21.ジェイコブの和解
まるで、この世から切り離されたみたいだ。
しんと静まり返った部屋の中で肩を寄せ合っていた。
傷付いた鳥が身を寄せ合う様に、ぴったりと。
「私達、何処から間違ってたんだろう」
「わからない。目を合わせなかったから」
お互いに、悪いところはある。
お互いに、許せるものではない。
だからこそ、話す必要があった。
「俺はさ、マルティーナに馬鹿にされていると思っていた」
「私はね、ジェイコブに嫌われていると思ってた」
ぽつぽつと言葉を交わして行く。
すれ違っていた感情は漸く顔を合わせた。本当に、言葉が足りなかったのだと実感するには充分だ。
「認められたかった」とマルティーナ。
「認めたくなかった」と俺。
隣に立つには、努力をしなければいけない。完璧でいなければいけないと思い込んでいたマルティーナ。
そして、マルティーナが完璧を目指せば自分との差を感じ劣等感に苛まれていた俺。
「貴方との婚約を推し進めた理由、知ってる?」
知らない、と素直に答えると、マルティーナはそっと俺から視線を外した。
握られた手が冷たい。
「私のせい。次男の貴方だと家を継ぐことはないから。結婚したらワールヴォル家の領地に家を貰う予定だった」
「家を継がないと都合がいいのか?」
「ドレスも、夜会も、好きじゃないの。家を継がなければ、最低限で済むから」
マルティーナは口を噤み、小さく頭を振った。
ゆっくりと目を開き、俺に向き直る。
「ごめんなさい、私の我儘で。ねぇ、婚約破棄をするわ」
「え?」
待ち望んでいた婚約破棄だが、手放しで喜べなかった。
マルティーナは困った様に眉尻を下げた。
「お互いに両親の反対はあると思う。私がなんとかするから安心して。エリザベスと仲良くね」
小さな手が離れた。
肩に触れていた温もりも。
「お前は、…マルティーナはそれで」
「私は家を出る。前々から考えてた」
料理も出来るし、治癒魔法も使えるし、孤児院の用心棒とかやるのも良いかも。
そう言って笑うマルティーナは年相応に見える。
「現実は難しいだろうけど。多分他の婚約者をあてがわれる」
「…」
貴族の娘として生まれた宿命。
家を繋ぐ為に何処かへと嫁ぐ事になる。
おいそれと家を出るなんて出来やしない。
「その前に卒業しないとね」
「そうだな」
暫し、沈黙が訪れた。
不思議と、沈黙が苦痛ではなかった。
今までマルティーナと二人きりの沈黙は苦痛でしか無かったのに。
「もうすぐ、学園主催の夜会があるわ。エリザベスの付き添いするの?」
「いや、マルティーナと参加する」
「どうなっても知らないからね」
顔を顰めたマルティーナは忠告とばかりに吐き捨てた。
あんなにエリザベスにべったりだったのに、と思っているのだろう。
ただ、マルティーナとの時間は少ないから。
残り時間は少ないから。
本能的に、それは分かっていたから。
マルティーナの話で、彼女があえて語ってない部分は後日補足したいです。




