29.マルティーナの始動
ジェイコブと和解し、クロウリーとアル兄さんの協力の元、学園主催の夜会に向けて話を終え、数日が経った。
その間に、クロウリーはワールヴォル家に手紙を出し、両親はその手紙の内容に了承してくれた。
渋々ではあったが。
ジェイコブもブロード家当主、すなわち、自身の父親とあれこれ話したそうだが、状況は芳しくない。
婚約解消は頑固に認められず、結局婚約破棄をする話に纏まっている。
すっかり肉が落ちてしまった私は、夜会用に仕立てていたドレスのサイズが合わなくなってしまい、大慌てで余っている部分を詰めて夜会に挑む事となった。
そして、今日が夜会当日。
学園主催の、生徒達が慣れるためにと行われる夜会。
三学年が揃い、学園の会場には色とりどりのドレスが咲いた。
ジェイコブと会場に入った私達は予想通り、注目を浴びる事となる。
ジェイコブが改心し、マルティーナとの仲を取り戻したのはすっかり学園中の噂になっている。
少し遠くから、目に眩しいほど煌びやかなドレスを見に纏ったエリザベスの鋭い視線が突き刺さる。
貧乏男爵家令嬢と言うのは、同情を引くための布石に過ぎない様だ。
ジェイコブはエリザベスにドレスを贈ってはいないし、他にエリザベスにドレスを贈る者はいない。
身体中に散りばめられた宝石の数は相当に多く、金があることを暗に示している。
エリザベスと目を合わせず、ジェイコブはアル兄さんとクロウリーの元に向かった。先に会場入りして待っていたらしい二人は、私達に微笑んだ。
「ティナ、体調は大丈夫か?無理はするなよ」
「大丈夫です。ご心配ありがとうございます、アル兄さん」
微笑んで見せると、アル兄さんは一瞬疑うように目を細めたが、何も言わずにいてくれた。
妖精達からも怒られた私は、魔力の補充をして貰えなかった。
これ以上は、妖精に孵ってしまうのだと、リアを筆頭に拒絶された。
まだ、人間として生きていて欲しいと。
妖精に孵るというのはどう言う事か、私にはよく分からない。
私にだけ教えてくれないのだ。家族も、妖精達も。
「無茶はするな。俺もいるし、クロウリー様もな」
「ジェイコブも晴れて妖精の祝福を得たからな」
そう、ジェイコブも弟のデニスとクロウリーの付き添いの元、妖精界に赴いたらしい。
妖精達は、ジェイコブの事情は分かってはいたが、私を虐めた事もあり、加護は与えれないが祝福を贈ったのだとクロウリーから聞いた。
祝福は加護と違い、妖精達が直接力を貸し与えてくれるものではない。
だが、祝福を得た者は、常人と比べ魔力量が増え、健康になる。
妖精達からマルティーナの事を頼まれた、と後日報告してくれたジェイコブは晴れやかに笑っていた。
さて、パーティも始まろうかと言う時、エリザベスが動いた。
高いヒールを打ち鳴らし、怒りに染まりきった表情で私に詰め寄る。
「何をしたの!貴方が、貴方でしょう!」
「ご機嫌よう、エリザベス様。なんの事でしょう?」
私は表情を全く表に出さず、背筋を伸ばして毅然とした態度で迎え撃つ。
とは言え、かなり背の低い私はヒールを履いているエリザベスを見上げる事になる。
歯軋りの音が聞こえるほど強く奥歯を噛んでいるエリザベスは、正気では無いようだ。
どこか視点が合わない。身体に黒いオーラを纏っている。
「後ろめたい事は何もしてません。ジェイコブは私の婚約者です」
今は、まだ。
不穏になりつつある空気に生徒達がこちらを注視している。
こちらから動かずともエリザベスから動いてくれたのは、予想通りではあるが助かる。
これで、エリザベスが騒ぎを引き起こした張本人となる。
「今更婚約者面?ずっと僻むだけでいたアンタが?」
冷たく嗤うエリザベスは、勝ち誇った様にしている。
エリザベスが動くたび、宝石がしゃらんと鳴る。
私がランティーヌ家に圧力をかけ生活に窮していたと言う噂がデマである事を証明してくれる宝石達。
私は今日も身に付けている記憶の瞳をそっと撫でた。
「エリザベス様、貴方に申し上げたい事がございます」
貴方の罪を、私の罪を、そして、真実を。
仕事が繁忙期で書くペースが落ちてしまって申し訳ございません。
未だ、最後の結末をどうするか二択で悩んでます。
可能な限り、幸せな展開にはしたいです。




