24.ジェイコブと真実
ティベリオ様は口を噤んでしまった。
アメリア様が不安げに瞳を揺らしている。
沈黙は重く、なにを話すべきか、なにを聞くべきか、思考が鈍ってしまっていた。
形にならない言葉がぐるぐると頭を埋め尽くす。
「…ティナは、私の子だが、アメリアの子ではない」
沈黙を破ったのはティベリオ様だった。横に座るアメリア様は肯定の意を示し、頷いていた。
「ティナの母親は、ティナを産んで直ぐに命を落とした」
「…そうなんですね」
ずっと、アメリア様がマルティーナの生みの親だと思っていた。
俺が、聞かなかっただけなのだろう。
それに、マルティーナはアメリア様を実の母親の様に慕っている。アメリア様は我が子の様にマルティーナに愛情を注いだのだと分かる。
「不思議なことに、ティナの母親、カーラはティナを産んだ後、魔力が空になっていた。産声をあげた我が子を一目見て息を引き取った」
アメリア様は緑目を宙に向けた。
まるで、其処に何かいるみたいに。
「今なら、わかるのです。カーラ様はけして病弱ではありませんでした。…ティナに力を与えたのでしょう。あの子は、身体が弱い」
「つまり、ティナを生かすために自らを犠牲にした、と?」
だとすれば、魔力が空になっていた理由が付く。
アメリア様は優しく微笑んで頷いた。
魔力は生命の生命線でもある。
魔力は貴族や平民も保有している。量に差はあれど、魔力が枯渇すると生命を維持することが難しくなる。
魔力の譲渡は技術を有する上に、下手すると命を落としかねない。
「ティナは成人出来ないかも知れない。そう医者に言われました」
「初耳です。ですが…」
「カーラ様の魔力で普通の子と同じ様に育ちました。妖精に出会い、加護を受けてからは丈夫になりました。ですが、いつか綻ぶもの」
血を吐いて倒れたマルティーナを思い出す。顔色は悪く、意識を手離した姿を。
「ティナには無理をさせない様、領地に移って貰おうとした。君と結婚をし、ワールヴォル家の領地に家を建て、其処に」
「家督を継げない私であれば、領地に移ってもおかしくないから…」
「ティナには君と結婚して領地に移る話をしたのは最近だがね」
ティナの事だから、自分の我儘で君との婚約が決まったと伝えたのだろう、と優しく問うティベリオ様にはお見通しだった。
確かに、マルティーナは夜会が苦手だからだとは言った。
本当は自分の静養の為だとは知らなかったのだろう。マルティーナ自身は、自分の身体の事を気に掛けている様子はなかった。
知らされていないのだろう。
己が、母親から魔力を分けて貰ったことや、成人出来るか分からないと言われた事。
「ティナは、学園に入ってから頻繁に妖精界に足を運んでいる。妖精達から力を分けて貰っているのだろう」
「それは、あまり良くない事なの。いずれ、人間ではなくなってしまう。妖精に、孵ってしまう」
「だからこそ、君と領地に移って欲しい…」
ティベリオ様は俯き、苦しそうに吐き出した。
「…だが、この国では成人しないと籍は入れられない。学園を卒業する歳が成人。このままだと卒業も叶わないだろう」
ティベリオ様は顔を上げ、目尻に涙を浮かべ、ぎこちなく微笑んだ。
「せめて、見守って欲しい。婚約解消についてはこちらからブロード家に話を通す。親の我儘で君に、迷惑をかけた。…申し訳ない」
ティベリオ様とアメリア様は俺に頭を下げた。
固く握りしめた拳の上に、哀しみの雨が、降っていた。
少し前に終わりが近くなってきたと書いてましたが、考えていた展開から変えているのでまだ続きます。
稚拙ではありますが、ぜひお付き合い頂ければ幸いです。




