荒れようとも、その影響はこのレイヤーのみに留まるため、デュエル終了と共に全て元通りとなるのだ。
「じゃあ、始めるぞ! 決闘!」
「……! 決闘!」
黄昏はそう叫んで、双剣槍を構え、バックステップで後退した。
ユーリは黄昏が叫んだ『決闘』という言葉を聞いて、ねこねこと黄昏の戦いの始まりにも、同じように叫んでいたことを思いだし、慌てて自分も叫んで、黄昏へと剣を構えて向かって行く。
(さてと、手札はどうなってるかな……?)
〔マジック〕【三連式魔法障壁】回数:3(残数:3)
〔スペシャル〕【傾界機龍バハムート・ギア】回数:1(残数:1)
〔マジック〕【フレアエンチャント】回数:5(残数:5)
〔マジック〕【機獣エレメンタル・コール】回数:4(残数:4)
〔ユニット〕【機獣リカード】回数:3(残数:3)
(まあ、上々ってところか。マリガンなしだからな。あんまり悪いと詰んでたところだぜ)
黄昏は、攻防に秀でている上に、スペシャルまである手札を見て、思わず内心にやける。
そんな黄昏の元に、ユーリは依然と同じように愚直に突っ込んできた。
(遠距離系のカードが出なかったのか? 前と同じように突っ込んでくるだけだが……。
まあ、いい、それならそれで、この手で対処させて貰うとするかな……!)
「馬鹿の一つ覚えか! [三連式魔法障壁]!」
「むぅ! それは前にみた!」
黄昏の目の前に障壁が展開される。
ユーリは以前の結果を思い出し、その障壁をあえて勢いよく叩いた。
そうすることで生み出した反動を利用して、次の行動への加速に使用しようとしたのだ。
しかし――。
「むっ!?」
ユーリの予想とは裏腹に、障壁は容易く崩れ去った。
黄昏は、ユーリが以前三つ重ねた障壁を叩いてその強度を覚えていることを利用して、あえて一枚だけの弱い強度で、ユーリの攻撃を受けて障壁を壊させたのだ。
固い障壁を利用して反動で態勢を整えようとしていたユーリは、それによって勢いよく前につんのめって倒れかける。
その態勢を立て直そうと足掻くが、それよりも、この事態を想定して動き出していた、黄昏の行動の方が速かった。
「おら!」
「うっ――」
黄昏の蹴りが、ユーリの腹へとクリーンヒットして、ユーリはダメージによるうめき声を上げながら、大きく蹴り飛ばされる。
「さあ、どう躱す!? [機獣エレメンタル・コール]!」
黄昏の宣言と共に、何もない空間に唐突に球体状の炎が現れて、そこから炎が広がってユーリに襲いかかってきた。
それを目にしたユーリは、何とか躱そうするが、蹴飛ばされた直後で躱しきることが出来ず、そのまま炎に包まれて燃やされた。
(は?)
その姿に思わず黄昏は、唖然とした声を心の中であげる。
だが、黄昏のそんな戸惑いも無視して、直撃を喰らったユーリはHPを全損し、エクストラタイムへと突入した。
「むぅぅ……。[リバイブ]!」
ユーリは素早く回復を実行し、元通りの状態へと戻った。
そして四枚に減った手札のまま、再度こちらへと愚直に突撃しようとするのを見て、黄昏は低い声音で呟いた。
「――ちょっと待てよ」
「――っ!?」
その怒っているような声音に、思わずユーリが怯えて止まる。
「ああ、もう! ユーリ! どうしてカードを使わないんだ?」
ユーリの怯えた表情を見て、自分の行動に失敗したと苛立ちながらも、黄昏は以前と同じようにユーリにその事を問いかけた。
「……」
ユーリは黄昏の言葉に応えなかった。
それを受けて、黄昏は更に言葉を重ねる。
「俺とねこねこの試合は見ていたよな? ブレイブカードの戦いがどんなものかってのは、あれで分かっただろ? それなのにどうしてカードを使わない?
