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41.マルティーナと防戦


目の前で跪き、婚約を申し出るクロウリーを見下ろし、私は微笑みを顔に湛える。


「勿論、と言いたいところですけど、お断りします」


騒めきは益々膨らむ。

最早誰もが驚きを隠さずにいる。クロウリーも、ジェイコフも。私の後ろに立っているアルノルド兄さんも、きっと。


当初、四人で婚約破棄について話した時は、私が人間である事が前提だった。

人間で無くなる可能性は考慮していなかった。


人間に嫁いだ妖精の話など聞いた事がない。

妖精は万年を生きる者。強固な力と朽ちず老いない肉体を持つ者。

希望を糧に存在をする。


お菓子は好きだがご飯を食べる必要は無く。

睡眠も必要としない。


そして。


「子供、産めるかわかりませんし?」


貴族にとって大事なのは子を為せるか否か。

跡継ぎを産めるかどうかは必要な判断材料にもなる。

妖精の繁殖方法は解明されていない。


クロウリーはぽかんと口を開けて私を見ていたが次第に表情が削げていく。


「だから、断る、と」

「えぇ。何故かここに居る人達には私の姿が見えてますが、私の事が見えない人だって居るかも知れないですし」


そんなお化けみたいな存在を妻として迎えるつもりですか。辺境伯夫人として。

意地悪な言い方にはなってしまったが仕方がない。

ジェイコブとの婚約破棄をすると言っていた時に言っておけば良かったとも後悔した。


『もう人間じゃないから』


構わない、と思った。

私は私で。本質は変わらないのだから。

人間だろうと妖精だろうと、胸を張って生きていける。

迫っていた制限時間が早まっただけ。

早まらせた原因は自分にあるから、家族には謝らないといけないな、なんて。


「恩を仇で返す様で申し訳ありません。クロウリー様。これまでのご助力には深く感謝しております」


頭を下げ、床に視線を落とす。

無茶をするなと言われて居たのに、その言葉に背いた。何も、返せない。

ただ、婚約破棄を手伝ってもらっただけ。


「…前例がなければ、作ればいい」

「え?」


思わず顔を上げると、真っ直ぐに此方を見据えるクロウリーが居た。

此方が思わずたじろぐくらい、真剣で。


「人間と妖精が結婚してはいけない法律は無い」

「それは、そうですね」


クロウリーは立ち上がり、私に近付く。

私はそっと後ろに逃げる。


「人間が妖精になった症例は極めて稀で碌な文献は残って居ない」

「観察するおつもりで?」


じりじりと距離を詰められては距離を作って。

なんだかエリザベスと対峙して居た時の構図そのままじゃないかしら、と首を捻りたくもなる。


クロウリーは此方の問いには答えない。


「子供が出来ないと言い切れるのか、君は」

「いや、それは、あの…多分」


怖い。

なんかもう執念を感じる。

語彙力が落ちる位には混乱している。


「私は、君が良いんだ。他ならぬ、君が」


顔から湯気が出そうな程熱い。

膝から力が抜けへなへなとその場に座り込む。内側から溶けてしまいそう。


「…勝手にしてください」


捻り出した声は萎れていて覇気がない。

クロウリーの大きな身体が私に被さり包み込んだ。


力不足故に今迄の矛盾点を回収しきれない点が否めないですが、次で終わります。

明日の12時に予約投稿済です。

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