決着を付けるために
引いたカードは機獣ウルフェンだった。
それを見た瞬間、黄昏が思ったことは一つだ。
(よし、逃げよう!)
もとより今の戦いは望まぬ遭遇から産まれた近距離戦。
その土台に乗り続ける必要は黄昏にはなかったのだ。
(幸い相手のカードも大概潰した。アローイーグルが残っているのはちと痛いが、距離も離れているから、双剣槍で矢を切り払えるだろ)
黄昏はそう考えて、さっさとウルフェンを召喚し、キカイの効果で騎乗しても速度が落ちないようにしてから、ウルフェンに飛び乗る。
(どちらにしろ今の手札で相手を削りきれるのは厳しいからな。逃げて手札を増やしてから反撃した方がいい。こっちはまだテーマ効果も使用していないし、やりようは幾らでもあるさ)
ウルフェンはねこねこ達を置き去りにして走り出す。
直ぐにねこねこもサイランスを召喚してその後を追ってきた。
黄昏は右手に収納していた双剣槍を出現させた。
アイテムカードなどを使う時の為に、手に持っている時に限り、固定武器は異空間に収納することが出来る。
そして収納した固定武器は、収納前の場所に出現させることが出来るのだ。
ちなみにだが、この出現は光の粒子で場所が分かる上に、その光の粒子の出現から、固定武器の顕現までタイムラグがあるため、突然固定武器を出して相手を貫く、と言ったことは出来ないようになっている。
黄昏はねこねこが時折放ってくる矢を、双剣槍で切り落とし、ウルフェンに逃げる方向を指示する。
(この辺りか……?)
坂を上り、道を駆け抜け、二頭の逃亡劇が繰り広げられていく中で、黄昏は周囲に視線を向けると、双剣槍を自分の前に置き、デュエルリングからカードを取り出して、前方の地面に投げた。
「セット! オ――」
「来ると思っとった! [本能解放]!!」
黄昏が[バルタザール]をセットした事による赤い円の範囲、ねこねこはそこに踏み込んだ瞬間に、サイランスを本能解放によって強化し、一瞬でその範囲を駆け抜けた。
(やはり、サイランスと本能解放を残しておいたのはこのためか!)
バルタザールが躱されたのを見て、黄昏は思わずそう思う。
有用な強化カードである本能解放を、先程までの乱戦の間に、なかなか使い切ろうとしなかったのは、今のようにサイランスとのコンボで、バルタザールを回避するためだったのだ。
(だが――想定内だ!)
黄昏はかなりの距離まで近づいてきたねこねこの射撃を、[三連式魔法障壁]で防ぎながら、ウルフェンごとゲートに飛び込んだ。
そして別のゲートから出現したその瞬間に、ウルフェンを二枚、カードとして取り出して、ゲートの脇に捨てるように投げた。
黄昏に続いて、ねこねこがゲートを通り抜けて現れた。
ねこねこは、ゲートの脇に置かれたカードに気付かずに、そのまま黄昏を追い続ける。
曲がり角を曲がったところで、黄昏はデュエルリングを操作して、先程カードとして現出させた二枚の[ウルフェン]を、フィールドに召還した。
(これでねこねこは前後を挟まれた形になる。
あとはあの場所までねこねこを連れてくることが出来れば――準備は全て整う!)
☆☆☆
(く、折角相手の防御魔法を使い切らせたのに、アローイーグルはもうEPが持たへんか、あと一歩やって言うのに!)
ねこねこは、そう悔しさを滲ませながらも、黄昏を追うサイランスの上で、状況の整理を行う。
(ウチの手札の残りは、リアクターウィンド一枚と、場にいるアローイーグルとサイランスの一体ずつ。対して相手の手札の残りは、レットウ一枚とウルフェン二枚、それと場にいるウルフェンが一体か。……いや、無駄撃ちさせたバルタザールも一応残っているか。まさかあれを使うなんてことは……)
そこまで考えたところで、ねこねこは考え直す。
(――って、何を考えてるんや。あのカードはこことは離れた場所に設置されたカード。もう使い物にならんはずや。そんな所に思考を回すな)
無駄撃ちさせたバルタザールが実は布石なのではないか、と思ってしまった考えを思考から外し、ねこねこは今ある手札について、どうするかを考える。
(問題はウルフェンを何処で切ってくるかや。戦闘における単体の性能ではサイランスの方が上、不意を突かなければきついことから考えるに、次のカードを引いてから一気に出してくるか? ん? 不意を突く――。まさか!)