もしかして――。カードで戦うことが、ブレイブカードが楽しそうに見えなかったか?」
「ちがう! けど――」
ユーリは、あの戦いを楽しそうに見えなかったということは強く否定した。
しかし、上手く説明出来ないのか、カードを使わない理由については口籠もった。
黄昏はそんなユーリのことをじっくりと観察する。
(あの戦いを見せた効果はあった。今のユーリの目は、以前のユーリと違う。相手のことを道端の石塊のような目で見ていない。ちゃんと対戦相手のことを闘う為の相手として認識している。
なのに何故カードを使わない。ユーリは何を考えている?)
ユーリが言葉を上手く出せずに俯く。
その様子を黄昏が見つめる。
なんとも言えないような気まずい時間が過ぎる中、ふと顔をあげたユーリの目に怯えの色が見えた。
(これは恐怖か――?)
そしてそれに気付いた時、黄昏は、ユーリがカードを使わない、真の理由に気付いた。
「縛りプレイってとこか?」
「――!?」
知られたくない事実を言い当てられて驚愕したようなユーリの態度に、黄昏は己の考えが間違っていなかったという確信を抱いた。
(なるほど。そういうことね)
初めは、カードを使わない理由はカードゲームに興味がないからだと思った。
だからこそ、このブレイブカードの世界に来ても、カードを使わず、他のゲームと同じように身体能力だけで戦っているのだと。
――でもそれは違った。
(考えてみれば、完全にカードに興味がないってことはあり得ないんだよな。
誰だって少なからず興味があるからこそ、そのゲームを選んで遊び始める。興味がなければそのゲームに触れることすらしないだろう。
だからこそ、ユーリはあの時点で、ブレイブカードに、カードゲームに、少なからず興味があると言えたんだ)
この玉石混交のVRゲームが溢れる世界で、ブレイブカードを選んだのだ。
そこには、それを選ぶにたる何かしらの理由があるはずなのだ。
(ユーリは、俺が出たぶいぶいあーるを見て、たぶんその足でここにやってきた。
あのぶいぶいあーるで俺が言ったことは何だ? 一番大きなことはカードの力で、この世界では旧人類と新人類が対等に戦えるということだ。
つまりユーリは、自分と対等に戦える存在を求めてこの世界にやってきた)
自分と対等に戦える相手を求めてこの世界にやってきた。
カードを使うことで、相手が自分と対等に戦えると思った。
となればその答えは明白だろう。
(ユーリがカードを使わないその理由、それは――自分の力に恐怖しているからだ)
黄昏はそう結論付ける。
(ユーリはカードを使うことで、やっと自分以外の相手が、自分と対等に戦うことが出来ると思っている。
だからこそ自分がカードを使うことになってしまったら、また相手を圧倒してしまうのではないかと恐れて、カードを使うことを嫌がっているんだ)
ある意味傲慢と言えるその思考に、ユーリがどうして到ったか、黄昏には分からない。
だが、黄昏は思う。
「馬鹿馬鹿しい」
ユーリにも聞き取れないほどに、小さく呟かれたそれは、心からの侮蔑だった。
「ユーリ! カードゲームはそんな風に怯えながら戦うものじゃない! 自分自身を信じて! 例え間違っていたとしても! 全力で突き進んでいくものだ!」
黄昏はカードゲームが好きだ。
カードゲームに絶対的な解法は存在しない。
どんなカードやデッキにも、相性と言うものが存在し、その時の手札という運によって、常に状況が変化するからだ。
だからこそ、デュエリスト達はそれぞれの意思で、自分がどんなデッキを作りたいか、どんな展開にしたいかを考えて、思い思いのデッキを作り、場の状況に合わせて、手札を切っていく。
千差万別の意思を、千差万別の好きの形を、デッキやカードに込める。
そうやって作り出したものだからこそ、自分で選んだカードを、自分で生み出したデッキを、信じ切って全力で戦っていける。
それは何者にも囚われない――。
自分の思いを、意思を、ぶつけ合っているのと同じことだ。
それこそが、人が人として生きる上で、何よりも大切なことであり、尊ばれるべきものであると、黄昏は考えている。
