36.ジェイコブの決別
「集中しなさい!」
攻撃を受けたと思えないほど、芯の通った鋭い叱責が飛んでくる。
顔色は極限に悪いが、マルティーナは立っていた。こっちは気にするな、と中々厳しい注文だ。
ギリギリの所でまだ続けていた魔法に集中する。今、俺に出来ることはこれだけだから。
魔力がどんどん抜けていく感覚に、汗が流れ落ちる。
魔力は、気力にも繋がる。魔力が底を尽きると、良くて気絶、悪いと死に至る。
魔力が無くては生きていけない。
マルティーナは血の気を失って青ざめたまま、気力を振り絞って、ギリギリの所でエリザベスの攻撃をいなしている。
エリザベスは悪魔の力添えもあり、魔力に底が無い様で、攻撃の手は止まない。
中々攻撃が通らない事に苛立ったらしいエリザベスは、特段大きく魔力を練って、此方に飛ばしてきた。
「この…!」
エリザベスが放った大きな黒い魔力の塊を、マルティーナは両手で受け止めた。
触れた先から、吸収し、みるみる消えていくが、エリザベスは甲高く笑い声を上げた。
「いいのぉ!?その魔力は普通の人間には毒よ!!」
「でしょうね。でも、こうするしか無いのよ。他に被害が出るでしょう?」
「ティナ!止めろ!」
アルノルドが、張り裂けそうな声を上げ、腕を必死にマルティーナに伸ばす。
浮かしかけたかかとは、直ぐに地に縫い止められる。
「ごめんなさいね」
晴れやかに微笑んで見せたマルティーナの体は、まるで砂で出来た人形が崩れるように、その場で散った。
ばしゃん、と床に広がった、マルティーナだったものは、白く、キラキラと眩い光を放つ。
「私の勝ちよ!これで邪魔者はいないわ!でも、…でも、何が残ったの」
エリザベスの彷徨う視線が、俺とぶつかる。
すぐに目を逸らしたエリザベスは、肩を落とし、唇を噛んでいる。
今ならば、隙がある。
咄嗟に魔力を練り上げ、エリザベスに魔法をかける。
精神に干渉し、根付いた悪魔を引き離そうとするが、簡単にいくものではない。
エリザベスは、魔法が精神に乗り込んで来たのを察知し、苦しげに呻き始めた。
どうも、悪魔と深く繋がっている様だ。憎々しげに俺を睨み付けるエリザベスに、胸がじくりと痛むが気にしない振りをする。
アルノルドは床に崩れ落ち、しとどに頬を濡らしながら白く光る砂を必死に掻き集めていた。
ワールヴォル家の末妹。男だらけの兄妹の中、腹違いと言えど生まれた一人の妹。
マルティーナの兄達は、彼女をかなり溺愛していた。
マルティーナの立っていた場所には一際高く砂の山があった。
アルノルドがその山を崩していると、大きな卵の様な物が其処に鎮座していた。
白く、うっすらと外側に巡る様に入った模様は細やかな輝きを帯びている。
大きさは、人の頭二つ分くらいで、楕円のそれは砂を台座に収まっている。
「ティナ…」
アルノルドが手を伸ばした時に、卵の様なモノにぴしりと亀裂が入った。
これからの話は賛否分かれるかな、と思って随分悩んだのですが、悩んでも話は進まないので書くことにしました。
もう暫く話は続きます。お付き合いくださると幸いです。




