33.クロウリーの回想
隙をついてエリザベスの元に向かおうとするマルティーナを抑えつつ、考える。
どうするべきか。
エリザベスが激昂し、魔の手の者の力を借りると言う推測は勿論していた。
だが、問題がある。
私を筆頭に、今回の面々が、戦闘に重きを置いた魔法しか使えない事だ。
辛うじてジェイコブは精神作用する魔法も使えるが、人にとり憑いた何かを祓う様な魔法は相当な魔力量を要す。
最後は魔力量勝負にもなるので妖精の加護を受けていないジェイコブでは少し危険だ。
先日、作戦会議を開いた時のことをふと思い出す。
蔵書室に集い、脱線しつつもエリザベスの件をどう対処するかを考えた。
本来ならば、マルティーナとジェイコブは円満に婚約解消するつもりではあったが、そう簡単に話は済まなかった。
いっそ婚約破棄を堂々としてしまおうと言う結論に行き着き、それに踏まえて渦中の二人は私とアルノルドに協力を求めた。
ジェイコブが浮気をしたので、マルティーナからの婚約破棄の提案。
そして、マルティーナは私と婚約を結び直すと言う話の口裏を合わせて欲しいと言ってきた。
「マルティーナ嬢との婚約は、その時だけか?それとも」
「え?どういう事です?」
私はジェイコブが改心する前に、ワールヴォル家に手紙を送っていた。
自分とマルティーナの婚約を打診してはくれないか、と。ジェイコブと婚約していた状態だったので色の良い返事は返って来なかったが。
「私は君をメルストン家に迎えたいと思っている」
仮では無く、本当の婚約者になって欲しい。
そう伝えるとマルティーナは目を丸くして驚いていた。今迄そんな素振り無かった、と言いたげだ。
「俺は良いと思うけど。父様と母様に話を通すつもり」
「前の私ならともかく、今は戦闘ではあまり役に立たない私です。役に立つとは到底」
「辺境伯夫人は別に前線に出たりしない…」
何故、戦う前提なのか聞きたいが、辞めておく。既に話は脱線しているのだ。
「マルティーナ嬢は頭が良いし、物怖じもしない。立ち向かう勇気を持っている」
「高く評価して頂き恐縮です。少し、考えても?」
ジェイコブは、不思議そうにマルティーナを見ていた。
「良いじゃないか。なるようになるし、どうにかするだろ、お前なら」
「それはそうだけど、今は体力がないから無理は出来ないじゃない」
「無理しない程度にやれよ」
やいやいとジェイコブとマルティーナは言い争いを始める。
私とアルノルドは仲良く喧嘩する二人を放置して話を進めることにした。
「クロウリー様、安心してください。マルティーナはきっと良い答えを出しますよ」
「だと良いんですけど」
やはり付き合いが長いからかジェイコブとマルティーナの言い合いは気心の知れたそれだ。
無理に婚約を破棄しなくても良いのではないかとも思うが、それは当人同士の話であり、私が口を挟む事ではない。
積み上げた本を崩しながら、適当に手に取る。
表紙には禍々しい魔物の絵が書かれている。
「人を操る、悪魔」
何となく開いたページに載った文字を思わず口にしていた。
ご都合主義っていい言葉ですよね…。




