異名の意味
光の中に消えていくラージライオ。
それを目にしながらねこねこは己の考えの浅はかさを後悔していた。
(あの一撃は防ぐかうちが受けるべきやった。相手が声をわざとかけてきた時点で警戒するべきやったんや)
黄昏はファントムに、『プレイヤー以外には倒されないようにしろ!』と命令を出していた。
あのプレイヤーという言葉には、自分だけではなく黄昏も含まれていたのだと、今になってねこねこは気付いた。
つまりこれは初めから立てられていた戦略。
使おうと思っていた布石。
(失念しとった。幻炎――その異名の意味を!)
七龍征の異名はデュエルスタイル+属性で決定されている。
黄昏の異名である幻炎も当然その流れで名付けられたものであり、幻と現を混ぜながら相手を騙す、彼のデュエルスタイルから来るものだ。
黄昏は自分の手を誤解させるプラフと、相手の意表を突く奇策を主体にして戦う。
自身の行動或いは言葉や状況から、相手に対してこうに違いないと思わせるようなプラフを使い、無意味な手に見せかけて布石を打ち、有意味な手に見せかけた無価値な行動で、相手に無駄打ちを誘うなど、幻を操るように相手を翻弄する。
そしてそんな行動の中で、嘘だ幻だと思わせていた手の中から、不意に現実を思い出させるように、相手の意表を突く一手を奇策として実現させて、相手に致命傷を与えるのだ。
(ウチに攻撃が来るとまんまと騙された。
せやけどだからって深読みはせん。
そうすることがより相手の思惑通りとなることをウチは知っているからな)
ねこねこは七龍征に憧れてブレイブカードを始めた。
だからこそ、情報の少ない特風や地勇、絶闇を除いて、調べられる七龍征のことは情報を仕入れていた。
(黄昏のデュエルスタイルの嫌らしいところは、このデュエルスタイルを意識すればするほど、その術中に嵌まってしまうとこや)
ねこねこは調べた時に見つけた黄昏の資料を思い出す。
(プラフだと思い込まされていた布石を、奇策として使われれば、これまでの、そしてこれからの、黄昏の全ての手に対して、同様の疑念が生まれてしまう。――これは相手が打った布石やないかってな)
人間は思い込みのしやすい生き物だ。
思い込んでいる間は、それについて考えることは少ないが、一度でも思い込んだものと違ったことが現れれば、不安になり、考え込むことになってしまう。
他のものも、本当に思い込んだままのものでいいのかと、気にしないでいて大丈夫なのかと。
(そうして必要のない部分の可能性にも思考が割かれるようになったら、その分、本来必要な場所への思考が薄くなる。
そしてそこを狙うようにプラフや奇策を打たれれば、その事について更に思考を取られるようになり、やがてオーバフローを起こしてまともな対処が出来なくなってしまうんや)
まさに思考の蟻地獄というべき戦術。
思考して、もがけばもがくほどに深く沈み混み動けなくなる。
(せやから大切なことは考えすぎないことや。相手の裏を読みすぎて隙を突かれるくらいなら、初めから多少の損は覚悟して、その場その場で、相手の考えを読んだ方が良い。惑わされず自分のペースで行くんや)
よし、と心の中でねこねこは気合いを入れ直す。
王化したラージライオは倒されてしまったが、まだこちらが不利になったわけでもない、充分に持ち直せる状況だ。
(リカードは既に倒した。ファントムもさっきので死んだから、残るはフレアノスだけや。
……もっとも、リカードを盾にしてダメージを防いでいたから、碌にダメージを受けてないんやけどな)
目の前で意気揚々とするフレアノスを見ながらねこねこは考える。
(そんでもってこっちの損害は、ラージライオがそれなりのダメージを貰っただけで、こっちの手札は一枚も割れてない。
つまり、三対一でこっちの戦況はうちの方が有利や。ここは一気に攻めてフレアノスを落とす)
「ようやっと出番やで! 武器獣アローイーグル!」