「きゅぃ!!」
「ぐぉう!」
ねこねこがその可能性に気付いた時、後ろにいたアローイーグルから、断末魔の悲鳴が上がった。
ねこねこが振り返ると、そこには二体のウルフェンが存在していて、一方がアローイーグルを食い殺し、もう一方がサイランスの尻に噛み付いていた。
「しもうた! く……!」
痛みに呻いたサイランスが、大きくよろけて、ねこねこは振り落とされる。
ねこねこは、咄嗟に棒をサイランスに当てて、槍へと転じさせた。
勢いよく地面に落ちたねこねこは転がる。
何とか止まったところに、二体のウルフェンがねこねこを仕留めようと飛びかかってきた。
「[リアクターウィンド]!」
ねこねこは飛びかかってきたウルフェンの一体目を、リアクターウィンドで吹き飛ばすと、二体目のウルフェンを蹴り飛ばして、その反動を利用して転がりながら、体を起き上がらせる。
ねこねこは起き上がると蹴り飛ばした方のウルフェンへと槍で斬り掛かる。
だが、ウルフェンはその攻撃を華麗に飛び退いて躱した。
しかし、それを読んでいたねこねこは、サイランスを槍から分離させて、そのウルフェンを襲わせた。
「きゃうん!」
サイランスの角で、ウルフェンが打ち倒される。
(まずは一体――!)
続けて、サイランスを叩いて槍を作り、こちらに飛び込んで来たウルフェンを切り裂いた。
(これでにた――)
その瞬間、ねこねこの目に、こちらに飛び込んでくる三体目のウルフェンの姿が見えた。
咄嗟にねこねこは、サイランスを分離して、そのウルフェンから守る肉壁にする。
「ぐぉう!」
ウルフェンに切り裂かれて消えるサイランス。
ねこねこは、そのサイランスごと、攻撃直後のウルフェンを棒で叩きつけた。
「これで三体目!」
思いっきり地面に棒で叩きつけられたウルフェンは、その体を粒子へと変化させる。
そしてそのウルフェンがやってきた方向に目を向けると、黄昏の姿があった。
「さあ、決着を付けようぜ!」
そう言うと黄昏は、双剣槍を上空へと放り投げた。
「来い! [レットウ]! キカイだ!」
そして召喚したレットウが刀となり、黄昏の手に収まる。
(ウチの武器獣のようなアイテムになるユニットか!
双剣槍と刀で一人時間差攻撃を行うつもりやな!
せやけどそれくらいで……!)
「片腕で! ウチに近接で勝てるわけないやろ!」
「それはどうかな? トラップオープン! キカイ!」
「なに!?」
この段階であり得るはずもない、トラップの発動宣言に、ねこねこの動きが一瞬固まる。
そしてその次の瞬間――。
「なんやと!」
爆音と共に強烈な勢いで回転しながら飛んできた双剣槍が、ねこねこの右肩を斬り飛ばす。
そしてそれによって、ねこねこの持っていた棒が地面へと落ちた。
(これは……。そうか! このマップの特性を!!)
「俺の勝ちだ!」
武器を失ったねこねこの懐に飛び込んだ黄昏は、手に持った刀でねこねこの心臓を貫いた。
☆☆☆
HPがゼロになり、エクストラタイムに突入したねこねこ。
だが、既に未使用の手札がないねこねこに、それを回復する手段はなかった。
「してやられたわ。このマップの特性を……。上下にフィールドがあることを使ったんやな?」
エクストラタイム中はリバイブ以外の行為を行えない。
だからこそねこねこの敗北は既に確定している。
故にこのような、敗北が確定してからETゲージがなくなるまでの時間は、ブレイブカードではお互いのデュエルを総決算するための話し合いの場として使われていた。
「そうだ。[ククルの数院洞]はゲートを使用することで、天井と床を入れ替える事が出来るフィールドだ。双方を床として使用することが出来るために、その重力は天井と床の中間地点で反転するようになっている。俺はそれを利用したのさ」
「あの場でバルタザールを設置したのも、このための布石やったってことか。
恐らく、この真上がバルタザールが設置された場所やったんやろ?
