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ブレイブカード  作者: きしと
Enjoy Game
15/36

先制攻撃


「っと、あのゲートがあるってことは、だいぶ端の方に飛ばされたみたいだな」


 黄昏は近くにあった壁に背を向けて安全を確保しながら、周囲の様子を観察するとそう呟いた。


 見渡せる範囲にねこねこの姿はなく、恐らく互いに正反対に飛ばされたと考える。


(対戦室を使っての対戦だと、サブルールで位置の指定をしない限り、遠距離デッキが死なないように、ランダムな位置に転送されるからな~。

 ま、今回に限ってはその方が俺に取って好都合だ)


「[機獣ウルフェン]をケモノで二体召喚、ついでに[魔帝勅令]を発動だ」


 黄昏はカード名を宣言に合わせて、ウルフェンが二体その場に出現する。

 そしてその二体のウルフェンが淡い赤色の光に包まれた。


(魔帝勅令は、フィールドに機獣が二体居るときに発動することが出来るカードで、指定した二体が存在する限り、DPの追加を1.5倍にできるカードだ。

 相手は獣の掟(ビーストロウ)の序列十三位、手札は多い方が良い)


 黄昏はそう考えた後、周囲を警戒しながら、少しずつ移動を始めた。


(出来ればこちらが先に相手を捕捉して奇襲を仕掛けたいな。

 イベントで当たったことはないが、確かねこねこは【武器商人】の異名を持つ【武器獣(ウェポン・ビースト)】テーマの使い手で、武器に変化するアクティブエフェクトを持った武器獣と連携して、超接近戦を仕掛けるデュエルスタイルだったはずだ。

 懐に入られたら一巻の終わりかもしれんし、なるべく距離を取って中遠距離戦で挑みたい)


 そう思いながら慎重に移動していると、黄昏のDPが溜まった。


(魔帝勅令を使用しているからさすがに早いな。取り敢えず増やせるだけ増やして起きますか)


「俺のターン。ドロー!」


〔ユニット〕【機獣レットウ】回数:4(残数:4)


(ブレイブカードでは手札は九枚まで持てるが、ねこねこを見つけるまでにどれだけ手札が溜まるかな)


 そんなことを考えながら黄昏は移動を続けた。


☆☆☆


 事態が動いたのは黄昏が七枚目の手札となるカードをドローした時だった。


「なんだ?」


 妙な違和感、微かに聞こえた音に黄昏は不信感を募らせる。

 近くにいたウルフェンも周囲の臭いを嗅ぎ、そして近くにある壁へ上へと視線を向けた。


 その壁の上から灰色の何かが大量に壁を伝って落ちてくる。


「ねずみ……? 武器獣ピックラッドか!? さがれ! ウルフェン!!」


 それが敵の攻撃だと気づき、黄昏は魔帝勅令を切らさないように、ウルフェンを後ろに下げされる。


 ピックラッド達は壁を足場に、そのアイスピックのように尖った角を、こちらに向けて飛びかかってきた。


「っち!」


 黄昏は双剣槍を振り回してそのピックラッド達をたたき切る。

 だが、如何せん数が多い、倒しきれなかった、ピックラッドが肩に突き刺さる。


「く……、セット! オープン! ケモノだ!!」


 刺さったピックラッドを、双剣槍を持たない手で抜き取り、握りつぶしながら、黄昏はその場に[機獣バルタザールの黒煙]にセットして、その場で発動する。


 セットした地点から黒い煙が出てきて、それがピックラッド達に纏わり付き、その動きを遅くしていく。


 黄昏は思いっきり双剣槍を振り回して回転すると、そのまま壁と反対側の方へと進み、煙が出ない位置に逃げ出した。


「[帝国式フレアバレット]!」


 そして振り返ると、双剣槍を持たない手に黒い魔銃を出現させて、バルタザールのケモノの力によって、鈍足の状態異常にかかったピックラッドを冷静に撃ち抜いていった。


「ギャウン!?」

「なに!?」


 そうして対応していると、突如自分の後ろにいたウルフェンが断末魔の悲鳴を上げた。

 振り返ると、そこにもピックラッドがおり、生き残っていたウルフェンと戦いを始めていた。


(な……!? いつの間に後ろに……!? 壁側から抜かれたのか? いやそれはあり得ない。確実に防いでいたはず……。とすると別働隊を作って手近なゲートからこっちに向かわせていたのか)


 黄昏は、ウルフェンを襲撃しているピックラッドをフレアバレットで撃ち抜く。

 だが、そうしている間に壁側からやってきたピックラッドに足を貫かれた。


「く……!」


(不味い……! 囲まれている……! どちらかに向かって包囲を抜け出さないといけないが、ゲートのせいで、どちらの方向がねこねこのいる本命か分からない……! 迂闊に突っ込むと、ねこねことご対面となりかねないぞ、これは)


 自分の足に刺さったピックラッドを無視して、近寄ろうとするピックランドを撃ち抜く。

 そして残弾が無くなったフレアバレットを捨てた。


(と言うか数が多すぎる。ピックラッドの回数は十回のはず。

 つまり十体しか存在しないはずなのに、俺達は既に十六体は倒している。

 なのにまだ周囲にはピックラッドの姿がある……。ピックラッドを複数枚使った? いやこれは……)


「ピックラッドと増殖のコンボか!!」


 増殖は特定のステータス以下のユニットに対して発動出来るカードで、カードの発動回数を元々の数分追加することが出来る。

 そして増殖自体の発動回数は五回となっている。


(つまり最大で五十体のピックラッドが存在する可能性がある。ここにそれほどの数はいないが、それは増殖をそれだけ使ってないということか? 