だからこそ、それを実現することが出来るカードゲームが、黄昏は大好きなのだ。
(俺の憧れたカードゲームアニメの登場人物達は、だれもかれもが自分に正直だった)
黄昏の中に、かつて憧れたカードゲームアニメの登場人物達の姿が蘇る。
その中には悪人も善人もいた。弱い奴も強い奴もいた。
だけど誰もが自分は勝てると信じて戦っていたし、何かしらの思いをかけて相手に打ち勝とうとしていた。
その強烈な姿こそが、まごう事なき意識の力が、人を引きつけ、真似したいと思わせて、人々をカードゲームへと引きずり込むのだ。
黄昏だってそうやってカードゲームを始めた一人だ。
(俺は凡人だ。天才が溢れるこの世界で大した力も持たない一般人。……正直言って今のユーリに対して如何するのが正解なのか、なんてことはわからない)
旧人類しかいなかった元の世界ですら、彼は何処にでもいるような、ごく普通の青年として、特に優れた存在ではなかった。簡単に天才になれる新人類が現れたこの世界では、そんな普通の青年である彼より優れた人間は山ほどいるだろう。
故にそんな優れた人間でない彼が考え付く答えなんて、世間一般からみたら揶揄されるような駄目駄目なものになってしまうかもしれない。
(――だが、そんなことは関係ない。
人は誰だって意思を持っている。
故に誰もが自分なりの答えを持っている。
だからこそ誰もが満足する答えなんてありはしないし、そんなものがあるなんて思ってもいけない)
人は、一人一人考えが違う。
その考えの差こそが、その人の個性を司るものであり、その人の生き方そのものだ。
故にカードゲームと同じように、誰もが満足する絶対的な解法なんてものはないし、あってはならない。
なぜならそれは、それぞれの生き方を、個々の意思を否定することだからだ。
だからこそ、人々は自分の意思を示し続けなければならない。答えなんか存在しない世の中で、少しでも周りを良くするために、己の意思で誰かを変えていくために、自らの信じる意思を貫き通していく必要があるのだ。
(大切なのは自らの意思を示すこと! 己が正解だと信じるそれを! 他の誰もが間違いだと言ったとしても! 心からそれを信じているなら! 貫き! 行動として示し! それが正解であると知らしめる! それこそが俺の決めた生き方! 俺の信念だ!!)
この考えこそが、黄昏がこれまで生きてきた中で辿り着いた到達点。
――黄昏の意思だ。
(ユーリ! お前が自分の力に恐怖しているというなら俺が知らしめてやろう! 世の中には、積み重ねた知識と努力で、強大な力すら、乗り越えていくことが出来るものがあると!)
だからこそ黄昏は、ユーリに示すように勢いよく叫ぶ。
「俺は七龍征の一人! 幻炎の黄昏! 舐めるなよ挑戦者! 俺はお前より強い!!」
「――っ!」
黄昏のその言葉に、ユーリは気圧されたように後ずさる。
「如何しても信じられないって言うのなら、ここに証明してやる! この俺の! 力ってやつを!」
そう言って黄昏は、手を高く虚空に掲げる。
イメージするのは自分自身の切り札――絶対的なエースカード。
『世界を支える原初の龍よ』
黄昏の口から口上が語られる。
それと同時に、黄昏のデュエルリングのDPの追加が停止した。
――スペシャルカード発動の代償だ。
その代償と引き替えに、強大な力が、黄昏の手の向けた場所、虚空に集い形を成していく。
『今こそ、その力! 我に齎し! 世界を傾けよ!!』
口上の終了と共に光が満ちた。
何かが現れるその気配に、ユーリの目が引きつけられる。
「顕現せよ! [傾界機龍バハムート・ギア]!」
黄昏の言葉と共に、そこに一体の龍が現れる。
その龍は灰銀の鱗を鎧のように纏った龍だった。
世界を支えるに足る、強靱な腕などの一部の肉体は、部分的な機械化が施されており、胸の中央にあるコアから、継続的にエネルギーを送られて稼働していた。
究極の獣に、人の英知が結集されたようなその見た目は、まさに万物の頂点に立つべき生物だと言わんばかりの威光を放っていた。
その龍は、強靱な羽を羽ばたかせながら、地面へと降り立つ。
そして哀れな挑戦者への手向けへとするように、強烈な咆哮を戦場へ響き渡らせた。




