25.ジェイコブと兄の事情・前
マルティーナの両親との話が終わり、マルティーナの部屋に戻った。
まだ顔色は悪いが、マルティーナは机に向かっていた。
「体調は?」
「大丈夫。お父様達はなんて言ってた?」
「あぁ、ブロード家に婚約解消の話を持ちかけるって」
「そう」
マルティーナは白い睫毛を伏せた。
開いていた本を閉じ、机の端に積み上げられた本の山に加えた。
「上手くいけば良いわ。でもダメだったら婚約破棄の大立ち回りを演じるから覚悟しておいて」
ブロード家が拒む事があれば、と言う事だろう。
とは言え、伯爵家からの申し出を子爵家が断れるとは思えない。
まだ、俺とマルティーナの婚約に裏があるのだろうか。
疑問が顔に出ていたのか、マルティーナは首を捻っていた。
何事か考える素振りを見せ、口を開いた。
「少なくとも、ブロード家はワールヴォル家の後ろ盾が得られなくなるから、すんなり受け入れるとも思えない」
「それはそうだが。…兄が絡んでそうだ」
おかしな点は、ある。
病弱で、遠縁の親戚の家に身を寄せ、静養している兄。
優秀だと聞いたことはないが、愚鈍だと聞くこともない。
仮定ではあるが、ワールヴォル家がマルティーナとの婚姻を次男とさせる代わりに、長男が家督を継ぐことに手を貸しているとしたら?
マルティーナに対抗する為に必死に勉強し、剣や魔法の鍛錬をした俺の方が兄よりも優れているだろう。
必ずしも長男が継ぐ決まりがある訳ではない。
俺でも、良い筈なのだ。
「ジェイコブのお兄様、えぇと、ギデオン様ね」
「もう顔も覚えてない。俺が幼い頃から遠くで静養している」
マルティーナは会った事も無い。
眉根にシワが寄っている。
「推測だからなんとも言えないけど。ジェイコブとの婚約を呑む代わりにギデオン様がブロード家を継ぐ後ろ盾にワールヴォル家が付いてるかも知れない」
「やっぱりそう思うか」
この話は両親に聞かないと分からない。
窓の外はすっかり暮れ、空に星が浮かんでいる。
「今日は帰る。無理はするなよ」
「ありがとう。ジェイコブも帰り道気を付けて。馬車は用意してあると思うけど」
ティベリオ様とアメリア様の話を聞いた後だと、マルティーナは今にも消えそうに感じた。
青白い肌や肉付きの薄い手足。
マルティーナは俺を見送ろうとしたが、ベッドに寝かせて屋敷を出た。
マルティーナの言っていた通り、ワールヴォル家の馬車が用意されていたので、乗り込んでブロード家に向かう。
ブロード家に戻ると、両親から呼び出された。
この流れ、前にもあったな、と思いつつ居間へと足を向けた。




