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ブレイブカード  作者: きしと
Enjoy Game
18/36

テーマ効果


「今日は吹っ飛ばされてばかりだな」


 そう思わず愚痴りながらも黄昏は立ちあがる。

 リアクターウィンドには驚いたが、そこまでダメージを負うこともなく、ただ吹き飛ばされただけで終わったのは幸いだった。


(本来なら飛ばした後に追撃でコンボを入れるためのカードなんだろうが、上手い具合に相手が他のことにかまけてたから、そこまでされなかったみたいだな)


 そこで黄昏は考え直す。


(いや、今回もそうするつもりだったけど出来なかったが正しいのか? 元はフレアノスを潰したサイランスに追撃させるつもりだったのかもしれん。そうなると最後まで頑張ってくれたフレアノスに感謝だな)


 相手の思惑を崩せているならそれに越したことはない。

 そんなことを思いながらも、黄昏はお互いに距離が離れた事で生まれたこの膠着状態の間に、自分の手札を再確認した。


 〔ユニット〕【機獣フレアノス】回数:2(残数:1)

 〔アイテム〕【帝国式フレアバレット】回数:3(残数:1)

 〔トラップ〕【機獣バルタザールの黒煙】回数:3(残数:1)

 〔ユニット〕【機獣レットウ】回数:4(残数:4)

 〔マジック〕【三連式魔法障壁】回数:3(残数:2)


(きっついな~。相手はまだ未使用が二枚もある。それに比べてこっちはレットウ以外、全て手札は公表済み。

 デュエルリングを確認させる暇を与えてないから、詳細までは把握出来ていないだろうが、フレアノスにバルタザール、それに何らかの銃と防御魔法ということぐらいは把握されてしまってるだろう)


 ブレイブカードでは、目視で相手の手札の枚数と使用状況は確認出来るが、カード名やそのカードの残数は分からない。

 相手がカード名を宣言して、公開状態になっているカードなら、デュエルリングを使えば、それらの確認を行う事が出来るが、今のような接戦になっている状況では容易に確認出来ないのが実情だ。

 だからこそ、ブレイブカードでは、どれだけカードを知っているかが重要になってくる。相手のカード名から、効果や回数を把握して、対策を取るにはそう言ったものが不可欠だからだ。


 ねこねこは獣の掟(ビーストロウ)の序列十三位であり、トッププレイヤーの一人。

 当然、こちらが出したカードは、効果や残数も含めて把握されていると考えるべきだ、と黄昏は考えていた。


(フレアバレットを使って遠距離戦へと無理矢理持って行くか? 距離を少しでも開ければ、バルタザールを使って、どちらの効果を使うにしても距離をかなり剥がせる。

 だけどな~。ファントムを処理しないのがなんか怪しいんだよな。武器獣には飛行型のユニットも何体かいたはず。どうしてそれを使ってファントムを処理しない?)


 単に手札にないだけの可能性もある。

 だが、そう考えてリスクを検討しないのは愚か者のすることだ。


 手札が見えない以上は、それがあるとして動いた方が良い。

 例えば、遊○王で、相手が手札にエフェク○ベーラーを握ってることを想定していなければ、ノリノリで展開した直後に効果無効にされて、悲しい思いを味わうことになることだってよくあるのだ。


(あえて手札にある飛行型の武器獣を出さないとするならば、そのユニットを俺のフレアバレットで削られることを警戒していると考えることが出来る。

 ……だとすれば残りの手札のうち、一枚は武器獣アローイーグルか? あれは効果が強力な分、回数が少なかったはず。それならこの状況も頷ける)


 黄昏もねこねこも、共にこのゲームをやりこんでいるトッププレイヤーの一人にして、歴戦のデュエリスト。場の状況、相手の手札や墓地、そして相手の心理から、互いの思考や戦略を精確に読み合っていた。


(なら、あえてこのまま、ファントムを主体にして接近戦を続けるか、フレアバレットを失えば、相手はファントムを簡単に処理できるようになる。このまま続けた方が相手に取ってはきついはず。相手に取って嫌なことをするのが戦いの鉄則ってやつだからな)


