妖精と悪魔 5
ルシアと僕の対峙は数分にも及んだ。
その間に、お茶を運んできたオリバーも、少し疲れた様子のルイスも僕らを不思議そうに見ながら横切って行った。
ジェイコブ様は未だ謎の距離を保っている僕たちに声をかけた。
「二人とも、おいで」
「お父様、私、この子と一緒は嫌」
人差し指をしっかり僕に向け、ルシアはしかめ面でそう言う。
今迄、こんな態度を取られた事がないので、俄然興味が湧いた。とは言え、ルシアが僕を拒絶する理由は、悪魔絡みだという事くらい既に分かっている。
悪魔と妖精は、相性が非常に悪い。
でも、気になる事がもう一つ。
「ねぇルシア」
「呼び捨てにしないで!」
ルシアの叫びを無視して、僕は彼女の骨と皮だけの細い腕を掴む。
「ちょっと、なにしてるの!離して!離しなさいよ!じゃないと…アンタ…が…」
掴んだ腕から魔力が吸われていく。
ルシアは悲痛な叫びを上げていたが次第にそれは尻すぼみになっていく。乾いた頬に涙が零れ落ちた。
ジェイコブ様は慌てて僕の腕を離そうと腕を伸ばしたけれど、空いている方の手で制止する。大丈夫、と声を出さずに伝えると、不安に瞳を揺らしながらもジェイコブ様はその場に留まった。
「僕、半分妖精だから普通の人よりも魔力は多いんだ。それに、君だってキツイでしょう?常にギリギリの魔力で過ごすなんて」
「でも、だからって!」
そっと親指の腹で、ルシアの頬を流れた涙の跡を拭う。
同年代の子と比べて小さく細い身体は、常に魔力が吸われている様で、かなり魔力が少ない状態だった。成長阻害が起きているのも、これが原因だと思う。
逆に、足りない分の魔力を補う事が出来れば、ルシアは普通の子と同じ様になれるだろう。
「僕は、いつも一人だったんだ。妖精の子だから。友達がいなくて。ねぇ、友達になってくれない?」
「は?え、無理。だって私、悪魔が」
「僕といたら悪魔もどっか行くよ。ねぇ、お願い」
ルシアの手を両手で握り、上目遣いでルシアを覗き込む。
ルシアは分かりやすく狼狽えていた。
正直なところ、ルシアはとても宝石の原石だと思っている。
今は痩せ細った体が目立っているものの、手足はすらりと長く、成長阻害が無くなればスタイルが良くなるだろう。
魔力不足で顔色が悪く、肌はカサつき、目の下にはクマが居座っているが、顔の一つ一つのパーツは整っており、少し垂れた目元は穏やかに見せる。
意志の強い性格はとても好ましい。意見を忌憚なく言える、それは誰にでも出来ることでは無い。
過去、ジェイコブ様とその奥様、そして両親の四人で色々あったことはなんとなく知っている。
けれど、ジェイコブ様も両親も気にしていないみたいな上、両親は恐らくルシアを僕に会わせようとしていた。
きっと、ルシアの状況を変えれるのが僕だと分かっていたのだろう。
悪魔に目をつけられ、苦しめられている罪なき少女を助ける力がある、と。
「ジェイコブ様、いいですよね?僕、ルシアと友達になりたいんです」
僕は、存外諦めの悪い男なのだ。




