妖精と悪魔 4
お父様の言い付け通り、トランクを見張る。
暇なので、使用人に集まってもらい、自己紹介を受けて、その後はトランクを眺めながらお茶を飲んでいた。
いつまで見張っていればいいのか。
四杯目の紅茶を飲み干した時、ルイスがフットマンに呼ばれて出て行ったので、僕とオリバーだけが残った。
「直ぐにジェイコブ様来られるのかな」
「悪魔祓いは、十数年ほど前に発足されたばかりで、ジェイコブ様は初代。かなりお忙しいとは思います」
「だよね。今までただの犯罪だと思われていた六割は悪魔絡みだって言うらしいし。大変だろうなぁ」
紅茶を飲み過ぎてお腹が張り裂けそうだ。今立ったら、お腹の中で紅茶がちゃぷちゃぷと音を立てるのでは無いだろうか。
本でも持ってくれば良かった。
思わず零れた独り言をオリバーはちゃんと拾ってしまったらしく、お時間ください、とだけ言われ僕だけが部屋に残された。
トランクから滲み出る魔力は増える事はないけれど、減る事もない。微量だがずっと一定の量が溢れている。
「なんか嫌な感じ」
ぽつりと呟くと、扉がぎしりと軋んだ。
オリバーか、ルイスか、それとも他の使用人か。
振り返ると、背が小さく、やけに痩せ細った女の子が立ち尽くしていた。
開け放たれた扉の向こうは、なにやら大騒ぎである。
「君は?」
「え、あの…、アンタ、妖精…?」
「妖精の子。半分だけだよ。僕はリエル」
「わたし、ーーアンタ嫌い」
一瞬、女の子は、とても辛そうに見えた。
直ぐに冷え冷えとした態度に変わったけれど、僕は見逃さなかった。
初対面で彼女は僕が妖精の子であると見破った。すん、と鼻を鳴らすと枯れたような臭い。本能的に察知した。
「悪魔…」
「な、なんで!」
正解だったらしい。とは言え、臭いは薄いし、彼女は悪魔ではないだろう。
近くに悪魔、もしくはそれに近い何かがいる。
可哀想なくらい狼狽えている女の子には申し訳ないけれど、初対面から嫌いと言われて堪えない訳じゃない。
原因が知りたいだけ。
「でも君は悪魔じゃない」
「…」
じとり。
僕を目で射殺す勢いで睨みつけてくる。
僕は代わりにへらへらと笑う事にした。
人が一人通れるくらいに開かれていた扉が勢い良く開いた。
何度か、会った事がある人がそこに居た。
「ジェイコブ様!」
「久しぶりだな、リエル。あまり大きくなってないな。そしてルシア!人様の屋敷を勝手にうろつくんじゃない!」
僕を睨み付けていたルシアはすすっと移動し、ジェイコブ様の足に縋り付く。
細い体はそれだけで随分と隠れてしまうのだった。身体を少しずらして僕をじりじりと睨み付けるのは忘れない。
「リエル、もしかしなくてもルシアが無礼な真似を」
「気にしてないです。なんとなく理由もわかったので」
ルシアは僕を睨み付けたまま、僕から一定の距離を保っていた。
僕が一歩進むと、ルシアは一歩下がる。
「はいはい、子供は仲良く遊んでてな」
ジェイコブ様は投げやりにそう言うと、トランクの方へ足を向けた。
僕とルシアはずっと一定の距離を保ったまま向かい合ったまま。