 黄昏はそう結論付けた。

 このままお互いに変わらずに戦い続ければ、黄昏の想定通りの結果となり、ねこねこの苦戦は免れないだろう。

 これが一定の思考に則ってデュエル展開を行うNPCだったら、そのままの形で戦いが決まっていたかもしれない。


 ――だが、これは対人戦だ。


「武器獣の【テーマ効果】を発動!」


 相手は自分と同様に思考をする存在であり、常に状況を打開しようと足掻き、こちらの上を行こうと虎視眈々と狙っているのだ。

 だからこそ、状況から想像した展開なんてものは、相手の新たな一手によって容易く上回れ、そして事態は急変する。


「ラージライオを王化する!!」

「ここでか!?」


 ねこねこの行為の意味を理解した黄昏は思わず叫んだ。

 そしてそんな黄昏を尻目に、倒れ伏していたラージライオの姿が、群れの長に相応しい立派なものに変化していく。


「王化したラージライオの効果! 一定ステータス以下のユニット一体を確定破壊!  消え去れファントム!! 王咆哮おうほうこうや!!」


 群れの長――王となったラージライオが雄叫びを上げる。

 そしてその雄叫びによって起こった衝撃波により、二体いるうちの一体のファントムが、粉々に砕かれて光の粒子となって消えた。


(っち。近い方の壁役のファントムが消えた! ここでテーマ効果を使うとは!?)


 テーマ効果とはデュエル中に一度だけ使用できる効果のことだ。

 デッキ内に存在する機獣や武器獣などのテーマの中から、一つだけを選んでデッキにテーマ効果として設定することが出来る。この効果はテーマごとに千差万別となっていて、それぞれのテーマの特色にあった効果を発揮することが出来るのだ。


 テーマ効果は、元々は【魔神ましん】や【ダブルフェイス】のような特殊なデッキのために、三年前のアップデートで、それらのテーマと共に追加された機能だ。


 魔神は、デュエル開始時に封印された状態で召喚される魔神の封印を解放していくことで、その強力な魔神を使用していくデッキだ。

 簡潔に言ってしまえば、デュ○マのドキン○ムXのようなデッキと思って貰えばいい、この最初に魔神を召喚するところを、ブレイブカードではテーマ効果として実現している。


 ダブルフェイスはヒーローとヴィラン二つのデッキを切り替えて戦うデッキだ。

 簡潔に言ってしまえば、バディファ○トのロ○トデッキのようなデッキと思って貰えばいい、このデッキの切り替えを、ブレイブカードではテーマ効果として実現している。


 このように単体のカードに留まらない、テーマとして効果発揮しなければならないテーマ群の為に作られた機能がテーマ効果なのだ。

 ただ、特殊なテーマだけがそのような効果を使って有利になるのは、バランス調整の点で問題があるとされ、既存のテーマに関しても何かしらのテーマ効果を設定されるようになった。

 だが、そのテーマ効果は玉石混交だ。既存テーマは基本的にカード一枚分の効果の役割を果たすものが多いが、当たり外れも大きい。

 例えば黄昏の使う機獣は、テーマ内カードである機獣再編と同じ効果である機獣の効果の再選択を貰ったが、再選択自体が余り使われることがないため死に効果となっていた。

 そう言った死に効果になっている効果を持つテーマの為に、デッキ内でテーマが存在していなくても汎用的に選択出来る汎用テーマ効果なんてものも存在している。


 黄昏もそう言った汎用テーマ効果を使用しているものの一人だ。

 機獣のテーマ効果の代わりに、一定時間の間、DPの追加を1.5倍にするというドロー加速の汎用効果をデッキに設定している。


(武器獣のテーマ効果は長への試練と同じ武器獣の王化。一定時間以上場に存在する武器獣を、群れの長である王へと変化させる。王となった武器獣は、武器になった時も真打ちとなり、双方の状態の時の大幅なステータスアップと、効果が一つ追加されるんだったけか? 

 まったく使いやすい効果で羨ましいねっ!)


「そしてカードをセットや!」

「……っ!」


 ねこねこがその場でカードをセットし、その事による赤い円が広がっていく。

 黄昏はそれを見て咄嗟に飛び退いたが、赤い円の広がり方を見て、考えを変えた。


(円の範囲が大きく、広がるのが速い……? 攻撃系のカードならこうはいかないはず、となると何かしらの補助カードか?)


