32.マルティーナと制止
エリザベスは悪魔の魔力に包まれた。
黒く、禍々しく、憎悪や嫉妬などの負の感情で構築されたもの。
肌で感じるその魔力はじりじりと焦がす様だ。
無茶はするなと言われたが、私は最初からその約束を守るつもりは無かった。
守れる筈が無いと思っていたし、実際に、エリザベスの暴走を前にして、確信に変わった。
もう、話が通じない。
念の為にとあれこれ手を回したが意味が無いかも。
溜息を飲み込んで、ジェイコブを後ろに突き飛ばし、私はエリザベスから放たれている黒い魔力の中に飛び込む。
…つもりだった。
腕を引かれ、たたらを踏む。
ちらと後ろに目を向けると、右手で私の腕を掴み、左手でジェイコブを支えるクロウリーがいた。
クロウリーは端正な顔を歪めて、舌打ちをしそうな勢いで叱責を始めた。
「マルティーナ嬢!無理をするなと言った筈だ!」
「いや、あの…はい。すみません」
余りの勢いに尻すぼみしてしまう。
ジェイコブも、クロウリーにギョッとしている。温厚な人の怒る姿は強烈だ。
私も凍りついた様に固まってしまう。
クロウリーは直ぐに表情を隠し、私の頬に手を添えた。
彼は高い背と比例して手が大きい。私の顔が片手で掴めそうな程。
「いいか、君一人の戦いじゃない」
真っ直ぐに見つめられ、頷くしか無かった。
背の高いクロウリーは、背の低い私と目線を合わせるために片膝をついている。
優しい人だ。
だからこそ、一人で終わらせたかった。
でもきっと、クロウリーにはお見通しだったのだろう。
命と換えてでも、差し違えてでもエリザベスを止めようとしていた事は。
頬をやわやわと揉んでくる手は、わたしを咎める様に偶に軽く抓ってくる。
クロウリーの気が済んだのか、彼は立ち上がり、エリザベスを包む黒い魔力を眺める。
そろりと忍足でエリザベスへと寄ろうとしたが、目敏いクロウリーは私の頭に手を置いて動きを制してきた。
これ以上クロウリーを怒らせるのも得策では無いので、二歩程後ろへ下がる。
横目で見えたジェイコブは、呆れた様に肩を竦めていた。声を発さずに「馬鹿」と言われてしまう。
「さて、どうしようか」
クロウリーの一声で、緊張が走る。
エリザベスは、黒い魔力に身を包んだまま、ただ口元を歪めていた。
間が空いてしまってすみません…!
結末は決めたので後はそこまで持っていくだけです!頑張ります!