だからこそ、天井で起こったバルタザールの爆発を利用して、双剣槍を押し戻すことが出来た」
「ねこねことぶつかるまでに周囲はかなり観察出来ていたからな。一番ゲートから近い位置にある天井を選んで、この展開になるようにあそこに設置したんだ」
黄昏が逃げ込んだ先であるこの場所は、バルタザールを設置した場所の天井部分だった。
故に黄昏が双剣槍を投げて、それが中間地点を越えてバルタザール側に重力が引かれた始めた時に、バルタザールのキカイを発動させて爆発を起こせば、双剣槍は中間地点を越えて押し戻されて、重力は現在の黄昏達が居る側に向けてかかるようになる。
爆風による勢いに、重力が加わった結果、双剣槍は猛烈な勢いで地面へと落下することになり、ねこねこは落下タイミングを読み違え、切り裂かれることになってしまったのだ。
「バルタザールは布石やないかって一瞬思ったんやけどな……。そっちが正解やったか……。そんな事はあり得ないと思ってしまったのがウチの敗因か」
「いや、ねこねこの敗因は俺を意識しすぎたことだ」
「ウチが黄昏を?」
「そう、明らかにねこねこは俺のことを知っている動きをしていたよ。深く考えずその場で対応する……俺がやられたら嫌がる手をひたすら貫いていた。
だからこそ、俺はそれを逆に利用することにしたのさ。
このねこねこなら、きっと失敗に見せかけた布石はあえて見逃すと思っていた。
故にリーサル<勝利が決定的となる場面を示すカード用語>としてあの手を使うと決めていたというわけだ」
その黄昏の言葉を聞いたねこねこは、深く納得したような表情をした。
「なんや、情報収集して有利に動いていたつもりが、完全に裏目ってたことなんか」
「ま、俺はちょっと情報収集をしたくらいで倒せる相手ではないってことだな」
おちゃらけたように言う黄昏を見て、ねこねこも思わず苦笑した。
「ぬかせ。素でやってたらウチが勝ってたかもしれんやろ。下手に意識したからウチは負けたんや。
せやから次はウチ自身のデュエルスタイル重視で戦って、勝ってやるからな」
そう強く言い切って、ねこねこは粒子となって消えていった。
黄昏の勝利を示すウィンドウが表示された後、空間が元の対戦室へと変化する。
そしてそんな黄昏の元に観戦室からnaru達がやってきた。
「いや~。良い勝負だったよ。最後までハラハラした」
「確かにそうだ。見ているだけで滾ってきたぞ。
そうだ黄昏、この後は我と決闘をしようではないか!!」
「あ~。悪いが先約があるからそれは出来ないな」
CCOの誘いを、黄昏はユーリの方を見ながら断る。
それを見て、CCOはその意味を理解して引き下がった。
「そうか、それは残念だが仕方ない」
「それにデュエルチャンピオンとやるなら、イベントで叩きのめしたいしな。
大会当日はメタメタにメタって挑んでやるから、首を洗って待ってるといいぜ」
その黄昏の煽りを聞いたCCOは、その獰猛な笑顔で笑う。
「なるほど、それはいい。
ならば我はそのメタごと食い破ってみせよう。
……ねこねこ、今日はもう帰るぞ」
「はいはい」
「はいは一回でいい! 格好良く決めないか! 今のはそう言う場面だっただろ!」
観戦室側にある待機部屋から、復活して戻ってきたねこねこと、そんなやり取りをしながらCCOはギルドから去って行った。
「では、私達も帰るとするか。またな黄昏」
「ああ、またな」
黄昏がそう返答すると、naru達もギルドから去って行った。
そうして、この場に残されたのはユーリと黄昏の二人だけとなった。
「さてと、それじゃあ、約束を果たそうかユーリ」
そう言ってユーリを見つめる黄昏、ユーリはその言葉に、期待を込めながらも頷いた。
「うん!」
こうして二人は歩き出した。
二人が初めて出会った場所である[樹海の決闘場]へと。
――決着を付けるために。