「隠していても意味はないしな! [ヒーリングフィールド]! オープンや!!」


 どうせ見た目や効果でバレると思ったねこねこは、あえてカード名を明確に宣言して効果を発動した。その宣言に合わせて赤い円の範囲になっていた空間から、緑色の淡い光が漏れ出して、黄昏に傷付けられたサイランスや、ラージライオを癒やしていく。


(ヒーリングフィールド! 少量の継続回復で、HPと状態異常である部位欠損を癒やしていくことが出来るカード……! サイランスを癒やしつつ、ラージライオを戦線復帰させるのが狙いか!!)


 状況はここに来て一転した。

 先程まで追い詰める側だったのは黄昏のはずだった。

 だが今は違う。


(まずい……。妨害用のファントムも一体消された。

 そして何よりこのまま放置すればラージライオが自由になる……! 

 王化したラージライオがいるなら、アローイーグルを出すなど、積極的な行動も取れるようになるはず。

 ……部位欠損が回復する前に、何かしらの手を打たないとこっちが追い詰められる!!)


 先程まで時間は黄昏の味方だったが、今はその逆だ。

 ラージライオの部位欠損回復というリミットまでに、あちらの手を崩す状況を考えなければ、強力なユニットで強引に押し込まれてしまうことは目に見えていた。


(どうする? 傷ついてるサイランスを消して、後々、ラージライオを倒しやすくするようにするか? それともまだ動けないラージライオを仕留めに行くか。

 ……後者だな。サイランスを一体削ったところでねこねこの手札にはもう一枚いる。それよりかはテーマ効果を使って王化したカードを減らされる方が相手に取っては辛いはずだ)


「……リカード! ファントム! 距離を取りつつ、ねこねことサイランスを足止めしろ!」


 そう言いつつ、黄昏はラージライオに向かって走り出す。


「させるとおもうんか? [ぶ――]」

「そうはいくか!」

「――っち!」


 何かしらのユニットを召喚しようとしていたねこねこを、黄昏が帝国式フレアショットを打つことで牽制する。

 ねこねこはリスクを考えてその召喚を止め、そして別の召喚を行う。


「こい! [ラージライオ]! 『連』」


 二頭目のラージライオがねこねこの側に現れる。

 そしてリカードへと向かって行った。


 こうして戦況は二つに分かれた。


 王化したラージライオとそこへと向かう黄昏。

 そんな黄昏の元へと行かせないように、黄昏とねこねこ達の間に壁として立ちふさがるリカードとファントム。

 そしてそれを越えようとするラージライオと、一歩引いた位置から追従するねこねことサイランス。


(リカード達じゃ、ラージライオを加えた、ねこねこ達を長時間抑えておけない……。

 ここはもう一手、追加するしかないか!)


「出番だ! フレアノス! ケモノの力でリカード達と共に戦え!」

「がぁああ!」


 その黄昏の言葉に、雄叫びで答えたフレアノスが、リカードと戦うラージライオへと向かって行く。


(これで向こうは何とか持つだろう。

 こちらを速めに片付けてあちらの援護に行く!)


 黄昏はそう考えながら、帝国式フレアショットを構えてラージライオを撃つ。


「大したダメージは与えられないか……!」


 元から高いステータスを、王化によって更にあげているラージライオには、威力が低い代わりに弾数の多い帝国式フレアショットでは、大きなダメージを与えることは出来なかった。

 そして小さなダメージなら、ヒーリングフィールドの効果によって回復してしまう。


 炎の弾が傷付けた弾痕が、緑色の光を浴びて癒えていく様子を見ながら、黄昏は思考する。


(生半可な攻撃じゃ駄目だ。一気に止めをさせるような攻撃をしないと、ここで使うつもりはなかったが、あの仕込みを使うか)


