22.ジェイコブと妖精の謎
夜が明け、朝日が登る。
カーテンの隙間から差し込む光は暖かく、神聖なものに思えた。
夜通し、ぽつりぽつりと言葉を交わし合った俺とマルティーナは、昔ながらの友人の様だった。
きっと、本来有るべき姿だった。
そして、ここに愛情があれば、望むべき関係性だった。
繋いだ手は離れ、触れ合っていた肩もすっかり冷えていた。
でも、訪れる沈黙や、二人が作り出す雰囲気は悪いものでは無い。
心安らぐまではいかないが、気を抜くことは出来る。
お互いに、認め合ったのだ。
自分の否を、相手の咎を。
自棄になって傷付けあって、落ち着いて手を取った。
お互いに許されるとは思っていない。多少の蟠りは残っても、友人と呼べるものにはなった。
相変わらず、扉はがっちりと閉じたまま。
不思議な力が作用しているのか、扉を叩いても誰にも届かず、壊そうとしても、傷一つ入らなかった。
「妖精のお節介ね」
「妖精か。本当にいるんだな」
「ふぅん、信じるの?」
「…デニスがいたって言ってたんだよ」
自分の時は信じなかった癖に、とじとりと睨まれる。
悪いとは思ってる、そう素直に言うと別にいいけど、と返ってきた。
「デニスから聞いたんだ。何か言われた?」
「マルティーナとちゃんと話したほうがいいって諭された」
「優しい子。妖精の好む子ね」
貴方と違って。
一々毒を吐くマルティーナに、怒りは感じなかった。
「お前こそ妖精取って食べそうな見た目している癖に」
「残念ながら、私も妖精に好かれてるから」
薄い胸を張るマルティーナ。
本当に薄い。
出会った頃とあまり変わらない身長と体型に違和感が首を傾げた。
だが、他人の身体のことを聞くなど、婚約者と言えども不躾にも程がある。
聞く事は叶わず、マルティーナに不審に思われない程度に観察する。
「なに、そんなにじろじろ見て」
「別に」
「やだー、やらしい事でも考えてたんでしょー」
「お前に発情出来る要素無い」
あからさまに棒読みで言い切ったマルティーナに軽口で返す。
気にした風も無く、それ以上は詮索して来なかったマルティーナだが、徐に口を開いた。
「ジェイコブと婚約して少ししてからね、成長が止まったのは」
聞けば、その頃から無茶苦茶な生活を送り始めたらしい。
睡眠時間を削り、食事もろくに摂らず、没頭して勉強をしていたと。
何でそこまでするのか、理解は出来ない。
文字通り、命を削って。
「最近はもう、無理は出来ないわ。ちょっと何かするだけで、きつくって。流石に血を吐いたのは初めてだけど」
「流石に肝が冷えた。デニスの事もあるし」
一瞬マルティーナは不思議そうに俺を見たが、すぐに合点がいったのか声を上げた。
「妖精に何か聞いたのね、デニス」
「多分。お前がかえるとかなんとか」
「ふぅん…」
マルティーナは形容し難い表情を浮かべていた。
困った様な、悲しんでいる様な。
だが、マルティーナはすぐに表情を消した。
「まぁ、よく分からないけど。デニスにはお礼を言わないとね」
「そうだな」
それからは、取り留めのない話をした。
振り返ると、思い出せない様な話だった。水が流れる様に自然と内容が抜けていく、そんな話。
部屋から出ることが出来た頃にはもう夕方になっていた。
マルティーナの両親に今までの非礼を詫び、部屋が閉ざされた事を説明した。
マルティーナは、俺との婚約を解消したいと申し出た。予想通り、マルティーナの両親は反対したが、俺と話がしたいと言い出したので、マルティーナは退がった。
部屋には、マルティーナの両親と俺だけが残った。
そして、徐にマルティーナの父親が頭を下げた。
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