そしてねこねこは、その為の一手として、今まで温存していたカードを遂に出した。
(もう、ファントムはおらん。
ならアローイーグルの弓で、誤ってファントムを狙い撃つこともない)
ねこねこは棒を、近くに飛んでいたアローイーグルにぶつけた。
するとアローイーグルは、光の粒子となって棒に取り込まれ、棒は有機的な質感を持った弓へと変化する。
そしてねこねこがその弓の中央に手を当てると、そこから赤い光が伸びて、エネルギーで出来た矢のような姿になった。
「まずは一発!」
ねこねこが矢の部分から手を離すと、その矢が弓から解き放たれる。
そして向かう先にはフレアノスの頭部があった。
「腕で防げ!」
「がう!」
フレアノスはそれを避けようとしたが、黄昏が咄嗟の判断でこぼした言葉に従って、あえて腕で受ける。
赤いエネルギーの矢が腕に刺さるが、フレアノスの炎の刃の火力で相殺された影響か、深刻なダメージをフレアノスに与えることはなかった。
(矢が曲がることを分かっていたか)
ねこねこは思わず心の中でため息を吐いた。
アローイーグルの矢は、事前に撃った後の矢の軌道を決めることが出来る。
ねこねこの放った矢はフレアノスが躱した時に、躱した先にある急所を狙って放たれたものだった。
だからこそあえて受けるように言った、黄昏の言葉がなければ、今頃フレアノスは倒されていたのだ。
「まあ、ええ。まだEPはある。次を撃つだけや。『膳』」
そう言ってねこねこは、二の矢、三の矢を放つ。
それらの矢は、フレアノスの炎の刃によって切り捨てられる。
だが、そんなことは想定内だ。
矢に煩わされている内に、サイランスが突撃を始める。
フレアノスはそれを受けることもなく飛び退いて躱すが、躱した先には既にラージライオが待機していた。
ラージライオの鋭く尖った鬣による切り裂きを、フレアノスは炎の刃で受けて受け流す。
(ここ!)
そして生まれた防御もままならないタイミング。
ねこねこはそのタイミングで、矢をフレアノスに向かって放った。
「させるかよ! [機獣レットウ]! ケモノだ!」
その言葉と共に、空中に刃が浮かぶと、その刃が動き、ねこねこの矢を切り裂いた。
(最後の一枚――! 飛行型のユニットや。ドラ○エに居そうなやつや!)
続けて矢を撃つが、その矢もレットウに防がれてしまう。
「完封とか、そりゃないやん」
「ついでにだめ押しだ! [レットウ]もう一体召喚!」
黄昏は更にレットウを召喚して、フレアノスの援護に向かわせる。
そして自分自身は帝国式フレアショットを召喚して、ねこねこを銃撃し始めた。
「――っち、厄介な……」
(黄昏の手札が一枚減った。帝国式フレアショットを使い切ったな。
せやけど、レットウがその代わりになる。
元からアローイーグルを出してもどうしようもなかったってことか、これならもっと速く使い潰すつもりで使っておけばよかった)
銃弾を躱しながら弓矢を放って応戦する。
(武器獣は武器化している間はEPが減る。特にアローイーグルは矢を放つ度に追加でEPを消費する。このままじゃ、EPが切れて弓形態が解除される。
せやけど手持ちにこの状況を打開する手段はない。なら――)
「【還元】! [ヒーリングフィールド]をコストに!」
還元はリバイブのようなブレイブカードで行える機能の一つだ。
手札のカードを一枚、コストとしてデュエルから除外することで、未使用なら100DPを、使用済なら[(100/総回数)×残回数]のDPを得ることが出来る。
ヒーリングフィールドは総回数は二回で、まだ一回しか使用していない。
つまり[(100/2)×1]で50DPものDPを得ることが出来る。
そしてそれだけのDPがあれば――。
「ウチのターン! ドローや!」
DPが溜まりきったことで光輝いたデュエルリングの装飾に手を当てて引き抜く。
〔スキル〕【烈波斬】回数:3(残数:3)
(来た!)