 そして黄昏はラージライオへと一気に近づいた。

 双剣槍を振りかぶって、ラージライオを斬り付けようとするが、ラージライオは無事な足をふるって、黄昏に反撃を加えようとする。

 黄昏はそれを躱しつつ、相手を斬り付けようとするが、その前にラージライオの後ろ足が動いているのに気づき、大きく飛び退いた。


「おっと」


 そして黄昏のいた位置を、後ろ足を使って飛び出したラージライオが通過していった。

 片足を失っているラージライオは、勿論上手く着地することなど出来ずに、無様に転がって起き上がる。


 誇れる獅子の王のものとは思えない破れかぶれの手。

 懸命に動かせる足だけを使って行った牽制は、その成果を見事に発揮し、黄昏の攻撃の手を止めることに成功したのだ。


(厄介だな。碌に狙いも付けられてないが、後ろ足で無理矢理飛びつくことくらいは出来るか。

 他にカードがあるなら、倒れた瞬間を狙って総攻撃を仕掛けるが、今の手持ちにそれをして意味があるようなカードもない)


 じろりと、こちらを警戒するように伺うラージライオを見て、黄昏はその意識が右側に集中していることに気付いた。


(失った右足を庇っている? そう言えば、さっきの飛び込みも、着地は左足を中心にしてた。

 飛び出すときに左足が先に来ると分かっているなら手はあるか)


 黄昏はそれまでの右狙いをやめて、左側からラージライオに向かう。

 ラージライオの爪を躱し、双剣槍で斬り付ける。


(大きなダメージは与えられていないがこれでいい。

 ラージライオの高い賢さなら、このまま行けば少しずつ削られると理解して、焦れ始めるはずだ)


 黄昏の読み通り、ラージライオは状況打破の為に、再び後ろ足に力を入れた。


(来た!)


 黄昏はそれを見ると左斜め後ろに飛び退いた。

 そんな黄昏のいた場所にラージライオが飛び込んでくる。

 

 黄昏はそれをじっくりと見極めて――。

 ――着地の為に伸ばされた左前足に飛び乗った。


「がぅ!?」

「狙い通り! 所詮獣の浅知恵よぅ!!」


 そして左足から飛ぶ形で黄昏は、着地後でまだ正確な身動きが出来ないラージライオの上へと飛び乗った。


「がぁがぁがぁ!」

「うおっとっと!」


 そんな黄昏を振り落とそうと、ラージライオは体を振り回して暴れる。

 黄昏は、ラージライオから振り落とされないことに必死で、攻撃に移ることが出来ない。


 このまま時間が経てば何処かのタイミングで黄昏は振り落とされるだろう。

 だからこそ、それよりも先に黄昏は動き出す。


「ねこねこ!」

「……!」


 黄昏はそう叫んでねこねこに帝国式フレアショットを向けた。

 そしてそのまま引き金を引く。


 帝国式フレアショットから放たれる弾丸、だが発射のタイミングを見ていたねこねこは、その弾丸を体を避けることで躱した。


「っは! 自ら攻撃を知らせるなんて躱してと――」


 そんな風に黄昏の行動を鼻で笑ったねこねこが目にしたのは、ラージライオの体から黄昏に伸びて、黄昏をその場で拘束しようとする霊糸だった。


「んなぁ!? あれはファントムの――」


 そう思い、ねこねこが振り返った先には、光の粒子として変わり始めるファントムの姿があった。


「準備は整った!」


 そう言って黄昏は霊糸によってしっかりと固定された体を起こす。

 ラージライオが黄昏を振り落とそうと暴れるが、既にそんなものは関係ない。

 なぜなら効果によって黄昏は、ラージライオから離れられないようになっているからだ。


 ――そう、黄昏はねこねこを狙ったのではない。あえて声をあげてこちらに意識を集中させることで、ねこねこの背後に気付かれることなく回った、彼女の後ろにいるファントムを狙ったのだ。


 全ては自分とラージライオを固定して、全力の一撃を叩き込むために。


 黄昏は残弾のなくなった帝国式フレアショットを捨てると、両手で双剣槍を握りしめて大きく振りかぶった。


「さあ! 狩の時間だぜ!!」


 その言葉と共に、黄昏はラージライオの脳天に双剣槍を突き刺した。


 カードの発動宣言は[]で囲み、スペシャル発動時などの口上は『』で囲みます。


 なので今回の王咆哮のようなどちらにも囲まれてないものは、フレーバーテキストに記載されたユニットの技名を宣言しているか、ノリで適当な語句を言っているだけとなります。


 アニメに憧れて入ったデュエリスト達は、一種のロールプレイヤーなので、そうやってアニメのように技名等を言いたくなってしまうものなのです。

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