 いや、キマイラ捕食――指定時間内に倒された武器獣に合わせてDPを獲得出来るカード、ピックラッドなら一体につき6DPを獲得するあのカードの存在を考えれば、コンボとなるピックラッドを大量生産しない理由はない)


「キャウ……」


 二体目のウルフェンが、ピックラッドによって倒される。


「もたないか……! こっちだ!」


 そう言って黄昏は、ここまでやってきた道の方へと駆け出した。


(ピックラッドがここに五十体いない理由は、恐らく大量に生産したピックラッドによる人海戦術で俺の位置を割り出すためだ。

 ねこねこの基本的なデュエルスタイルは超接近戦、言わばこれはそれの対策として、隠れて遠距離戦を仕掛けようとした相手へのコンボなんだろう。

 次々とピックラッドが追加されたのは、こちらを発見した位置から、俺を逃がさないように、戦力を投入しただけ。

 つまり長く居座れば、態勢を整えたピックラッドが一気に襲い係ってくる。

 なら、どちらでもいいから早くこの場を離れるのが最善だ)


「こい! [ウルフェン]!、 そしてセット!」


 囮役として使用する為に、先程までいた位置にウルフェンを召喚し、[機獣バルタザールの黒煙]を仕掛ける。

 そして向かってくるピックラッドを、双剣槍や、新たに出した[帝国式フレアバレット]で蹴散らしながら、頃合いをみてセットしたカードを発動させた。


「オープン! キカイ!」


 バルタザールのキカイの効果は、発生させた黒煙を一定時間後に粉塵爆発させて、周囲を吹き飛ばす強力な爆発を生み出すものだ。


 その効果に見合った強力な爆発によって、ウルフェン共々、大量のピックラッドが吹き飛ばされて消滅する。


(相手はピックラッドが倒された位置でこっちの位置を把握したはず。

 ならウルフェンを残して戦わせておけば、あそこにいると勘違いして、援軍をあそこに派遣するはずだと思ったけど、見事に当たったな。

 これでピックラッドの大半は倒せたはず。相手のDPが溜まったのは痛いが、どちらにしろ倒せなければいけないわけだから、必要経費として割り切っておくか)


 プレイヤーが視認できるマップ機能には、味方チーム側の位置は全て表示されるが、敵チーム側の位置は、探知系のカードを使用するか、プレイヤー本人、賢さが一定以上の高さのユニット、探知系のエフェクトを持つユニットのいずれかが、対象の位置を見つけないとマップに表示されない。

 黄昏は、ピックラッドが、そのような賢さも、エフェクトも、保持していないと知っていたので、自ユニットが消えた位置で、こちらの居場所を把握したのだと察して、あえてあそこでピックラッドを倒す役目を持ったユニットを配置したのだ。


「くそ、やるな……!」

「ようやっと見つけたで!」


 足を刺していたピックラッドを始末して、逃げ出した先でねこねこの姿を見かけて、黄昏は思わず唸った。

 ねこねこは嬉々とした表情を見せながら、自身の固定武器である【棒】を構えて、黄昏の方へと駆け出してくる。


(俺があの壁の場所まで来た道は、罠が仕掛けられている可能性があるから、そちらのルートから来ることは敬遠すると思っていていたが、その考えを読まれてたなこれは)


 戦いの主導権を完全に握られてしまったことを、苦々しく思いながらも、黄昏は状況打開のための手を打つ。


「[機獣工廠]! 機獣フレアノスをサーチ! 出てこい! [フレアノス]!」

「出番や! [武器獣ラージライオ]! そして二体の[サイランス]!」


 二人のカードの発動宣言によって、黄昏の側に炎を纏った魔獣が、ねこねこの側に鬣が鋭い刃となったライオンと、二体の角が槍となったサイが召喚される。


「ケモノだ! フレアノス! ラージライオを止めろ!」

「させへん! 『豪』!」


 ねこねこの言葉と共に、ラージライオを守るように二匹のサイランスが、ラージライオの前に移動する。そしてそのままの勢いで、サイランスはフレアノスに、その鋭く尖った槍をぶつけた。


 鈍い音が響く中で、フレアノスは炎の爪で、二体のサイランスの角である槍を、勢いによって押し流されて、後退しながらも受け止める。


「いまや! 『撃』!」


 そして止まったサイランスを踏み台にして、ラージライオは飛び上がった。


「――!」

「もろうたで!」


 飛び上がったラージライオは、フレアノスを飛び越えて、フレアノスを盾にして、後方にいた黄昏へと飛びかかる。


 ラージライオの鋭く尖った爪が黄昏へと迫る。

 その凶刃が黄昏を貫くと思ったその瞬間――。


(――ここだ! [三連式魔法障壁]!)


 透明な壁がその爪を受け止めた。


「防御魔法……! 『ざ――』」


 ねこねこがその正体に気づき、次なる指令を下すより早く。

 黄昏はラージライオの下を潜り抜けるように移動しながら、その前足を双剣槍で切り裂いた。


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