「もう少しで溜まりそうだったにわざわざ還元してよかったのか?」
「っは! ヒーリングフィールドはこの先使い道なさそうやったからな! そういうそっちはもう引けるのにまだ引かなくてええんか!」
「今引いたカードを撃ち抜いたら引くさ!」
「ぬかせ! そう簡単にやらせるか!」
ブレイブカードではお互いのDPの溜まり具合を視認することが出来る。
ねこねこと黄昏はお互いにそれを見て、軽口を言い合ったのだ。
弓と銃の撃ち合いは、先にアローイーグルのEPが尽きたことで、弓化が解除されたことで終わりを告げた。
(相手の残弾数も少ないはず……。もう出し惜しみはなしや!)
「こい! [アローイーグル]!」
「[レットウ]! 相手をしてやれ!」
弓化が解除されたアローイーグルが、矢を切り払っていたレットウと、新たに召喚されたアローイーグルが、新たに召喚されたレットウと対峙する。
そして黄昏は帝国式フレアショットで、アローイーグルを撃ち落とそうとするが、それより先にねこねこは動いた。
(この距離なら……あたる!)
「[烈波斬]!」
「しまっ――!」
ねこねこが振り下ろした棒から、地面を走る斬撃が発生する。
それは、咄嗟に回避しようとした黄昏の、帝国式フレアショットを持つ左腕を斬り飛ばした。
「く……!」
黄昏は手に持った固定武器を光の粒子として収納する機能を使い、双剣槍を収納すると、左手が透過したことで落ちた帝国式フレアショットを拾い上げて、ねこねこから距離を取った。
(二発目は警戒される。なら――!)
「次はお前や! [烈波斬]!」
「レットウ!」
ねこねこは狙いを変えて、フレアノスに向かって烈波斬を放つ。
黄昏はレットウに命令して、その身を盾にフレアノスを守らせる。
「ぎぃ……」
「がぅ!」
レットウに命中したことで威力の弱った烈波斬を、フレアノスが炎の刃で打ち消した。
そしてその隙を狙ってラージライオとサイランスが動き出そうとするが――。
「させるかよ!」
黄昏が帝国式フレアショットを連射してラージライオを撃ち抜く。
これまでの戦闘でダメージが溜まっていたラージライオは、これによってHPがゼロになり消えていく。
「サイランス! 『絶』!」
道連れの足止めを意味するねこねこの命令によって、サイランスがフレアノスへと突撃して取り憑き、その場に無理矢理留めさせた。
「上出来や! [烈波斬]!」
再び放たれた斬撃は、サイランスごと、フレアノスを切り裂いて、双方のHPをゼロへと転じさせた。
「く、俺のターン! ドロー!」
帝国式フレアショットを撃ち尽くした黄昏は、それを捨てると半透明になっているデュエルリングの装飾に手を当てて引き抜き、カードをドローした。
「きゅぃー!!」
地上での争いが進む中で、空中での争いも終わりに近づいていた。
アローイーグルの一体が、レットウによって倒され、戦況は黄昏の側へと流れていく。
(地力じゃ、相手のユニットに勝てへんか!)
「[本能解放]!」
ねこねこは咄嗟に、温存しておいた強化能力を持ったカードを使って、アローイーグルを強化する。
瞬間的に強化されたアローイーグルは、レットウの一体を貫いた。
「戻ってこい!」
そしてそのまま自分の手元へとアローイーグルを引かせると、アローイーグルを叩いて弓へと変化させた。
「落ちろ!」
再び弓を持ったねこねこが放った赤いエネルギーの矢が、レットウを打ち抜き、そのHPをゼロにさせる。
そして次に黄昏を狙い撃とうとするが――。
「来い! [機獣ウルフェン]! キカイだ!」
「な――!」
それより先に黄昏がウルフェンを召喚し、それに飛び乗って逃げ出した。
(彼奴逃げよった!)
「来い! [サイランス]! 追うんや!!」
黄昏を追うために、ねこねこもサイランスに飛び乗った。




