26.ジェイコブと兄の事情・後
前と同じ様に、両親が揃って俺を待っていた。
苛々している父は、酒を飲んでいる。しかも、かなり濃いやつを。
匂いが強く、一瞬くらっとした。
「ワールヴォル家から、婚約解消の話が来た」
「えぇ、マルティーナと話し合い決めました」
「貴様はブロード家の役に立つ気も無いのか!」
グラスに半分程入っていた酒を勢い良く煽り、がん、と激しい音を立て机に叩きつける父。
俺は、対称的に冷ややかにそれを眺めていた。
母は、何も言わない。
「マルティーナと婚約して、得られる物は後ろ盾くらいでしょう。無くても今まで通り」
「ギデオンを当主に据える代わりにお前との婚約を認めたんだ」
つまり、俺とマルティーナが結婚しなければ、兄は家を継げない。
暗にそう言っている様に聞こえる。
「別に、私は家を継ぐ気はありませんし。兄さんが継げば宜しいかと」
「ギデオンは、体が弱い。ワールヴォル家の支援で健康になっているんだ」
何処かで聞いた風な話だ。
母は変わらず、黙っている。
下を向き、膝の上で手を握り締めて。何を考えているかは検討もつかない。
「医者でも紹介して貰ったのです?それならば引き続き診て貰えばいいじゃないですか」
他に、融資でも受けていれば話は別だが。
ブロード家は特別裕福では無いが、貧困に喘いでいる訳でも無い。
平民より良い暮らしはしている。
「ワールヴォル家に毎月援助をして貰っているんだ。ギデオンの治療費はかなり高額だ」
まさかだった。
今迄そんな素振りなど全く無かった。
そこまでして、何故兄を当主に据えたいのだろう。
もしかして、マルティーナは知っていたのかも知れない。
だから、承認されない場合、婚約破棄を演じる事になるだろうと言ったのだとしたら。
「何故、兄さんをそこまでして当主にしたいのですか」
「家を継げば、貴族として生活が出来る。仕事の補佐はお前がするんだ」
「つまり、お飾りの当主と」
父は俺の言葉に顔を真っ赤にし、グラスを振りかぶった。
あぁ、父譲りか。激情に身を任せ暴力を振るうのは。
首を軽く横に倒し、グラスを避ける。
ガラスの砕け散る音が耳に刺さる。
「世の中、思い通りにならないなんて私だって知ってますよ」
もううんざりだ。
俺はいつまで馬鹿にされ、歯を食いしばって耐えればいい?
両親を一瞥もせず居間を出る。
穴が空いた様に胸が虚だ。
きっと、この穴を埋めるのは。
…真摯に俺だけを見つめてくれるのは。
涙を溢すまいと食いしばった歯がギリリと鳴った。
出逢いからやり直せたなら。
「兄様、大丈夫。妖精達は優しいから」
爪が食い込むほどに強く握りしめた拳をデニスが撫でた。
居心地の悪い家の中で、小さな弟だけが俺の味方だった。
最初決めていたジェイコブの話と違う方向に進んでいます。
どうにか彼も幸せにしたいです。




