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19.クロウリーの立ち位置


小さな身体は軽い音を立て地面に倒れた。

一瞬遅れて悲鳴が上がる。


急いで駆け寄ってマルティーナの身体を抱き起こすと微かに震えていた。

耐えず咽せる彼女の口からごぽごぽと血が流れていく。

体温がかなり低く、私は制服の上着を脱いでマルティーナの身体を包んだ。


「マルティーナは大丈夫なのか?」

「かなり危ないと思う。早く保健室に連れて行こう」


ジェイコブが生徒達を掻き分けてやって来た。汗で額に前髪が張り付いている。

私はマルティーナをジェイコブに預け、保健室へ向かう様に促す。


ジェイコブはマルティーナを抱き上げ、辛そうな表情を浮かべていた。


「ほら、早く。マルティーナ嬢を保健室へ」

「あ、あぁ。…こんなに、軽いんだな」


マルティーナは昏睡しており、身動ぎ一つしなかった。

ジェイコブは出来るだけマルティーナを揺らさない様に気を付けつつも早足で保健室へと向かって行った。


教師も少し遅れて二人を追いかけて行った。


混乱と怯えの残った演習場。

ちらちらとエリザベスを盗み見る生徒達。エリザベスは顔を青くし、尻もちをついている。


「私は何もしてません…、ジェイ様、どうして…?」


驚きに染まった瞳は虚ろに揺れている。

いつもはエリザベスをマルティーナから庇う様に周りにいる生徒達もエリザベスから距離を取っている。

エリザベスは何もしていない。それは間違いない。

マルティーナに無理をさせるなと忠告してきた妖精達なら何故マルティーナが倒れたのか説明出来るのだろうか。


「マルティーナ様に私の魔法は当たっておりません!ねぇそうでしょう!」


周りの冷たい視線に金切り声を上げるエリザベス。一緒になってマルティーナを囲んでいた筈の生徒は素知らぬふりをしている。


「マルティーナ嬢は朝から調子が悪かったよ」

「…!ほ、ほら!」


少し可哀想になったので助け舟を出すと、エリザベスは顔を上げて私を見上げた。

だが、最近マルティーナと行動を共にしている私に対して良い感情は持っていないらしい。一瞬表情に翳りが見えた。


「私は休む様勧めたが、マルティーナ嬢は固辞した。無理しない様手助けするつもりだったが乱戦でどうしようもなくてね」

「私は悪くありませんわ!休まなかったのだから大丈夫だったのでしょう?」

「無理したから倒れたんだろう?」


あくまでも自分は悪くないと主張したいらしい。

エリザベスは今や怒りで顔を真っ赤にしている。思い込みの激しい性格の様だ。拉致があかない。


「そもそも、君が悪いなどとは一言も言ってない」


エリザベスは漸く口を閉じた。

ギラギラと怒りの篭った鋭い視線が突き刺さる。本当になんなんだ。


鐘が鳴り、授業の終わりを告げる。


各自教室に戻り、午後の残った授業を受ける。

全ての授業を終え、保健室に向かった。


マルティーナはまだ目覚めていないらしい。

ジェイコブはマルティーナの眠るベッドの横に置いた椅子に腰掛けていた。

私の姿を認めると、困った様に微笑んだ。


「まだ、目覚めてはいないよ」

「そうか。容体は?」

「静かに寝ている」


ベッドに寝かす前に清めたのか、口周りにべっとりと付いていた血が消えていた。

よく見ると私の制服に包まれたまま寝かせられている。まるで子供の様だ。


その後、ジェイコブと一言二言交わし、帰路に着く。


そして、翌日、マルティーナもジェイコブも学校に現れなかった。


終わりが近くなってきました。

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